病院(2)
◇
「それで……恭弥先輩はいつ頃退院出来るんですか?」
「1週間程度で退院出来るってさ、ナイフがあまり深く刺さってなかったみたい」
それを聞いて輝夜は安心した様にホッと息を吐く。
「それは良かったです。あ!もし良ければ、恭弥先輩が退院出来るまで毎日お見舞いに来ても良いでしょうか?私恭弥先輩ともっと話したいです!」
「あぁ、勿論良いよ」
そう笑顔で返すと輝夜もまた笑顔で返してくる。にしても天音輝夜…… 改めて見ても容姿だけで見ればゲームのヒロイン9人の中でも群を抜いて整っている。
確かゲーム内ではカラオケイベントにて主人公である修平が命懸けで輝夜を守り、元々芽生えていた好意が膨れ上がった事で、修平との距離がさらに近づくと言った内容だった気がするが、結局はその輝夜も恭弥に寝取られる……どれだけ修平とヒロイン間での仲が深まったとしても、最終的には恭弥に寝取られるENDしか無い為、このゲームが当時発売された時はパッケージなどに釣られて沢山の人が購入したそうだが、その内容の薄さとエンディングが寝取られENDの一つしか無い事に絶望した人達がネット評価に⭐︎1を付けまくり、悲しくも中古ショップの隅っこで100円で売られる末路を辿ってしまったという訳。
ただ今の状況、輝夜の心が俺の方に完全に傾いてしまってるな……まだ少しだけだが、修平へ対して心残りがある可能性もある。少しだけ探ってみるか。
「ところで輝夜ちゃん……修平君の事に関してはどうな感じなのかな?あ、修平君と俺は同じクラスでね。確か俺と入れ替わる様に勢い良く部屋から出て行ったと思うんだけど……もしかして警察を呼びに行ったとか?」
そう言った瞬間、先程の満面の笑顔はどこへ行ったのやら、悲しそうな顔に変わり少しずつ口を開く。
「修平先輩に関しては、あの後も戻ってくる事はなかったので、警察を呼びに行ったという事はないと思います……恐らく私は修平先輩に見捨てられたんだと思います。正直個人的に仲良くして貰っていた先輩なので、見捨てられた時は凄く悲しくて、もう目の前のこの人達に襲われるしかないんだって諦めてました。けど!そんな時恭弥先輩が駆け付けてくれたんです!」
うんうん、俺の行動何だかめっちゃ主人公っぽくね?これは別に自意識過剰とかじゃなくて、普通にヒロインがピンチな時に駆け付けて不良達を全員倒す……嫌、どこのラノベの主人公だよそれ。
何か今更ながら既に俺はヒロイン2人を寝取って(?)る訳だけど、嫌…寝取るって表現もおかしいか、まぁゲームと同じ様に既にヒロイン2人が恭弥のモノになってる訳だけど、これって本来なら修平に掛かる主人公補正が俺の方に掛かってるとか?だって普通に考えておかしいもんな、前世はヒョロガリ陰キャだった俺が今世でいくら神スペックの身体や頭を持つ恭弥になったところで、あんな喧嘩慣れしてそうな不良達やナンパ男達に勝てる訳がないもん。
それに妙にこっちの世界に来てから物分かりが良すぎるし、ゲームの世界に入ってきたって自覚しても、そんなに慌てる事なくすんなり脳は受け入れてくれたしな。
世界の強制力というか、主人公補正の力によって、他の残り7人のヒロイン達とのイベントが、本来修平に行くはずなのに、俺のとこへ来るみたいな感じには流石にならないよな?……まぁ少し考えすぎか。
「あの時の恭弥先輩はとってもカッコよかったです!それに恭弥先輩は私が欲しいと思ってる言葉……全部言ってくれます!それがとっても嬉しくて…なのでもう、あの人についてはどうでも良くなっちゃいました!私の思いを寄せる人はもう目の前にいるので!」
「ちょっと今のは聞き捨てならないわね……思いを寄せる人?冗談じゃないわ、いくら恭弥くんが助けた可愛い後輩だと言っても、言って良い事と悪い事があるわ」
輝夜の言葉に返事をしようと口を開こうとしたが、遮る様に愛華が発言する。
「これは言って良い事だと思いますよ♪ それよりも!愛華先輩と恭弥先輩は別に付き合ってる訳じゃないんですよね?「それは!」あぁ♪ 別に言わなくて良いです、見てれば分かるので!そんな訳で、愛華先輩には私が恭弥先輩への思いを伝える事を止める権利はない訳です!まぁ愛華先輩は恭弥先輩と仲が良い訳ですし、私としても恭弥先輩に思いを寄せる愛華先輩のライバルになる気がして、心苦しいのですが!私はもう…恭弥先輩への思いを止める事は出来そうにありません」
「っっ!?」
「……」
うん?輝夜ってこんな語尾に♪付けるキャラだっけ?なんて思いつつも、顔は常に笑顔なのに目が全く笑ってない輝夜に内心ビビり散らかす俺。
愛華に関しても驚きはしてるものの、顔は常に笑顔なのだが輝夜同様、目が全く笑ってない。女の人の圧ってどうしてこうも怖いのでしょうか…… 何だか気が遠くなる様な話だ…そんな事を思いながら、俺は輝夜や愛華から目を逸らし窓の外の景色を眺める。




