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風琴ねずみと夜の電車 一  作者: 倉沢トモエ


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散会

 それではみなさん、おやすみなさい。

 テルオさんたちは先にお帰りになった。ほかのお客も、時間が来たのか隣のキネマ館に流れて行った。なにが目当てなのだろう。小鳩堂の壁には、千恵蔵の《魔風一騎》ほか、《乙女の湖》、《いたづら小僧》等々、隣のものに限らず映画のビラが幾枚も貼られている。

 そうしてお客は現在、マサジと秀真くん、辻氏。

「それでマサジ、おれ、《《さっき顔見てきたど》》」

 妙に神妙な調子で秀真くんが申した。

「まさか、僕らの荒唐無稽に付き合ったのは晩飯が食いたかっただけじゃないだろう。

 あの件、ちゃんと話そうじゃないか」

 辻氏も申した。

「うん、まあ、それはもちろん考えていたど。お願いしたの俺だべや。

 でもよ、今朝、本屋の仕事さ行くとき、叔父さん(おんつぁん)が今晩は仲間の憂さ晴らしさ連れて行かれると言っていたしよ、晩飯のあては探していたのや。自分で済ませるのもいいけっとも面倒だべした」

 ちゃっかりご馳走になるに限るのである。

「町さ来てから、食ったことのねえものばり目に入るなや。今日もひとつ勉強させてもらったっちゃ」

「叔父さん、憂さ晴らしか。日曜にかい。たまにはそれも必要だな」

「昼間は寝ていて、晩になったらわざわざ出ていくんだど。今の動物園の工事は春には終わるからよ、声がかかるまんま出ては顔広げて、仕事の話ねえか探してもいるんだべ。

 んだども、夏の前あたりは、よくわからねえで、のこのこ何かの集まりについて行ったら組合のビラ刷りしねえかとか言われてたっけ。そんな難しい話わがんねから、いつもみてえに、のらりくらりど逃げてきたけっとも」

「あの暢気な叔父さん、あれで抜け目ないんだなあ」

「動物園の方はよ、開園延びることなんか、今の様子ではおそらくねえんでねえかな。動物が来るあてもそろそろ大丈夫でねえかって噂だど。ライオンだの象だの来るんだべか。そうなれば人足どもは次を見つけねばなんねえ。

 でも、おらほの叔父さんはよ、あの通り、顔を広げるのはいいけっとも、学もねえしどこか事務所勤めなんてガラでもねえしよ。俺と同じ頑丈な体しか取柄ねえど。どうするんだべか。

 世間ではまだどこかで工事、増やしてもらえるんだべかなあ。不景気時には、なんだりかんだりたくさん人雇える仕事作らねえとだめだって、親方も言ってたど」

 叔父さんの仕事によって、マサジの今後も左右される。


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