市内電車の奇人
さて市内電車の奇人とは、いかようなことか。
カフェー・プティ・シャ・ノワでもコップを用いて披露されたが、つまりは辻氏の鋭い耳である。市内電車内で彼が週に一度好んで行う習慣が、物好きたちに知られていた。
市内電車はぐるぐると一日蓄音機のレコード盤のように回っている。
辻氏はよくこのように説明した。
『ところでレコード盤には音やら話やらが刻まれた溝があって、蓄音機は針と回転とスピーカーとでそこから刻まれたものを拡声するだろう』
一日の終わりに電車に乗ると、その日の車内での出来事が線路に刻まれており、その上を車輪がまわれば、辻氏の鋭い耳はそれを聞き分けられると申すのであった。
週末ともなると、その週の車内の出来事を総ざらいできるのだと。ほんまかいな、と、これもいつか誰かが申した。思えば何度もほんまかいな、と申されている。
「辻さんが電車に乗り、目を閉じて何周も市内を巡っていると、お聞きしたときにです。わたくしに霊感が降りて参ったのです。
先ほど、メダルを用いる機械をご披露いたしましたが、それに深く関わるものなのです」
説明が始まった。




