事情を話される
辻氏と秀真くんは定禅寺博士の実験公開場を離れた。かの人はこれよりどうするのだろう。時間をおいて、また実験の実演を見せるのだろうか。
秀真くんはまだ博士と辻氏のやり取りが飲み込めず、しきりに首をかしげていた。 電車内のマッチ箱の因縁。かのメダルの奇術も博士の生首検分も、どうも奇術の範疇を超えていること。それにしては近隣の憲兵やら巡査やらが飛んでこないこと。さらにマネキンたちがどうにも人間らしく見える理由のこと。
「辻さん。あのマネキン、ほんとうにマネキンだべか」
「人間のなりすましだとしたら、あの倒れたときの音の説明が難しいな。荒唐無稽な夜らしいよ。博士の首まで外れるんだからなあ」
「あれは奇術だべ」
想像を超えたものを目の前にすると、かえってあれは奇術だろう、と、頭の中では合理化が働くようなのだ。
「そうだよ、僕だってあんな風に電車でなにか仕掛けられ待ち伏せのような真似をされるようなことは、これまでなかったんだからね。まだ戸惑っている。ただの耳がいい変人扱いでは済まなくなっている。子供の悪戯でこさえられるメダルが妙な方向に転がりはじめたもんだなあ。マネキンの音、博士の音。ううむ。そうだ、音。
秀真くん、博士のことはさておき、山本くん、隅に置けないと思ったろう」
「んだなあ」
しばらく顔を見ぬうちに話が進んでいたものだ。おめでたとは。
「なんてことはないんだ。ひとめぼれのお相手、たまたまお腹にね」
「……はあ、んだのすか」
「何があるか、わからんもんだねえ。
だって、知り合ったのは、先週なんだぜ」
秀真くん、しばらくきょとんとしていたが、
「山本さん、さすが、色男修業を積んでいるだけあるなや」
秀真くんと細君は、郷里の幼なじみである。
「そう思うかい。
いやあ、ひとめぼれの力、恐れ入ったね。たかさんの泣きぼくろを自慢するんだよ。あんな愛らしいものはないとか。聞いてるこちらが参ってしまうね」
「あんなに嬉しそうで、それならいいっちゃ。何より子供好きだべ」
先日、鈴くんが玄関先で見た男というのは、なにかその関係者なのだろうか。今はわからぬ。




