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風琴ねずみと夜の電車 一  作者: 倉沢トモエ


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32/70

熱弁

「これからさらに、この現象に確かな裏付けを得ることができれば、たいへん喜ばしい発見となりましょう。

 何しろ、日々の徒然が資源となるのですから。怠け者もぐうたらも、一文にもならぬ好き勝手なことを言って、または行動して、そのこと自体を資源とできるかもしれない。

 徒然、余暇が社会を動かす活力となる。これこそが文明です。一週間の徒然が、あなたひとりのわざひとつで高等で貴重な資源となるのです」

 油断ならない巷。

 辻氏は、それを体感したいという探偵小説趣味のために、カフェー・コネコ、市内電車、と、特殊な耳をわざわざすましてきたのである。

 道楽の気楽さがそこにはあったのだが、まさかかようなかたちで自分自身に降りかかってくるとは。

 その隣で秀真くん、ぼんやりとしているような、用心深い面持ちのような、にわかにははかりがたい顔で立っていた。

「直ぐにとは申しません。わたくしも、しばらく当地を離れる用件がありますので。

 いずれ、辻さんにご同意をいただいた上で、わたくしの研究にご助言などをいただきたい、そう考えているところなのです。

 強いメダルが出来る仕組みは、おそらくあなたがかなめとなるのです。

 あなたの鋭い耳が線路の歌を聞きだす時に何がメダルに起こっているのか、それが明らかになれば、この資源の乏しい国土の希望となり得ることでしょう。

 わざわざ線路に並べて交通局の方々を煩わせることもなく、メダルを製造する方法が見つかるかもしれません。

 あなたは芸術家です。資源の話など、あまりにも功利的で退屈されるかと危惧をしておりました。

 しかしながら資源の確保に成功すれば、あらたな夢や閃きがまたそこから力を得てかたちになるのです。きっと我々の思いもよらない夢や閃きが、今、この多少窮屈な時世のうちに身をひそめてその時を待っているのですよ。

これもまた国民のためと申せましょう」

 博士は名刺を一枚出して、辻氏は受け取り、それを合図としたかのように拍手が聞えて来た。

 一同、拍手の方を見た。

 そこに並ぶ紳士のマネキンと似ているのでぎょっとしたのだが、落ち着いてみればその顔はおぼえがある。


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