工学博士・見学料五銭
秀真くんと辻氏、ふと足を止めた。
飲み屋と芸者置屋が並ぶ国分町、虎屋横丁のはずれ、元櫓町にさしかかるあたりの十字路付近には二、三人ほどなにかを囲んだ人たち。
「損得の問題ではない、と仰る方が居られれば、なるほどご尤も」
その中心には、なにやら大きくもないからくり仕掛けを前にひとり説明を続ける、白髪交じりの蓬髪に髭をたくわえた老紳士が。
足元に札がある。
工学博士・定禅寺光人。
見学料五銭。
背広を着、頭には山高帽子。
脇には小さな台があり、なるほど、これは露店と併せての商売らしい。
いつまでも煙が出る消えない煙草、小銭やマッチ棒が消えるマッチ箱などが並んでおり、こちら見学料と同じ五銭均一、お買い上げの方は新発明見学無料、との貼り紙が台の縁から下がっている。
見てはっとした。先ほど辻氏が披露した、中に入れたものを消すマッチ箱、【Café BAKENEKO】も並んでいるではないか。
一体何の演説やら。露店に立つ博士がもっともらしいことを並べ、いかものを売りつけるのは実にありふれたこと。
「そもそも資源に乏しい我が国でございます。
それを十分に憂え、わたくしは日々、新動力源を求め、尽力してまいったのでございます。知恵を絞り、工夫を凝らし、非常時を勝ち進むには技術を尽くすよりないのでございます」
「この人だべか、工学博士」
秀真くん、小声で辻氏に尋ねる。
「おそらくそうだろうねえ」
老博士。三つ揃いなど着て、眼鏡を用い、立派な髭まである。




