テルオさんは気に病む
テルオさん母子のめったにない外食はたいてい小鳩堂だった。
小鳩堂は親しみやすい店だ。店の造りも昔は蕎麦屋だったところを改装した、黒瓦屋根に引き戸である。 ひと足踏み入れると、右手にパンとお菓子が並ぶガラスケースがある。左手に進むとテーブルが並んでいて、店員がにこやかに案内してくれる。
軒下に下がっている、鳩の給仕の図案が描かれたステンドグラスの看板も愛されていた。店の大将のご子息が、榴ヶ岡にある商工省工芸指導所にて事務方で働くうちに、日々顔を合わせる工芸家の卵たちに大いに刺激され、教えられつつ不器用ながらもこしらえたというものである。不格好な可愛らしさが見る者をなごませるのだった。目玉がやや大きすぎ、くちばしはやや愛想がなく、すましているように突き出されているのである。
「おや、こんばんは」
親切に挨拶をしてくれた給仕を見ると、
「松永さん」
いつもはロバのどん太がひく馬車で近所をまわり、パンとケーキを売っているおなじみの顔、松永六郎氏であった。
ちなみに兄、松永太郎氏は、この小鳩堂の職人で、パンとケーキを焼いている。パン焼きの仕事は朝が早いので、今の時間は家で休んでいるはず。




