22.ドラゴンの邂逅
スタンピードの話しを聞いてから、邸のみんなは忙しく走り回っている。
ルーカスはバルナレス伯爵領へ戻っちゃったし。
グレースも、ホプキンも、リアムも、ジンベも忙しいもんね。
みんなに迷惑をかけないようにしないと……
私は廊下をそーっと歩いて、シドの部屋の扉を開ける。
部屋の中を覗くと、レイラ、シド、ジドウに三人が話し合っていた。
私の姿を見て、レイラが真剣な表情に変わる。
「スタンピードが起こるんでしょ。私達にも手伝えることある?」
「俺達もできることがあったら手伝うが」
「何でも命じてくれよ。何でもするからさ」
やっぱり三人もスタンピードが心配なのね。
私はレイラ、シド、ジドウに三人の顔を見回して、大きく頷く。
「ありがとう、それじゃあ頼もうかしら。シドにしかできないことなんだけど、私は魔族領まで連れていって」
「「「魔族領!?」」」」
レイラ、シド、ジドウの三人は目を大きく見開いてのけ反った。
いきなり魔族領へと言われても、ビックリするわよね……
私は身振り手振りを加え、自分の部屋で考えていたことを説明する。
「――だから全て魔族が原因なの。だから魔族と話しをしに行きたいの」
「エマの言ってることもわかるわね。『漆黒の森』で 魔族が活動を活発化しなければ、『暗闇の森』の三種族は大人しかったんだものね。三種族が暴れているからスタンピードが起こるわけだし……」
「でもさ、すでに『暗闇の森』は三種族が占拠しちまってるんだろ。今更、魔族と話し合っても遅いんじゃねーかな?」
「何もしないよりはマシでしょ。ちょっとはエマの気持ちになりなさいよね」
私の目の前で、レイラとジドウが言い合いを始めた。
やめて……私のせいで喧嘩はしないで……
しばらく口喧嘩をしていたジドウが、ふと私の方へ視線を向ける。
「それで、どうやって『漆黒の森』まで行く気なんだ?」
「――それでシドに頼みたくて……」
「なるほど、私の……竜人族の翼が必要というわけか」
「うん」
私の言葉を聞いて、シドは胸の前で両手を組む。
そしてジロリと目を細め、私の全身を見る。
「あまり重いモノは長時間はこべないんだが」
「私、太ってないわよ! 失礼ね! 最近はダイエットしてるもん!」
毎日、夜に腹筋、腕立て、スクワットを五回づつしてるわよ!
……また、ローランド王太子の冷めきった目が……
トラウマを刺激された私は、眦を吊り上げてシドに詰め寄る。
「つべこべ言わずに連れていきなさい!」
「……わ、わかった……」
私とシドが部屋から出ようとすると、レイラとジドウも立ち上がる。
「私も連れていって。連れて行ってくれなかったら、グレース達にこのことを話すから」
「もちろん、俺だけ仲間外れってのはナシだぜ」
「わかったわ、一緒に行きましょう。でも、どんな危険があっても、私のせいにしないでね」
二人はワクワクした表情でうんうんと頷く。
ホントに危険だってわかってんのかなー?
人数が多いほうが私も安心だし、それでいいかな。
シドは三人の同胞を呼び出し、六人で『漆黒の森』へ向かうこととなった。
邸の裏庭に出た私達はそれぞれに二人一組のペアになる。
私の体を後ろ手で、シドが抱きしめた。
「体に触れること失礼する」
「胸は触らないでね」
「大丈夫だ。どこが胸か微かにだがわかる」
ムキ―! どうせ私はグレースほど胸が大きくないし、オリビアほど形も良くないですよ!
私は隣にいるレイラの胸を睨む。
ここにも私の敵が!
「いつか追い越してやるんだからね」
「エマ? 何言ってるの?」
「騒いでいたら舌を噛むぞ!」
レイラの方へ顏を向いている私を抱いて、シドは強引に空へと飛翔した。
私達の後にレイラとシドの組も続く。
シドは空へ向かってドンドンを昇り続け、雲の上まで到達すると、そのまま浮遊した。
「寒くないか?」
「空がこんなに近いなんて思わなかった。星も大きくてキレイ」
「そうか、それなら良かった。これから飛ばしていくから、あまり騒ぐな」
そう言って、シドは『漆黒の森』へ向けて羽ばたく。
私達六人は、まだ暗い夜空の中へと溶け込んでいった。
しばらく飛んでいると、遠くの森から太陽の薄く光りはじめる。
その太陽の光を背に、何かがこちらへ飛んでくるのが見えた。
その影を見て、シドが警戒の声をあげる。
「ワイバーンだ! こっちに向かってくるぞ!」
「それって危ないんじゃ?」
「黙ってろ! 騒いだら落とすからな!」
「キャー!」
シド達はグングンと降下し、森の樹々の上、ギリギリを飛び出した。
頭上を通り過ぎたワイバーンが旋回して私達を追ってくる。
「ギャオーン!」
「キタわよ! キタわよ! 大きい口が! 牙がー!」
「うるさい! すこしは黙ってろ!」
「キャー!」
体の下でジタバタ騒ぐ私をシッカリと抱いて、シドは空中の旋回しながらワイバーンを避ける。
後ろを見ると、レイラとシド達も他のワイバーンに狙われている。
こんな魔獣が空を飛んでるなんて、知らなかったわよー!
「このままだと奴等の餌食だ!」
「そんなのヤダー!」
私達が空を飛びながら騒いでいると、上空から影が段々と大きくなってきた。
その影に怯えるようにワイバーン達は鳴き声をあげて離れていく。
濃厚な影に驚いた私とシドは同時に頭上へ顔を向けた。
「何にが起こったの?」
「あ……ド……ドラゴン!」
「え! ドラゴンって!?」
太陽を背に巨大なドラゴンが上空から、私達の目の前に現れた。
《我の支配する空で騒いでいるのは誰だ? 平穏な空を乱すなら殺される覚悟はあるんだろうな?》
私の目の前にドラゴンの巨大な口が広がり、鋭い牙が光る。
その迫力と恐怖で私の頭の中はグルグルと回る。
なんとかしなくちゃ……なんとかしなくちゃ……なんとかしなくちゃ……
もう怖くて何にも考えられないよー!




