学友
「マサジくん」
テルオさんは、昨日の放課後に別れたなつかしい級友、マサジの顔をみとめた。
「まあ、こんばんは、マサジさん」
お母様に挨拶され、マサジ、小声でコンバンハなどして照れてお辞儀をしたあとに、
「お、なんだべ、テルオでねえの」
その照れ隠しに、いつもの生意気な口を叩いてみたようだ。
「お友達かい」
「菅原さん、辻さん。こんばんは」
松永さんも、その後ろに居た大人ふたりを存じている様子。
「まあ、菅原さん」
テルオさんのお母様があらたまって立ち上がりお辞儀をするものだから、秀真くんも慌てた。
「先日いただいた切符で、今日はたいへんよいものを観させていただきまして。その帰りですの。ほんとうにありがとうございました」
「こちらこそ、無駄にならねくて助かりました」
切符について秀真くん、多少気になることがあり松永さんを見たのだが、かの臨時給仕長は口の前に人差し指を立て、シイッ、と合図を送っている。
「松永くん、どうしたんだい、給仕長かい」
バイオリンがしまわれている黒い鞄を下げた方、辻氏が、悪い癖でからかいはじめる。
「ああ、くまくんがいないからだべ」
秀真くんは、さすがに事情をよく承知の様子。
「そうですとも。しっかり者が当面いないんで、多少の不行き届きはお許しいただきたいですなあ」
こら、と、厨房から大将の声が飛んできた。
六尺の体躯に禿げ頭、それに髭。洋食をこさえているのは、この熊のようなお爺さん。
「油売ってねえで」
「ああ。大将、コンソメ、チキンライス、どっちもひとつだ」
「おれ、チキンライス食ったことねえなや」
マサジが辻氏と秀真くんを交互に見て申した。
「わかったよ」
ものわかりがよかったのは、辻氏だった。
その顔を見て秀真くんは、まったく辻さんは変わらない、と思ったのだが、口には出さぬ。
「松永さん、こっちはチキンライス三つ」
「はい」
「え、辻さん、俺は、」
慌てる秀真くんに、
「なあに、なんだか昔みたいじゃないか。ちょっとなぞらせてくれよ」




