24.スタンピード
酒に酔ったドラゴンはクレタの街近郊の森でツマミを捕食し始めた。
森からは犠牲となる魔獣達の悲鳴のような遠吠えが聞こえる。
森の魔獣達を捕まえて食べてるのね……ということは、ドラゴンさんに毎日お酒を飲ませれば、酔って魔獣を食べてくれるかも……
私はニヤリと微笑み、グレースと食事をしているリアムへ手をかざす。
「リアム、ホプキンと一緒に蒸留酒を作って。小麦やイモ類でできるから」
「酒のことならワシに任せるぞい」
ホプキンは赤ら顏でヨロヨロとリアムに近づき、彼の肩を抱く。
「リアム、お前も飲め―!」
うーん……明日はリアムも二日酔い決定ね。
私は宴会に来ている仲間達を見回してビシっ指を差す。
「これより一週間、ずっと宴会よ! みんなドラゴンさんを逃がしちゃダメ、飲ませて、飲ませて、飲ませるのよ!」
ツマミの魔獣を食べ終わったドラゴンが空中を舞って、庭に降りてきた。
ホプキン、リアム、シド、ジドウ、男四人が交代しながらドラゴンの酒の相手をする。
私、グレース、レイラの三人は、邸の使用人が用意した料理を食べながら楽しく談笑に浸った。
《こんなに楽しい日は初めてだ。気分が良いぞ》
「この街にずっと居てくれてもいいのよ。街でお酒も作っていく予定だから」
《それでは甘えさせてももらおう。我はレッドドラゴンのガイアだ。よろしくな》
これでレッドドラゴンさんをゲットだわ!
それから宴会は一週間続き、クレタの森の周辺の魔獣達は全てガイアの胃袋へと入った。
そして邸の裏庭は、ガイアが樹木を運んできて、立派なドラゴンの巣となった。
《エマよ。『暗闇の森』にはまだまだ多くの魔獣が潜んでいる。我の縄張りである、このクレタの街には魔獣達も入ってこないが、スタンピードが起これば、他の地はわからぬぞ》
「周辺の街や村には、クレタの街へ避難するようにって、街の者達が触回っているわ。だから大丈夫だと思うんだけど……」
辺境の街と言っても、行ったことがあるのはネージンの街ぐらいなのよね。
薄情かもしれないけど、他の街まで守っている余裕なんてないわ。
でもルーカスのいるバルナレス伯爵領が気になるけど……。
「ガイア、バルナレス伯爵領の領都に仲間のルーカスがいるの。何とかならないかな?」
《良かろう! 仲間のレッドドラゴンを呼んでこよう。その代わり、仲間のための酒を用意するのだぞ》
「お酒ぐらい、幾らでも用意するわ。ガイアだけが頼みなの。お願いよ」
《わかった。期待して待っておれ!》
やっぱりガイアってチョロ……いやいや、ここは感謝しなくっちゃね……心からありがとう!
ガイアは巣から舞い上がり、『漆黒の森』の方面へと飛び去っていった。
私は邸の外へ走って、リアムとホプキンがいる錬金工房の倉庫へ向かう。
倉庫の中へ入るとリアム、ホプキン、ジンベ、ゴンベの四人が蒸留装置の前に佇んでいた。
私は四人へ向けて両手を広げる。
「ガイアが仲間のドラゴンを応援に呼んできてくれるって。だからお酒がたくさん必要なの。蒸留装置を沢山作って」
「うむ……蒸留装置を作るのはよいが、小麦やイモ類の備蓄は大丈夫かのう? 機械があっても原料がなければ酒は作れんぞい」
うーん、街の外から沢山の人達や亜人や獣人も集まってきている。クレタの街の備蓄もいつまで保てるかわからない……
「やっと私達の出番のようね! 協力させてもらおうじゃない!」
後ろを振り返ると、倉庫の入口にシーファ、ラーファ、エラの三姉妹が立っていた。
ラーファの肩に乗っているエラが両手を腰に当てる。
「種さえあれば、私達が小麦でも果実でも実らせてあげる。だからドンドンお酒を作って」
「ホント? めちゃ嬉しいありがとう!」
「世界樹のお母様の力は、こんなものじゃないんだから!」
え……エラのお母さんって……世界樹!?
あまり深く考えてはダメよ!
今はスルー、スルー、聞かなかったことにしよっと!
ゴンベ、ジンベ、ドライアドの三姉妹は畑へと走っていった。
ガイアが裏庭から飛び立って四日、太陽が輝く中、ガイアは邸へと帰ってきた。
《仲間達に応援を頼んできたぞ。酒が飲めるならと、仲間達は街を守ることに承諾してくれたわ》
「そうなのね……お酒なら今、たくさん作ってるわ。だから安心して」
うーん、ドラゴン一体が飲むお酒の量ってどれぐらいなんだろう?
まさかお酒が足りないと言って、暴れたりしないわよね……
その時はルーカスに頼んでバルナレス伯爵領から酒を運んでもらえばいいかな。
ガイアが邸へ戻ってきた三日後、スタンピードは起こった。
ガイアの言った通り、クレタの街の敷地に被害は全くなく、魔獣達は外壁の周囲を通り過ぎて進軍していく。
スタンピードの乗じて街を襲おうとしたトロール族、オーク族、オーガ族の3種族達は、街の外壁を這い上って外壁の上に登ろうとした。
しかし、クレタの街に集まった亜人や獣人達は力を合わせて、三種族を外壁から突き落とす。
竜人族は空を滑空し、三種族へ向けて手投げ弾を投入していく。
チュドーン!
ドォカァアーン!
ガイアは空を飛びながら魔獣達に向けて吼える。
ギャァオー! ギャァオー!
《ここは我の縄張り、我の敷地! 立ち入った者には容赦はせぬぞ!》
ガイアの雄叫びに怯えた魔獣達は、街の外壁を壊すことなく通り過ぎていく。
三日三晩続いたスタンピードは四日目の朝にピタリと止まった。
第三外壁の上に登った私は周囲の景色を見て驚きの声をあげる。
「何なの、これ? ネージンの街へ続いていた森が荒野になってるじゃない!」
スタンピードの魔獣達はクレタの周囲にあった森の樹々を薙ぎ倒し、樹々は粉々に砕かれ、地面は荒地と化していた。
こんなのどうやって復元すればいいのよ!




