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風琴ねずみと夜の電車 一  作者: 倉沢トモエ


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人形(マネキン)たち

「しかし、これだけ動きが揃えば、今のところは大したものではないでしょうか」

 博士がふたたびメダルを各々に戻し、右手を上げ合図すると、立ち上がり整列したマネキンたちは全員揃って右手を上げ、続けて博士が降ろすと、その右手を隣のマネキンの左肩に寸分たがわぬかたちでのせた。レビュウのようだ。

 この見物人たち。メダルで動くそのことも見事だが、実にまあ、すばらしい生き人形ぶりで、そちらも余程気になるというものである。

「ずいぶん手の込んだ人形だこと」

「いえなに、ただの張子、どこにでもあるマネキンですよ」

「七夕でよく飾られてっぺした。あの張子の人形より、よっぽど人間に見えるなや」

「七夕。七夕の飾りもわたくし、張子人形ばかりではない、からくり仕掛けのものをいくつか手掛けたことがございます。桃太郎や金太郎が動くのです。

 それはさておき、どれもわたくしが手ずからこしらえたマネキンではないのです。資金が豊富という訳ではありませんからねえ。不況で閉店した洋品店から譲られたり、打ち棄てられていたところを拾ったりなどしてきたものです。そこに秘密の加工を施します。それが人間らしく見えるのも、これまたメダルの霊妙な作用でございまして」

「よく動くものだなや」

「中ががらんどうで、余計なものを持ち合わせておらぬ方が、口答えもせず意のままに動かせるようです。

 そのため先日、これなら軍隊に加え爆弾を抱えて突破させるに都合が良い、徴兵逃れの工夫もされずに済むという意見と、愛国の魂を持たぬ者にそんな尊い役割をさせるとは何事か、怯懦なり、というお客様の意見の対立がありました」

「はあ」

「それでも、がらんどうである故、メダルの中の何かが反響したのかどうか、思いもよらぬ奇妙な動きをすることもありますが、まれなことです。

 そうだ、なんだかしまりがわるいから、」

 博士は再びマネキンたちを整列させた。

 そして、

「よおっ!」

 三本締めを。

 見事に揃っていた。

 だが、そこに。

「あはははははは」

 突如、カラカラと笑う声。

 見れば、小柄なマネキンがある。大口をあけて笑っておる。

 整列したマネキンたちと装いをおなじくし、ただ、列からはみ出しているように見えた。

「おや」

 みとめた博士が申すには、

「ほら、空洞ではないマネキンは大抵、かようにやんちゃであるのですよ。

 こちらに見えていたのだったのだね。ご無沙汰したね、黒猫。メダルの数が先ほどと合わないから、もしやと思っていましたよ」

「さすがのご慧眼。こちらこそ。ご無沙汰の上に、失礼を」

 胸ポケットからメダルを取り出し、返納する。

 帽子の下にある顔は、紳士のマネキンらしい化粧を施されているためか、少年のようにも少女のようにも見える。


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