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風琴ねずみと夜の電車 一  作者: 倉沢トモエ


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テルオさんとお母さま

「すばらしかったです」

 と、テルオさんは言った。

「ほんとうに。テルオさん、菅原さんに、お礼を申し上げなければいけませんよ」

 そうお母様もおっしゃって、うっとりため息をついたのだ。

 劇場からぞろぞろと表に出れば、たのしげな顔があちらこちらに。

 そのままチルチルとミチルが唄っていた歌を口ずさみながら、やってきた市内電車に乗り込んでいく人、テルオさんとお母様のように、少し歩いて話をする人、そんな幸せな顔であふれる宵の口。

 さらにお夕飯は小鳩堂でいただきましょうか、と、お母様がまたうれしいことをおっしゃる。

 それらは先日、テルオさんのお誕生日をゆっくりお祝いできなかった埋め合わせ、というお母様の心。

 けれど。

「はい」

 と、素直に返事をしながらテルオさんは、誕生日の外食をする余裕を作って下さったお母様のやり繰りも頭に浮かぶのだった。

 昨日お父様からの手紙が大陸から届いて、そこにはテルオさんへの誕生祝の言葉と、ひとり家庭を守ることへのねぎらいの言葉があった。

 彼女は涙ぐんでいた。

 その顔のまま愛息に、立派な国民におなりなさいと申した。大陸が騒がしいこの頃だけれども、どの国へ行っても、さすが立派な日本の子供だと言われるようにおなりなさい、と。

 かようなことを申された子供は、やはりその家庭なりの配慮を身に付けるものだ。


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