表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風琴ねずみと夜の電車 一  作者: 倉沢トモエ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/70

物理学

「この、瓶の蓋が電車に轢かれ、つぶされるとき、どれだけの力がかかっておるやら、みなさま考えたことがありますか」

 秀真くんは知っている。

 たとえば、古顔のえんじ色、モハ1型は、七屯以上ある。

 上り段をあがると長椅子が一列ずつ向かい合って並んでいる。前方後方ともにコントローラが備わっている。まん丸の輪がついた吊革がぶら下がっている。  日々なじんだ仕事場である。

 しかし、そんな愛着をご披露する前にその気が削がれた。

 周りのお客、かようななんでもないことにも、ははは、と、笑いで返すのだ。

 あまりそのつもりはなくとも、生きた気配とそうでないものの気配との区別というものは、ふしぎにかぎ分けられるものである。

「現在の物理学によれば、電車の重みがかかる、王冠が潰れる、メダルとなる。そこで力の収支はほぼつりあってお釣は出ないと、そういうことです。

 しかしながら、メダルとなった王冠、なぜお子さまがたの心を惹きつけるのでしょう。

 この、惹きつける力を突き止め、再び引き出して用いることができれば、動力に関する当世の様々な問題が解決できるのではなかろうか。

 わたくしの霊感はそう申したのでございます」

 巧みな調子で話されており、説得力があるように聞こえるが、検分すると不思議である。

 王冠がメダルとなるために必要な力と、子供たちの心を惹きつける力を、なぜか博士は魔術的な話術を工夫し混同させようとするらしい。

「ほう、秀真くん、電車もそのうち、こいつで走るかもしれないねえ。

 ちびさんたちの熱は、大したもんだからねえ」

 辻氏は構わずに楽しげだ。

「面白いじゃあないか」

 そこでまた、どっと周囲が沸いて、秀真くんはいよいよ不安になってきた。

「わたくしは事実、メダルが轢かれたその時に、ある性質が圧縮され閉じ込められることを発見いたしました。

 思えば、このメダルを轢くのは電車の重さのみではありません。電車には乗客がおります。居眠りをしたり、会社や家計の勘定について頭を悩ませたり、ぼんやりと夢にふけってみたり、おしゃべりをしたりの乗客でございます。

 そんな悩みや夢やおしゃべりが、電車の重みと共に、メダルに影響を及ぼしていたとしたら……これからご覧いただくある性質は、あるいはそのような事情が影響しているのやも知れません。

 そして試作を重ねました機械は、こればかりではありませんが、今宵はこちらをご披露いたしましょう」

 事実、とは申すが、証人など居らなそうだから、夜店の口上ほども信ぜられるとは思えぬ。夢やらおしゃべりやら、ますます怪しくなってきた。

 まあまあ、そこはやはりここも夜店だということだよ。いぶかしげな秀真くんを制し、辻氏は変わらず楽しげに見つめている。

「面白いじゃないの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ