著者による執筆覚え書
秀真くんによる風琴ねずみとふしぎなオルガンの話は三つほど完成していた。それぞれ、春、夏、秋の物語で、ラジオで演じられたのは、この最初の一話、春の話である。次郎さんはこのあと、オルガンの上ではねていたねずみが自分と同じ、ジロウという名前だという事を知る。そして友達になる。
ねずみらしく、かれらは兄弟がたくさんいて、オルガンに住んでいるタロウ、ジロウのほか、サブロウ、シロウ、ゴロウ、ロクロウ、と、ざっとジュウゴロウまでそろっているという。
彼らはそれぞれ町中の、本屋や交番、公会堂などに散らばって住んでおり、いつでも次郎さんらのような優しい子供の友達ができるのを歓迎している。また、ひとたびなにかが起これば兄弟は集まって、力を合わせて解決するのである。
年老いて法力のあるふしぎなオルガン、オルガンじいさんは、タロウとジロウの風呂や台所つきの住みよい部屋を中に備えている。
これまであちこちの大陸を旅して来たオルガンは、教室の子供たち、次郎さんや太郎さんたちに昔の外国の話を聞かせてくれたり、その力で星空の世界を旅させてくれたりもする。
「ちょっとジュウゴロウに用事ができたよ。あいつの好物の豆が手に入ったんだ。届けてやろうと思うんだ」
ある日ジロウねずみがキイキイ声でそう言うので、次郎さんは風呂敷包みを背負ったジロウを懐に入れ、にぎやかな冬の町へくりだしていった。
道中、自分は大黒様に縁のあるねずみとして恵比寿様にお参りしたいから、藤崎へ寄ってくれないか、と、楽しい気分になったジロウねずみに頼まれ寄り道をする。
考えてみれば百貨店でねずみの姿を見られては大変である。次郎さんは、何にでも興味を持つジロウねずみが懐から飛び出していきそうなので、ずっとハラハラし通しなのである。
百貨店・藤崎屋上に恵比寿様が祀られたことを取り入れ、仙台らしさが加わった作であった。
四作目の話となる年末の物語の、ここで秀真くんの原稿は書き足されては中断し、書き足されては中断していたのであった。交通局へ入り、車掌の訓練で緊張していたあたりの時期だと思われる。
「大黒様と恵比寿様が出て来るんだが、これからクリスマスにつながらないのかい。年末だからねえ」
「どうだべなあ。バチ当たらねえべか」
とはいえ藤崎は百貨店なのだから、年末にはクリスマスの飾りもあるのではないか。
「ううむ、サンタのおじいさんが、土地の神様に挨拶まわりをしていることにしたら、どうだべか。サンタさんは、いろんな国さ回るべ。んだけっとも、耶蘇の国ばかりでもねえから、そういうことも、するんでねえかな」
「ほう」
秀真くんの久しぶりのヒラメキを聞いて、辻氏は嬉しそうだ。




