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21.嫌な予兆

落ち込んでいる私を放置し、みんなは議論を続けていく。


オリビアは両手をテーブルに置いて、周囲を見回す。



「まずは軍の創設が先よ。いつ魔族達が『暗闇の森』まで進んでくるかわからないし、そうなれば必ずクレタの街へ襲撃してくるわ」


「ゴブリン族もコボルト族も軍に所属するなら、他の種族も軍に入るように呼びかけよう」


「エルフ族、竜人族、鬼人族は軍に参加するわ」



レイラ、シド、ジドウの三人が椅子から立ち上がる。


リアムは難しい表情でアゴに指を当てた。



「私はポーションの備蓄と、新薬の開発を手がけよう。火薬さえあれば手投げ弾を作れるけど」


「それなら私がネージンの街から火薬を取り寄せます」



リアムの言葉にチャックが手を上げる。


なんだか物騒な話が飛び交っているけど、ちょっと待ってよ……



「みんな落ち着こうよ。まだ魔族が攻めてくるって決まったわけじゃないんだから」


「私もエマの意見に賛成。ちょっと急ぎすぎじゃないかしら」


「しかし……手遅れになってからでは、クレタの街を守り切れないかもしれない」



グレースの言葉にルーカスは顔を左右に振る。


私は息を整えて、手をパンパンと叩く。



「軍を作るのは賛成よ。装備を整えるのもいいと思う。でも戦争を前提はダメ。だって戦争って殺し合いなのよ。私は敵も味方も誰一人傷ついてほしくもないし、死んでほしくない」


「エマのいう通りじゃ。ワシ等も焦っておったようじゃのう」



ホプキンは目を細めてアゴ髭を何度もさする。


私は両拳を握って、ルーカスを見る。



「お父様に知らせるのは待って。ここは私達の街なの。お父様に手を加えてほしくないわ」


「一応、僕には報告する義務があるんだけど……エマがそういうなら従うよ。僕もこの街から追い出されたくはないからね」



私達が議論を始めてから一週間後、ハイエルフ達がエラの姉達と一緒にクレタの街へやってきた。


エラの姉達は、大人の女性と同じぐらいの身長があり、見事なプロポーションで、まるで女神のような美しさだった。


はへ―……天使みたいな美少女っているのね……


さすがは妖精? 精霊?



「私らシーファ、隣が妹のラーファです。末っ子のエラがお世話になっております」


「これはご丁寧なご挨拶を。私はエマと申します。」



――なんだか営業マンの挨拶みたいになっちゃった。


だって、美人って近寄りがたいんだもん。



シーファは礼儀正しく深々とお辞儀をし、真剣な眼差しを私へ向ける。



「『暗闇の森』の状況をお伝えします。オーク族、オーガ族、トロール族の三族に森の全域はほぼ制圧されました。その影響で森の魔獣達が騒いでいます。もしかするとスタンピードが起こるかもしれません」


「スタンピードが起きれば、この街もヤバイかもね」


「ラーファお姉ちゃん、茶化さないの」



おどけるラーファを見て、エラは可愛く頬を膨らませた。



スタンピード……魔獣達が興奮や恐怖などで、突然同じ方向へ走り始める現象。


知識としては知ってるけど、現実に起こるなんて……


これって本気でヤバくない?



ドライアド達の話を聞いて、ルーカスは顔色を青くする。



「僕の父上の領地も危ないかもしれない」


「早くバルナレス伯爵へ知らせてあげて」


「エマはクレタの街の防衛を。僕は急いでバルナレス伯爵へ戻る」



私は応接室へジンベ、ゴンベ、ホプキンを呼び出した。


そして三人に向けてビシっと指を差す。



「ジンベ、ゴンベ、獣人族のみんなを集めて、周辺の村々へ警告に走って」


「ワシは?」


「ホプキンは土木部隊を使って、外壁をなるべく頑丈に作り変えて。壁の高さはもっとあったほうがいいと思う」



三人は大きく頷き、応接室から飛び出ていった。


それと入れ替わるようにオリビアとエドモンドが部屋の中へ入ってくる。



「私達にできることは?」


「ネージンの街へ行って、ゲスキワード男爵へスタンピードのことを伝えて。それとネージンの街の人の中で、クレタの街に来たい人達がいれば、一緒に連れてきて」


「わかったわ。エドモンド、厩舎へ行くわよ」



二人は大きく扉を開けて部屋から去っていった。


私はフーっと息を吐き、ドサっとソファに座り込む。


『暗闇の森』の対策だけでもパニックなのに、スタンピードなんてやめてよね。



……もう街長なんて誰かに代わってほしいよー。



私がソファに持たれてグッタリしていると、グレースとリアムが応接室に入ってきた。



「さっきオリビアと会って、話は聞いたわ。疲れてそうだけど大丈夫?」


「大丈夫じゃないわよ。私に代わって、みんなに指示してよ」


「それはできないわね。私って、それほど人扱いは上手くないから」



絶対に嘘よね。グレースの大きな胸が男性に人気があることは知ってるもん。



「へへへ、お姉ちゃん、その胸で癒してくれー」


「冗談が言えるなら大丈夫ね」



胸を触ろうとした私の手を、グレースはペシっと払う。


それを羨ましそうにリアムが見ていた。



「リアムのスケベ、エッチ!」


「これは不可抗力だろ!」



手をあたふた振り回してリアムは顔を背ける。



やっぱり、仲間っていいものね。



少し疲れた私は、グレースに後の指示を任せ、ヨロヨロと廊下を歩いて私室へと戻った。


ベッドにゴロンと転がり、天井を見上げる。



なんだか今日は大変な一日だったよね。


頭の中で考えがグルグルと回ってる。


何でこんなに私が苦労しないといけないのよ。



私の心の中でモヤモヤが爆発し、怒りに変わっていく。


枕を抱っこしたまま、ゴロゴロを寝転がって考える。



そもそもさ、三種族が大人しくなればスタンピードって起こらないのよね。



三種族は魔族の後ろ盾があるから『暗闇の森』で、偉そうに占拠しているんでしょ。


ということは……全部、魔族のせいじゃない?



私はスクッとベッドから起き上がり、前を向いてビシっと指差す。



「私、魔族に会いに行く!」



大人しく守って、被害を怖がるなんて私らしくないもの!

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