愛華視点(1)
◇
「恭弥くん!」
私は叫ぶ……だが、その声は彼に届かず、そのままその場に倒れてしまった。
愛華の心は混乱と狂気に支配されていた。彼女の心の中には愛と狂気が交錯し、絶望と興奮が交互に押し寄せてきた。彼女は恭弥を傷つけた男たちの姿、そして恭弥が輝夜を庇う瞬間を目撃していた。
まず、愛華の心に広がったのは猛烈な怒りだった。彼女は恭弥を深く愛している……チョロい?そんなの何度でも言えばいい。私のこの彼へ向ける愛情はホンモノだ。恭弥は自分の事を2回も救ってくれたのだ。
そして、その愛は彼女にとって何よりも重要だった。恭弥が傷つけられた。恭弥の後ろにいる女の子は固まったまま動かない。おそらくあの子を助ける為に恭弥は自分の身を犠牲にしたのだろう。
──何でさらに私の心を掻き乱してくるんだろう───
愛華の心には、自分が男たちから助けられた瞬間と恭弥が女の子を守る姿が、まるで時間と空間を超えて結びついたような感覚が広がっていた。彼女は自分自身が恭弥に救われた瞬間を鮮明に思い出し、その瞬間が恭弥への愛情をさらに深めているように感じた。
恭弥が女の子を守るために身を挺して立ち向かう姿勢は何となくだがこれからも同じような事がまた起きる気がする 。
愛華の内部には激しい感情が渦巻いた。彼への愛情が、ますます狂気的で占有欲の強いものへと変わり、愛華の内部で爆発的に広がっていった。
ただそれと同時に、自分の無力さと恭弥への依存が、彼女の心を囚われたように縛り付けた。彼女は恭弥への深い依存を感じ、その存在が彼女の心の一部となっていることに気付く。彼を手放すことなどできないという強迫観念が、愛華の内部で強化されていった。
狂気と愛情の入り混じった感情は、彼女の行動を乱雑にさせた。とりあえず彼女は男たちに復讐するために一瞬でも機会を逃すまいと思い、その一方で恭弥を守りたい一心で彼女の中で葛藤が続いた。愛華は、恭弥を守りつつ、男たちに制裁を加える方法を模索し、そのための計画を練り始める。
ただ一瞬男達の方へ視線を向け、再び恭弥に視線を向けた瞬間……男達など気にしてる暇ではない事を自覚する。
愛華は恭弥の傷を心配し、急いで彼の側に駆け寄る。その際、彼女の瞳には深い悲しみと怒りが宿っており、その表情は異常に静かで冷徹。彼女は恭弥を抱きかかえ、その背中にあるナイフの傷を少しだけ見つめる。この瞬間、愛華の心には狂気の光が輝いていた。
恭弥の傷口から血が滲んでいる光景を目にした愛華は、焦りと怒りに支配されながらも、冷静に状況を把握し、次なる行動に移った。
彼女はハンカチを急いで取り出し、恭弥の傷口に押し当てる。ハンカチは次第に血を吸い込んでいき、愛華は力強くその場で傷口を押さえ続ける。
愛華は携帯電話を手に取り、画面をタップした。相手の声が電話越しに響き、愛華は冷静にフルネームを告げる。
「宮藤愛華です。急患がいます。急いで救急車を派遣してください。場所は…」
彼女は鮮明に住所を伝え、言葉を選びながらも自信を持って伝えた。
「了解しました、宮藤愛華様。救急車を派遣いたします。お待ちください。」
電話を終了して、恭弥の後ろで固まっている女の子へ目を向ける。彼女の瞳は冷たく無表情だが、その奥には不気味な光が宿っているかのように輝いていた。
「ねぇ、貴方……」
女の子は驚きと緊張の中で言葉を詰まらせ、必死に答えようとしていた。
「っっ!?……え、えっと」
「どうしてこんな事になったのか……教えて?」




