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風琴ねずみと夜の電車 一  作者: 倉沢トモエ


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ねずみのはなしをみな覚えている

 さて、ついでながら思い出してみよう。先ほども登場した『風琴ねずみ』である。

 尋常二年の太郎さんの教室にあるオルガンには、小さな灰色ねずみの兄弟が二匹住んでおりました。

 ねずみですが、シャボンを使って風呂にも入り衛生的、歌が聞こえれば踊り出す、たいそう文化的なねずみで、なくしものをして困っている教室の友達があればこっそり探してやり、校舎に誰もいないともなれば特別の奏法でオルガンを鳴らして曲もこさえる、秘密の級友なのでした……。

「年取って法力を身に着けたオルガンの爺様な。力持ちの兄貴のタロウねずみは踏板を飛び跳ねながら踏んで、身軽で歌好きな弟のジロウねずみは鍵盤を踊り歌いながら足で踏んで鳴らしている。そういう筋だったなや。

 そうだ、その絵を幻灯で映しながら、クリスマスのうた合奏したらどうだべ。秀真くん、ほかにも何かタネ持ってくるかも知れねえけっとも、歌のときの分の幻灯もなにか映ったら面白いべ」

 出がらしのお茶を淹れながら、鈴くんが提案した。

「それならわたくし、それにも絵を描くわ。クリスマスツリーのまわりで、ねずみさんたちがオルガンの音に乗って踊って見えるような」

 房枝くんは保姆の免状を持っている上に、画塾へも通っておる。絵は得意である。

 そんなことより花嫁修業をしろと小言を言われる。すまして聞き流し、陰で舌を出している。これまで何度も保育園の採用試験を邪魔されていることへの反逆がある。

「そうだなあ、曲目も一覧を書いて幻灯で映すことにして。

 じゃあ、今晩もまた、幻灯機の組み立て進めねばな。

 いやあ、あれだど。秀真くんみてえな人がいるのは尊いのや。俺はぺらっぺらっど読むか歌うしか能がねえから尊敬するのや。

 ああ、そうだ、大事な話だ」

 最後の最後に若先生、思い出したようだ。

「辻さん、今年も()けてもらえるべか」

「大丈夫でねえかな。去年も楽しそうだった。話しておくから」

「助かるなやあ、ありがとうござりす。山本さんも、飛び入りしてくれると嬉しいけっとも、そこまで図々しくなれねえなあ。

 では今度、辻さん、《《三太のおじさん》》を交えて曲目決めるべか」

「うん。明日の昼間なら、居るかもしれねえ。今晩はたぶん辻さん、泊まっていくと思うから」

「では、昼飯時あたりにのぞきさ来っから、よろしくな」

「会の曲目ねえ。まずジングル・ベルは入るでしょうね」

 房枝くんの楽しそうな声。

「去年もジングル・ベルからはじめましたものね。

これではじめると、なんだか気分が出ますものね。

 候補を決めておきましょうか。ほかは何にしましょうね」

「これはどうかや」

 教会通いをしている鈴くんが、讃美歌をひとつ推薦し、いつもの小さく澄んだ声で歌い始めた。


 くしき星よやみの夜に

 ひかりをいよよはなち

 すくひぬしのますむらに

 みちしるべとなりてよ


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