笑い
「あれ、力持ちだごど」
秀真くんが驚くと、
「いや、さっきうっかり落としてしまったんだ。割れかかっていたんだろうか。僕の過失だな」
山本氏はいぶかり、
「いいだろう、割れたのは僕が食うさ。
そうそう、先日はね、急に具合が悪くなって人が呼びに来たもんだから、店の子に辻くんを探しに行ってもらったのさ。
あの時は助かったよ。今日も田山君に迷惑をかけた」
一昨日だったか、派手な女給が停留所で辻氏を待ちかまえていたのは、その交代要請のせいだったのだ。
「なんだ、ずいぶん辻さん、もてていると思っていたら」
三人、笑う。
さっきの人形たちとは違う、それぞれの調子が響きあう笑い声だ。
「山本くん、お父さんになるそのことで、なんだか張りが出て、この通り一途な様子でね。もともと世話焼きで料理もうまい、すっかり奥さんにかかりきりさ。
かえって、やきもきしている娘さんも増えているんだぜ」
「よしてくれよ、辻くん」
照れて笑う。
「よかったこと」
秀真くんも、心から笑う。
「なんていう方なの」
「たか、というんだ」
「加減がいいときに、お目にかかれるといいなや」
「もちろん。君らの話はしているんだよ。ああ、皆で会えたらどんなにかいいだろう。楽しみにしているよ」
それじゃあ、と、山本氏は帰って行った。
「さて」
辻氏は続けて申した。
「山本くん、……」
「何かしたの」
「いいや。いつもの懐かしい彼の足音に聞き入ってしまってね」
線路に刻まれた電車内の音を聞く人の、どうも平凡人には理解できぬ境地だ。
「まだまだ。このまま予定通り果敢に進んでみようじゃないか。どうも今宵は心に荒唐無稽を求めてみればうまく運ぶんじゃないか。
そんな気がするよ」




