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風琴ねずみと夜の電車 一  作者: 倉沢トモエ


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リボンと鈴

 割って入ったのは、なじみ客との話を終えた女給、たま君である。

 鏝を当てちぢらせた断髪に花を飾り、緑のワンピースに真珠のネックレス。

 白い手袋に重ねた銀色の腕輪には小鈴があしらわれ、たびたびチリリと鳴る。

「たまちゃんがまた、鈴をつけて現われた」

「そうよ。カフェー・プティ・シャ・ノワ、ここの女給はみんな猫なんだから」

 もうひとつ、この店の約束事があった。

 ここの女給はみな、『猫さん』、そう呼びかけられるのであった。その上、ミケやらシャムやら、猫らしい名まで付けられるという。

 にゃおん、と鳴かんばかりの愛嬌で、その一員たるこのたま君、いつも手首に小鈴を用いる。本日は腕輪だが、手袋の時もある。大事なことだが、鈴は、たま君の専売でほかの猫には許されていない。

「菅原さん、ご無沙汰ね。最近はお見かけしないわ」

 秀真くんは言われ戸惑った。この店にはこれまでほとんど来てはいないはずだが。

 その来たときというのも、楽屋の辻氏に物を届けに、辻氏に呼ばれて用聞きに、まったく客として、ではなかったはずだ。

「いやあね、車掌さん。あたし通勤に電車使ってるのよ」

「んだのすか。今週は勤務交代したもんだから。毎度ご利用ありがとうござりす」

「いつもは回数券ですけど、遅くなった時は、ここの上の階の寮の誰かの部屋で時間をつぶして、朝の電車の時間を待って帰っていますの」

 ああ、ミケコさんの部屋ね、と、辻氏がまぜかえす。あの子親切だよね。ミケコさんは、頭に大きなリボンを巻いているダンサー。先ほどからダンスフロアーで注目を浴びて居られる。ダンサーもまた、猫らしい名で呼ばれる。

「往復の切符買えると助かるんですもの。

 朝に帰って、夕方に出勤。あべこべみたいだけれど、あたしにはちょうどいいのよね」

「はあ。んだら、混雑するべ」

 始発より朝七時までは割引券発券の時間帯で、片道五銭が四銭になる。往復の切符も買えるのでそれを目当ての乗客も多い。

「まあねえ。でも割引って助かるわ。仕送りしなきゃいけないし。定期はちょっと勤務の日数といちどきの値段でためらってしまうのよね。

 だってそうじゃないの、ひと月の途中でくびになったら、つまらないもの。ごめんなさいこんな話。

 電車にはね、あんまり飾りがゴテゴテした格好では乗らないよう気を付けているのよ、よその人に引っかけてしまって迷惑だから」

 またチリンチリンと鈴が鳴る。

 辻氏は気が付いていた。

 秀真くんは、すっかり頬がいつもの色だ。

「辻さん」

「なんだい」

「今日は、うちさ寄るの」

「もちろん。週の勤労の仕上げ、休日だからね」

 秀真くんの家の来客用布団ひと組は、ほとんど辻氏の専用である。本日は晴天であったので、干しておくからと朝に家人が申していた。

「いつもの顔にお会いしたいねえ。安心したいよ。

 じゃあ、たま君、また明日」

「また、いらっしゃいね、車掌さん。

 辻さんは明日、遅れちゃだめよ」

 たま君が秀真くんと辻氏を見送った時、楽団はまた『月光値千金』を奏でていたのであった。

 猫さん、シャムさん、さっきとリズムが変わった、フォックストロットだよ、と、酔客がチケットを振ってダンサーを呼んだ。

 シャムさんは、胸元にびろうどのリボンが目印である。


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