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風琴ねずみと夜の電車 一  作者: 倉沢トモエ


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たま君の秘密

 この部屋にある電話はマダムのみが使用するもので、したがって秘密の用件が多いのである。

 それを取り次ぐことを許されているたま君は、店では相当の位にあると見てよいのだろうが、秘密の用件を扱っているそのこと自体も秘密に属する。慎重であるべきで、重役であることにのぼせるゆとりはない。

 たま君は、朋輩たちにとっては、時折おしゃべりの下手な女給としてカフェーに出てくる帳簿番である。ダンスホールのチケット集計も喫茶部の売り上げ計算も、たま君にかかっている。

 お客との駆け引きとは縁がない人柄だけど、そもそもダンスも平凡すぎて喫茶部に配属されたと聞いているけれど、マダムのお眼鏡にかなってお給金の計算をしていらっしゃるんですから、それなりにご機嫌は取らなければこわいんでしょうねえ……そうもささやかれる。一部の者は、女給の監視のために抜き打ちでカフェーへ出ているのだろうと邪推しているという。

 やはりのぼせている余地はない。みな、前借や休暇の都合をたま君に頼る立場上、おとなしいのである。油断はできない。

 この仕事がいかに油断できないものなのか。気をつけなければならぬのは、朋輩たちとの感情の交通整理のみではない。

 たとえば、あの接客用の黒革を張ったソファである。

 たま君、何の気なしに顔を上げたところ、視線に入ったものに気付き、ふと手が止まった。


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