14.ゲスキワード男爵
ネージンの街の領主であるゲスキワード男爵は、ゴンベへ軽蔑の視線を送る。
「だれが獣を邸に入れていいと言った。早く摘みだせ」
「はぁ!? ふざけんじゃないわよ!」
ゴンベは私の大切なお友達、仲間なのよ。
それを摘みだせなんて! 絶対に許せない!
椅子から立ち上がり、私はゲスキワード男爵を睨む。
「呼び出されたから来たのに、その言い方は失礼じゃない。それに私の大事な友達に謝ってよ」
「獣人を友達にするとは、人族としての誇りもないのか」
「友達を大切にできない誇りなんていらないわ!」
私は両拳を握りしめて、ゲスキワード男爵をねめつける。
それを気にする様子もなく男爵はフンと鼻を鳴らす。
「ふむ、お前が獣人の村の村長か。お前達の村は税を払っていない。よって全ての財を寄こせ。そうすれば、今までの税の不払いは目をつむってやろう」
「は? みんなの村を放置したままにしていたのは、あなたじゃない。どうして今になって税を支払わないといけないのよ」
「何も知らぬ娘め。この辺境の土地は全てメイナード侯爵家の領土だ。私は侯爵閣下から領主に任命されている。私に逆らうということは、侯爵閣下に逆らうということだぞ。それでもよいのか?」
お父様がこんな横暴を許すはずないわ。
お父様の名をかたって、私服を肥やそうとするなんて卑劣すぎる。
今すぐ、お父様に報告したいけど……今の私は家を追放されてるのよね……
「まだ村は復興を始めたばかりで、税を収める余裕はありません。きちんと資金にゆとりができたら税をお支払いします」
「それで通ると思っているのか、バカめ。税を払わなぬなら、村を焼き討ちにするぞ」
「少し待っていただこう。私はメイナード侯爵の私兵軍軍隊長のオリビア・チェンバースだ」
「なぜ侯爵閣下の軍隊長がいるのかわからぬが、侯爵閣下から直々に、領主に任命されているのだ。口出しをしないでもらおうか。お前の意見など聞かぬ。引っ込んでいろ」
そう言われて、オリビアは苦々しい表情で黙る。
なんて傲慢な男なのかしら。
少しぐらい、私達の話しを聞いてくれてもいいじゃない。
私は外套の中へ手を入れ、金貨の入った革袋を取り出し、ゲスキワード男爵へ投げつけた。
それを手で受け止めた男爵は、革袋を開け金貨を見る。
「これだけでは足りないな。毎月、税を上納しろ」
「できるわけないじゃない。そのお金も村のみんなのための資金なのよ」
「税は支払わなければならない。税額は私が決める。つべこべ言わずに毎月支払え」
なんで強欲なの、こんな人の言うことを、いちいち聞いてられないわ!
私は振り向いて仲間を見る。
そして扉に向かってビシっと指を差した。
「話にならないわ。みんな行きましょう」
「村が滅んでもいいのか?」
「お好きにすれば。私達は全力で抵抗するだけだから」
私はそれだけ言って足早に邸から出た。
一秒だって、あんな男と同じ空気を吸いたくない。
後ろからオリビアが私に追いついてきた。
私の隣にきて、心配そうな表情をする。
「あの金貨は渡してしまっていいのか?」
「うん、あれは村のみんなに何か買って帰ろうと思って持ってきたお金だから。村の全財産じゃないわ」
プリプリして歩く私へ、ゴンベが声をかける。
「おらのせいで申し訳ないだ」
「ゴンベのせいじゃないから大丈夫。獣人だからって差別するなんて、絶対に許せない」
メイナード侯爵領があるエーレンベルク王国では、人族至上主義の人達も多くいるけど、この辺境にあんな差別主義の人がいるとは思わなかったわ。
すっかり気分を害してしまった私達は、街で過ごす気にもなれず、すぐに帰路へと着いた。
ネージンの街から帰った村へと戻った私達は、ジンベ、コリン、ホプキン、リアムの四人に領主の館での出来事を話した。
するとリアムは難しい表情で指をアゴに当てる。
「税を収めるのと断ったとすれば、領主は本気でこの村を潰そうとしてくるだろう。何らかの対策が必要だね」
「ワシはドワーフの村へ行って、人手を集めてこよう」
「私は村のみんなに伝えて、戦える者達を集めましょう」
ホプキンとジンベは、スクッと立ち上がって居間から出て行った。
「集まってくる者達を組織編成する。守備三、攻撃二の五人一組の班に分けるんだ」
「了解しました」
オリビアとエドモンドは互いに頷き合い、邸から去っていった。
窓際に座っていたエラはピョンと飛んでテーブルの上に乗る。
「私も応援を呼んであげる」
エラの脇から二本の枝が伸び、ゆっくりと背中で円を描く。
「お姉ちゃん達、聞こえてるかな。事情を話すから、ちょっと応援をしてほしいの」
彼女が言葉を発すると、その円の中の空間が膜のように振動する。
すると円の膜が再び震え、声が聞こえてきた。
《エラちゃん、生きてたのね。随分、心配したわよ。何があったの?》
「あのね―――」
エラは私達に助けたところから、今までの経緯を簡単に述べる。
そして男爵が攻めてくるので、応援がほしいと声の主へ伝えた。
《わかったわ。お姉ちゃんに任せなさーい》
何かよくわかんないけど、どこかと通信しているみたいね。
相手はエラのお姉ちゃんかな?
通信が終わると、エラは恥ずかしそうに頬を赤くする。
「ドライアド同士は、空気を振動させて、互いの言葉を伝えることができるの」
「へえ、便利な能力があるのね」
「お姉ちゃんが手伝ってくれるから、もう大丈夫よ」
何が大丈夫かわからないけど、ここは話に乗っておこう。
「エラ、ありがとうね」
それから四日後、スヤスヤとベッドに潜って寝ていると、ジンベに体を揺すられた。
「エマ様、起きてください。村の外に、エルフ族、竜人族、鬼人族が集団で集まっています。いったい何をしたんですか!」
「え? 私に言われても、私は何もしてないわよ?」
は! エラのお姉ちゃんが寄こした援軍って……
「こうしちゃいられないわ!」
ベッドから飛び降り、服装を整えた私は、エラと一緒に急いで村の門へと向かった。




