町の響き
「ほう」
「それだけなら、お話しするまでもない。問題はその時のかの人の足音です」
また何事かを聞き分けたのか。鋭い耳も、ご苦労なことである。
「その紳士は、片足の足音が独特な音を立てていたのです。靴の具合でもなし、ご事情があっての義足の重たい木の音でもなし」
博士は黙って耳を傾けておられる。
「先ほどのご説明の最後に、そのマネキンのみなさんが倒れられた時、はっとしたのです。
似通った音ではなかったか、と」
「まさか。ここにいる人形はまだ一人で電車には乗れぬ者ばかりですよ」
「ええ。ですから僕はさらに注意を払いました。
注意を払う、というのは、その後、僕の周囲で似た音が発せられる場面があれば見逃さない、ということです。すると、もう一度とらえることができたのです。
博士、あなたのその左脚です」
秀真くんは、それを聞いてぽかんとした。どう受け止めればよいのか、にわかにはわからぬ。
「歩くたびにあの電車で会った紳士と、同じ響きを発している」
博士は。
ははは、と、明朗な笑い声が聞こえた。
「お見事です。辻さん」
なんと、名を存じておられた。続けてあたたかい拍手まで。
「いかにも、こちらはわたくし工夫中の義足です。そう、義足なのです。木製よりは使用者に合わせて軽重の調節に融通が利きます。そして頑丈なものを目指しております。まだまだですがね。なるほど、似通った音となるはずです。張子の技術を新素材に応用した部分がありますから。
じつは、こちらもまたメダルの力の応用でして」
博士はかがんで、ズボンの裾をめくり、左足の踝を探ると。
メダルが一枚抜き出された。
「自画自賛となり恐縮ですが、メダルなしでも十分な動作が得られる自慢の脚です。なにしろダンスが趣味のわたくし好みに改良を重ねた次第でして。
が、さらにそこにメダルが入ると、格段に滑らかな動作をするのです。繊細な動きも思うままです。
かように、役割を与え必要な位置に据える、正しく動作する、そのような応用にメダルは向いているようなのです。
さらに。こちらもご覧にいれましょう」
博士は、台の上に並べた手品の道具を片づけはじめた。
そして、何事かがはじまると括目する二人の前で、まずくだんの左脚が外されて台の上に据えられた。
「じつは、これだけではないのです」
申しながら、次は右腕が軽々と外れ、それも据えられた。
「さいごに、こちらもお目にかけましょう」
しまいには、ひょい、と、自らの首をとりはずし、それも台に据えられた。




