ジャムつきパン耳
四畳半が二間。秀真くんのつましい新婚の家は、内科小児科、橋本病院のはす向かいにある。
玄関には丸い電灯が灯り、ぼんやりと明るかった。
秀真くんのまだ帰らぬその家の中には、二人の婦人が火鉢を囲んで座っていた。
そのうちひとりはおかっぱ頭の童顔。本人は断髪と言い張るのだが、どう見ても、鳴子温泉のこけしを連想させる。
秀真くんの細君、鈴くんである。紺地に白の格子縞の着物に赤い帯を締め、その上に去年編んだ辛子色の肩掛を羽織っている。
もう一人は、会う人をなぜだか安心させるお多福顔に、肩までの断髪がくるくると縮れていた。はす向かいに住む鈴くんの親友、橋本病院の令嬢、房枝くんである。深緑色のワンピースをお召しである。上には白のカーディガンを羽織っている。
「焼けてきたわ、鈴ちゃん。こっちのお皿に置いておくわね」
房枝くんの手元には小皿があって、その上にのっていたのは火鉢で焼いたパンの耳。
赤いジャムが塗ってある。
「苺のジャムなんて、もったいねえなあ」
「いいえ。家に置くとひとり占めする方がいるんですから。気が付いたらもう半分になっていたのよ。残り物で悪いけれど、私たちもいただいてしまいましょうよ」
夕餉の片付けも終わって、ほんの少し落ち着いた頃合いに、房枝くんがなにかおみやげを持って鈴くんとおしゃべりをしに来るのは昔からのことだった。
昔はよく母上からそれで叱られていたものだが、鈴くんが新婚の家を近所に構えてからは、お向かいだからとなにも申されなくなった。
一人で留守を守るのは物騒だし、まずそうした若い主婦というものは経験が浅く、なにかと家政のなやみを持つものなので、娘をつてにそれを伝えられた場合には、それにこたえようと待ち構えているのである。
そんな母上の心を知ってか知らずかこのふたり、大抵、他愛もない話をするか、婦人雑誌の刺繍図案や洋服の型紙を見ながら、あれこれと布地の相談などしている。たびたび色違いのお揃いの服を拵えている。
房枝くんの髪は、本日知り合いの美容師が洋髪の研究をしたい、と申したので、鏝の練習台になったものである。
鈴くん、
「その頭、似合ってっぺした。ヨーロッパの女優みてえだな。
だけっと大奥様、むつけた顔したんだべね」
大奥様は、令嬢が初めて断髪にしたときも大変だった。
「そうよ。鳥の巣、雀もカラスも来る、まで言われたわ。どなた譲りの不美人だと思っていらっしゃるの。洗えばそのうち取れてしまうものなのに。
ああいう顔で苦情を言われると思って、家族には話さないでしたんですもの。仕方ないわ」
「なんのなんの。その柔らかいウエーブ、房枝くんのやさしいお顔に合っているでねえの。ハイカラだっちゃ。どうせ断髪の時みたいに、慣れれば何も言わねくなるべ」
二年ほどのち、パーマネントがこの仙台の地に入る時にはまたこれ以上の騒動となるのだが、それには少し猶予がある。




