辻氏のこと
辻氏は、実家が破産するまでは、秀真くんの学費や、コバト会誌の参加料をずっと用立てていたのだった。昔の話だ。
尋常を出るのもそこそこに楽団員となった辻氏に、どうしてそんな金満な実家があったものか、そして、なぜ特に秀真くんを選んで、と思われた方もあろうが、そこには『小公子』がごとき物語に、御家騒動等々の入り組んだ事情があって、すぐには説かれぬ。実にあの大不況は様々な打撃を方々に与えたものだ、とだけは申しておこうか。
「その調子だ。仲間と幻灯が作れるなんて、素晴らしいことじゃないか」
縁があって紛れ込んだこの創作の仲間だが、みなよく勤労しながら詩や童話をつづっているのだった。それも全国にだ。勤めをはじめ時間の自由が減ってみて、それでも詩作に励み続ける先輩たちの立派さがわかりはじめてきたのである。
自分はこれから、この活動はどうしてゆくのだろう。まだわからないのだが、取りかかっていたねずみの話を仕上げる責任はあるだろうと、今はそれだけを考えていた。
「あれ、秀真さんと辻さんでねえの」




