聴衆がいた
庭先から小さな拍手が聞こえ、一同庭の物干し場に目を向けた。
塀の上から隣のテルオさんがひょっこり顔を出し、にこにこ手を叩いていたのであった。さては踏み台があるのか。
「もう寝るところなのに、戻りなさい」
声がして、テルオさんの顔が引っ込んだ。
それと入れ違いにお母様が困り顔であらわれたので、一同もいささか恐縮した。
「こんばんは」
鈴くんが挨拶すると、
「こんばんは。本日はおかげさまで」
あらためて切符のお礼を言われた。
「御主人に、よろしくお伝えください。先ほど、小鳩堂でもお目にかかりまして」
「ああ、秀真さん、辻さんに小鳩堂さ連れられて行ったんですね」
「マサジさんもご一緒でしたから、よかったですわ、マサジさんも楽しそうでした」
「マサジくん」
小英雄の名を聞いて、鈴くんなにかを察した。
「あら、ちゃんと秀真さん、今夜はマサジくんのこと捕まえたんだ。久しぶりに本屋に様子を見に行って、うまい具合に会えたんだっちゃ。めずらしいこと」
「三人そろって、嬉しそうでしたわ。
では、また明日」
「おやすみなさい」
お隣の家の灯りはまもなく消えた。
鈴くんは、もう一杯番茶をいれた。
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作中の引用
『月を眺めよ』森岩男作詞 トービス作曲(原曲「Get Out and Get Under The Moon」邦題にほか『月光値千金』)
『尾形亀之助全集』「雨の祭日」思潮社 一九九九年 尾形亀之助
『讃美歌』(讃美歌委員会 昭和九年 讃美歌委員会編)
『青い鳥』小学生全集75 興文社 昭和3年 菊池寛訳
『復刻 立川文庫傑作選 宮本武蔵』講談社 一九七四年
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2023年3月12日より毎日更新予定の『風琴ねずみと夜の電車(二)』に続きますので、そちらもご愛読いただけますと幸いです。




