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風琴ねずみと夜の電車 一  作者: 倉沢トモエ


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仙女様

 天堂嬢、カフェー・プティ・シャ・ノワの楽団が居るステージを、奇術修業の弟子たちに短い余興にでも使わせてほしいと何度もマダムに懇願しているというもっぱらの噂。

 なるほど確かに多くない観客の前だが、修業の場には打ってつけなのではないか。そんなところにも目端の利くところを感じ、喫茶部の女給たちの中には感心する者もあった。

 だが自分の持ち物である店で、マダムにそうまで強く申さないあたり天堂嬢の人柄で、頑として応じぬマダムはやはり以前のご主人と天堂嬢との間になに事か思うところがあるのではないか、と、結局そのうがった話に着陸するのである。

 ダンサーたちはどう考えているのか。

 演奏の休憩中に余興として少しだけ奇術を見せるのなら構わないが、余興とはどの程度の時間を取るのか。お客はダンスを目当てに来ているので、長く時間を取られては困る。ダンスに取り組む気分も壊れてしまう。

 そんな短い時間で、そちらこそ修業らしい修業となるのか疑問だという意見が多かった。喫茶部の女給は日ごろからダンサーたちの誇り高さが鼻につくと思っていたので、面倒になったのか、あら、そうなのね、と言ってこの話は終わった。

「その話はこちらでも問題になっていてね。

 師匠は奇術師。不思議の仙女様。けれど、少女歌劇出身者の貢献がなければ成り立たないのが、今回のお伽歌劇の演目なのですから、奇術修業ばかりを優遇するのはどうかという意見もあるのよ。歌劇の誇りが軽んじられている、ってね。それとも、歌で芽の出ない団員を、奇術部門ということで体よく離れさせようというのかしら、なんて意地の悪い話もあるわ。

 どれもこれも、あたしが歌が不得手なのに猫役をいただいた、その当てつけのようにいわれて面白くないんですけれどね。

 どんなご不満や文句があっても今回は、猫には曲芸が必要と、師匠の信頼する演出の先生がおっしゃったんんですからねえ。あたしは知らないわ。

 そもそも、あの方たち威張ってらっしゃいますけど、このお伽歌劇の趣向がこれからも続くとは決まっていないんですからね」


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