12.ズブリと刺して笑うのは止めて
ホプキンは村人達に石壁の積み方を教え、みんなで村の外壁をつくっていく。
二週間後に高さ三メートルほどの頑丈な外壁ができた。
織布工場の隣に薬剤工場も完成し、ポーション作りも本格的に始動した。
トレントに荒された畑は、住人達の手で再び耕され、エラの協力で小麦はスクスクと成長している。
めちゃくちゃになった村を見た時は、これからのことが心配だったけど、これなら復興できそうね。
それから二週間後、私は、リアム、ゴンベ、ジンベと一緒に、荷馬車にポーションを積んで、ネージンの街へ向かった。
当然、私は荷馬車の荷台に座っている。
ブラブラと足を振りながら雲を眺める。
季節は冬から春へと変わり、穏やかな風が頬を通り過ぎていった。
ネージンの街に着いた私達は、アルバン商会の支店へと向かった。
執務室で事務作業をしていた支店長のチャックは、私を見て嬉しそうに微笑む。
「ゴウラの布の反響は上々です。今度、メイナード侯爵領の領都メイヤでも布を販売することになりました。すべてエマ様のおかげです。ありがとうございます」
「売れ行きがいいのは嬉しいことね。でも、くれぐれも私が生産者だとは誰にも言わないでよ。後々、厄介なことになるかもしれないから」
「それはわかっております。ゴウラの布はあくまでもアルバン商会のネージン支店が生産、販売していると、商会の上層部にも報告していますから、ご安心を」
私のことがお父様にバレないように、一応は口止めしたけど、まさか、チャックさんが、そこまでしてくれるとは考えていなかったわ。
私は革カバンからフラスコに入ったポーションを取り出し、チャックさんに見せる。
するとチャックさんは不思議そうに首を傾げた。
「それは何ですか? 若草色の液体……ポーションの類でしょうか?」
「そう、中級ポーションよ。私の村でポーションを生産することにしたから、この店に卸したいの」
「ここは辺境の中でも『暗闇の森』に近いですからね。大怪我をする冒険者も絶えないんですよ。でも僻地なので低級ポーションしか手に入らなかったので、中級ポーションを売れば必ず利益になりますね」
チャックはポーションを受け取り頷くと、腰に下げていた鞘から短剣を抜き、ためらうことなく、自分の腕にズブリと突き刺した。
その光景を見て、私は思わず悲鳴をあげる。
「ヒィ! 何をしてるのよ!」
「ポーションの効能を確認しておかないと。 誰かが試すしかないですからね」
腕から血がドバドバと出ているのに、チャックは笑顔を絶やさないで笑っている。
「その笑顔、怖いから、早く、ポーションを傷口にかけてよ」
私の大声に応じて、チャックは慌てて腕にポーションの液をふりかけた。
すると腕は緑色の輝き、傷口の肉は段々と盛り上がって再生していく。
うー、傷口が再生するところって、じっくり見ると気持ち悪いのよね。
すっかり傷が癒えたチャックは驚きの声をあげる。
「確かに中級のポーションです。これだけ品質の良いポーションは初めてですよ」
うーん、まだ中級として効能が髙かったのかしら?
でも効果が薄いよりはいいわよね。
私とチャックは二時間ほど商談を続け、中級ポーションのほかに、ポーションの質を落として低級ポーションも生産することになった。
中級ポーション一本につき、金貨二枚、低級ポーションは銀貨五枚だ。
金貨二枚といえば日本円で二万円。
大怪我でも回復できるんだから、値段が髙いとはいえないよね。
「工場の経営や、村の運営もあって、読み書きと計算ができる人材を探しているんだけど、誰を紹介してくれるってことはできるかしら?」
「この前、雇ってほしいと言ってきた女子がいましたね。ずっと冒険者として暮らしてきたらしいんですけど、荒事が苦手なので商人になりたいという、変わった女の子なんですけど」
「その子でいいわ。ぜひ紹介してほしいの。よろしくお願いするわ」
「では私のほうから、その子に連絡をしてみます。村で待っていてください」
フフフ……金銭管理や事務処理が面倒臭くなってたところだったのよ。
ジンベやコリンに手伝ってもらっていたけど、二人には村の住人達を統率してもらいたいし、オリビアに手伝ってもらうと、自分でしろとうるさいからね。
エドモンドもリアムもホプキンも、それぞれに村ですることがあるからね。
チャックに相談してよかったわ。
持ってきた荷を商会に買い取ってもらい、村に必要なモノを買いそろえた私達は村への帰路に着く。
村に戻ってから一週間が過ぎた。
家の扉が開いて、大きな杖を持った、胸の大きい女子がゆっくりと玄関へ入ってくる。
「ここが獣人の村でよろしいのですか? 私はグレースと申します。この村で雇ってくれるとチャックさんから商会をいただきまして……」
グレースはタユンタユンと胸を揺らして、深々と頭を下げる。
チャックが言っていた女の子のようね。
オリビアよりも胸が大きいなんて、ちょっと引っかかるけど……チャックさんの人選だからね。
「事務処理ができる人を探していたの。よろしく頼むわ」
「はい……」
グレースは少しの間考えて、おっとりと口を開いた。
「この村って名前はないんですか?」
うーん、ネージンの街でも、ドワーフ族の村でも、この村のことを獣人の村って呼んでたし。
村の名前なんて考えてなかったな……
私が黙っていると、グレースはおっとりと微笑む。
「この村は色々と整備が必要なようですね。まずは村の名前を考えましょうか?」




