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風琴ねずみと夜の電車 一  作者: 倉沢トモエ


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23/70

実験

「このメダルより、光と音を発します。

 こちらの機械で可能となるのであります」

 博士の背後で出番を待っていた機械の上から黒い布がふわり外され、秀真くんは、あっ、と思った。

「だれ、ミシンからこさえたのかや」

 足踏み板のついた台が、どうもそのようにしか見えない。

 台の上にあるからくりは黒いミシンを改造したと思われる。

 ゴムベルトと滑車、ハンドルがいくつも付いた、なにやら造りかえられて、プレス機のように見える。

「こちらに、そうですな、当地に敬意を表し、キリンビールとしますかな」

 小田原に工場を持ち、繁華街には名入の提灯がいくつも下がる、キリンビールである。

 博士、その一枚を、かちりと音を立てて台に乗せた。

「では、」

 一番大きなレバーをぐい、と引くと、ブーン……、低い音がして、メダルを乗せた小さな台を緑の光が照らした。

 掛け声とともに、レバーをさらにもう一段。

 台の上からずしり、と、重々しい音と同時に何かが下りた。洋服を伸ばすアイロン鏝だ。メダルをさらに押しつぶす形である。

 その時。

 シュッ、と、鋭い音がして、白く強い光が天空目がけ飛んでゆくのを確かに見た。

 人々が一斉に笑い出した。

 その薄気味悪さで秀真くん、まるで打ち上げ花火のような趣向の驚きもそこそこ、じきに我に返った。

「以上ですか」

 辻氏はといえば、けろりとして博士に尋ねる。

「以上です」

 博士は落ち着いた調子で答えた。

 次の瞬間、見物人たちが、わっと、拍手を始めた。

 だがそこで、秀真くん、またこの人々の異なさまに気が付いた。

 拍手とは各人、ばらばらな調子で起こす手拍子であるから、そのばらばらであるところが一時に起こるゆえ、あの爆発的な熱狂を伝える音の固まりとなるのである。

 ところがこの人々、ひとりひとりは熱狂的に拍手をしている。

 そこまでならなんの不思議もないのだが、手を打つその一拍一拍が、毫も乱れず揃っているのだ。

 これはもはや拍手には聞こえない。

 タンタンタンタンタンタンタンタン……速いテンポできっちりと揃えた音のつぶてのような手拍子である。


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