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チキンライスはおいしい
にわか給仕は、皿を何枚もいちどきに運べぬものだから、何度も往復して勤めていた。
「ご苦労さん」
マサジが生意気を言うと、
「そんなこと、お客は言うもんでねえべ」
お客に言い返す給仕もあまりなかろう。
「なにっすや、これ、うめえごど」
ひとくちするなりマサジが声を上げるものだから、厨房に居た大将が、誰にも知られずにっこりしたのは秘密である。
そうする間によその卓からビーフシチュウとパンの注文が入った。
「まあ、ほんとうにおいしいスープですこと」
テルオさんのお母様、いつもは食が細いのだが、今宵はこの楽しい雰囲気で匙が進むようだ。何よりうれしいことだった。薄給の事務仕事と内職仕事に追われる彼女には滋養が必要だ。




