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プロローグ

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 あー眠い。なんか体も重いし適当に理由つけて学校休めないかなあ。

 そう思いながら制服に着替えていると、1階のリビングから悲鳴が聞こえ、それがプツリと途切れる。

 不審に思って階段を数段下りると、倒れている両親と兄の姿が目に入る。

「!」

 まだ、若干息があるらしい兄の口が僅かに動く。

   ゛こっちに来るな〝

「…………っ」

 オレは頷き、自分の部屋に急いで引き返す。

 …………遅かった。

   ゛死ね〝

 そう聞こえた時にはもう、オレの意識はなかった。

_________________________


 誰かが俺の体を激しく揺さぶる。


「ん…………んん…………ここは…………?」

(坊ちゃまのお部屋です。坊ちゃまは剣術のお稽古の最中に倒れられたのです)

「はあ…………」

(お医者様はただの貧血だと仰っておりましたが…………本当に大丈夫でございますか?)

「そうか…………シュイル、お前がずっと付いていてくれたのか?」

(はい。旦那様の命により看病させていただきました)

 シュイルはオレの執事だ。とにかく静かだわ、感情は表に出さないわで何を考えているのか常時読めないが、我が宰相家に忠誠を誓っているので、こう必死に仕えてくれるのだ。

 …………あれ、《シュイル》?

「…………シュイル。手鏡を持ってきてくれないか」

 シュイルは頷き、手鏡を取ってくるためにその場を離れる。

 普通なら「この状況で手鏡?」と不思議に、いや、不審に思うだろうが、そんなことを顔に出すでもなく持ってきてくれるシュイル、ほんとに感謝してる。

 シュイルが手に持った手鏡を差し出してきた。

「ありがとう」

 感謝を述べながら鏡を覗き込む──うん………うん。

 客観的に見ても美しい容姿に、今更気付いたイケボ。さらっさらな青い髪に、それよりも濃い青の瞳。極め付きは《ルキ》という名。さっきは意識が朦朧としてたから、気にもしなかったけど──

「これは…………かなり」

 かなり由々しき事態だな………




「体調はもう大丈夫なのですか」

「はい。ご心配をお掛けして申し訳ございません」

 食堂(ダイニング)にて。

 体調が回復して初めて家族と顔を合わせる翌日の朝食。因みに昨日の夕食は寝てたので食べなかった。(シュイルに推奨されたけど食べるのが面倒で拒否したのは内緒だ。母にすごく怒られるので)

「そう」

「はい」

 父が4年前に暗殺されてから家の中は暗くなった。

 2つ下の妹は病弱で父の後を追うように死んだ。

 つまり。

 この家を明るく楽しい場所にするのはこの俺!!

「ところで───」

「ルキ」

「はい」

「家事をしなさい」

「はい…………え?」

「よいですか。あなたは次男です。家を継ぐわけではありません。しかし、家のことを出来るようになってもらわねば困るのです。私も身体(からだ)が丈夫ではありません。いつ死ぬかもしれない。その時身の回りの世話をするのは、いつも通りメイドや執事です。それでもこの家を一番よく知るのはあなた()()です。スレイ、あなたもですよ」

「わかっています。僕はこの宰相家を継ぐ人間。(ルキ)にはこの先多くのことを手助けしてもらう」

 《スレイ》? どっかで聞いたことある気がするし、それに───

「それで? いつからになさるおつもりですか」

「今日です」

「はっ?」

「この家全ての仕事を覚えなさい。シュイル」

 呼ばれると同時に、シュイルは音も立てずに姿を現した。

「他の使用人もよく聞きなさい。ルキの家事の総監督をシュイル(あなた)にします。ルキが仕事を覚えるまでの間、彼の手助けをすること。その権限の全てはシュイルにあること。宰相の息子だからといって甘くしないこと。シュイルが若いからといって指示を無視しないこと。以上です。下がりなさい」

「シュイル。あなたはまだです」

 シュイルは頭を下げる。

「何か困ったことがあれば私やルキ、スレイに相談すること。よいですか」

 シュイルはさっきよりも深く頭を下げた。

 シュイルが部屋を出たことを確認し、口を開く。

「母さま。その家事仕事のことで一つ相談がございます」

「なんでしょう」

 食事を終えた母が、いつもの澄ました顔で訊いてくる。

「お金をくれませんか」

「??」

 兄が分かりやすく戸惑っている。

「ど」

「どういうことですか」

 母が兄に質問を被せる。

「使用人たちはこの家の仕事をすることで給料を得ます。それなら俺も家事をしてお金を貰うべきではないでしょうか」

「なんと傲慢な…………」

「聞こえてますよ兄さま」

「母さま! こいつはただ金がほしいだけです!!」

「言葉遣いがよくありませんよ、スレイ」

「んっ───失礼しました」

 不服そうな兄は無視だ。

「よいでしょう。仕事によって報酬を出すことを許します」

「えっ…………本当ですか!?」

「あなたが言ったのでしょう。何を驚くことがあるのですか」

「あ、ありがとうございます!」

「詳細はシュイルと相談した(のち)に伝えます。精一杯励むように」

「はい、ご期待に添えるよう努力致します。では、これにて」

「スレイも早く次の行動に移りなさい」

「──本当によいのですか?」

「ルキのことについて言っているのですか? いつどの時代でも、何かをすれば何かが返ってくる。それが良いことでも悪いことでも。貴族階級の人間が庶民の暮らしに触れることはごく僅か。《庶民の当たり前》と《貴族の当たり前》は異なるのです。ルキもそれを感じ、学ばないといけません」




「──っしゃぁぁぁ!!!!!」

 家事をする→お金貰う

 なんて………なんて…………

「最っ高の制度なんだっっ!!」

 前世は高校生なのにお小遣い制度がなくて何かと苦労した。

 だが今は違う! 家事()()すれば金が貰える! これで何でも好きなことができる!


   コンコンコン……


「今行く」

 家事を侮るとどうなるのか。

 そんなことを知るよしもなかった──。

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