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風琴ねずみと夜の電車 一  作者: 倉沢トモエ


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秀真くんの品のよさ

「さすが秀真くん。自分のタネではないのに、なんて、品のないことは言わないんだなア。そんなことが二言目には囁かれてしまうんだから、そっちが気の毒なんだな。

 とはいえ僕も心配がないわけではなくてね」

「奥さんは、どんな人なの」

「そこだよ。あんまり詳しくは聞いていないんだが、以前は女工だったらしいんだ。 よくある話だが、仕事先で弄ばれて、という気の毒な話が飛び交っている。もちろん山本くんの前では皆いわないんだがね。

 大きくなりはじめたお腹を抱えて、もう、どうにでもなれ、直談判してやる、でなけりゃ死んでやる、と、やけになっていたところを助けたのがきっかけらしいからね」

 いやはや、人の消息は、かように移り変わるものである。

 辻氏と山本氏は、先ほどのたま君同様、店に入った時期を同じくしていた。同じバイオリン弾きでもあり、二人で弾くと不思議に最初から音が合う、これはお互い気が合うはずだ、と、意気投合、よく行動を共にしておる。

「しかしなあ、」

 辻氏、なにか思い出した。

「どう思う、秀真くん。先ほど僕は、山本氏の去ってゆく足音を聞いていた訳だが、」

「まさか、山本さんの足音まで張子の音に聞こえたんではねえべね」

「ご明察」

「なんだべ、山本さんまで張子なの」

 いくらマネキンのような男前だからといって、それはない。酒の力が耳に障っていたのか。

「彼とは長く一緒にいるものだから、そんなことを気にしたことはなかったんだ。

 先ほど、博士の足音やらマネキンの倒れる音やらを聞き分け過ぎて、くたびれているのかもしれんな、僕も」

 荒唐無稽、荒唐無稽。

「山本くんはあの通り、惚れっぽくて子供好き。

 だから、たかさんの件は二つの幸せが同時に飛び込んで来たということだ、までいうんだよ、本当に喜んでいるんだなあ。張子にしちゃあ、情熱的だな」

 そういう辻氏は、実に嬉しそうだ。


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