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風琴ねずみと夜の電車 一  作者: 倉沢トモエ


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工学博士・見学料五銭

 秀真くんと辻氏、ふと足を止めた。

 飲み屋と芸者置屋が並ぶ国分町、虎屋横丁のはずれ、元櫓町にさしかかるあたりの十字路付近には二、三人ほどなにかを囲んだ人たち。

「損得の問題ではない、と仰る方が居られれば、なるほどご尤も」

 その中心には、なにやら大きくもないからくり仕掛けを前にひとり説明を続ける、白髪交じりの蓬髪に髭をたくわえた老紳士が。

 足元に札がある。

 工学博士・定禅寺光人じょうぜんじ こうじん

 見学料五銭。

 背広を着、頭には山高帽子。

 脇には小さな台があり、なるほど、これは露店と併せての商売らしい。

 いつまでも煙が出る消えない煙草、小銭やマッチ棒が消えるマッチ箱などが並んでおり、こちら見学料と同じ五銭均一、お買い上げの方は新発明見学無料、との貼り紙が台の縁から下がっている。

 見てはっとした。先ほど辻氏が披露した、中に入れたものを消すマッチ箱、【Café BAKENEKO】も並んでいるではないか。

 一体何の演説やら。露店に立つ博士がもっともらしいことを並べ、いかものを売りつけるのは実にありふれたこと。

「そもそも資源に乏しい我が国でございます。

 それを十分に憂え、わたくしは日々、新動力源を求め、尽力してまいったのでございます。知恵を絞り、工夫を凝らし、非常時を勝ち進むには技術を尽くすよりないのでございます」

「この人だべか、工学博士」

 秀真くん、小声で辻氏に尋ねる。

「おそらくそうだろうねえ」

 老博士。三つ揃いなど着て、眼鏡を用い、立派な髭まである。


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