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風琴ねずみと夜の電車 一  作者: 倉沢トモエ


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奥羽地方仙台

「メダルにも様々な特徴があるのです。

 ご披露した、花火となるものは、あの一度きりで熱も光も消えてしまいます。最も弱々しいはかないメダルです。

 ところで、当地に限らず電車の走る町で子供たちは、たいていなにかを轢かせて遊ぶものです。釘やら王冠やら、体操の先生が鳴らすピストルの火薬やら。

 かつて様々な町でそうして作られたメダルを集め、実験を繰り返したのですが、たいていは花火で終わったものでした。

 ときどき、馬力のあるメダルが現われ、わたくしを驚かせましたが、なにがその力を強めているのか、わからないことがほとんどでした。

 ところが、当地です」

 奥羽地方仙台。

「ある時間帯に製造されたメダルが、決まって強い力を持つのです。土曜日または日曜日の夜十時台より、最終電車近くです」

「へえ」

 辻氏が力の抜けたような返事をした。どう応じてよいのかわからない話だ。

「信じられますか。

 それこそ、自動車も電車も走るようになるほどの動力を発揮するメダルですよ。わたくしは実際、故障で往生した自動車運転手を、ひそかにこれでお助けしたことがあるのです。

 お屋敷までのわずかな距離でしたが、後輪タイヤに洗濯バサミで取り付けたメダルで、見事に走り抜いたのです」

「ほお」

 秀真くんも間の抜けた声ばかりが出た。メダルをタイヤのどこに取り付けるのかは聞きそびれた。

「わたくしは調査を進めました。その時間帯に、電車内で何が起こっているのか。ごらんください」

 博士が取り出したのは、擦り切れた帳面である。

「王冠に番号を与え、それがメダルとなった場所と時間帯、検出できた出力を記録しました。交通局の方々には面目ないことですが、わたくし自らが線路に置いての実験です」

 メダルを一枚取り出し、くるりと裏を返して見せてくれた。

 三ツ矢サイダーのメダル裏には、《5‐23》と書かれている。

「やがて辻さん、あなたの存在が浮かび上がりました。週末に決まって『仕上げ』、と称して線路の歌を聞いているという。

 ほかの町には、そのような人物はありません。

 あの口上を、思い出していただけるとうれしいのですが。

『思えば、このメダルを轢くのは電車の重さのみではありません。電車には乗客がおります。居眠りをしたり、会社や家計の勘定について頭を悩ませたり、ぼんやりと夢にふけってみたり、おしゃべりをしたりの乗客でございます』」

 そこまできたところで、なんと秀真くん、一度聞いたきりのものを覚えていて、

「『そんな悩みや夢やおしゃべりが、電車の重みと共に、メダルに影響を及ぼしていたとしたら……これからご覧いただくある性質とは、あるいはそのような事情が影響しているのやも知れません』」

 途中から先を継いだ。

「すばらしい。なんという才能でしょう」

 博士は感激して、さらに続けた。

「そう、辻さん。わたくしは仮説を立てていたのです。

 あなたの『仕上げ』。その行われる時間。

 線路から、過ぎ去った車内の徒然を聞いて楽しむその時に製造されたメダルです。悩みや夢やおしゃべり。取るに足らぬものです。が、それらがその時間帯に限り、何らかの未知の作用を及ぼされていたとすれば。

 なにしろ特別鋭い耳が、蓄音機が種板から音楽を拡声させるように、線路から悩みや夢やおしゃべりを十分引き出している状態で作られたと言えるメダルなのですから、それはそれは爆発的な力が蓄えられましょう」

「僕の道楽が、途方もないことになっていたんですねえ」

 夢やおしゃべりを、メダルは動力に変換できるのだと博士は申す。


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