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結婚したくない領主の奮闘記  作者: 奈良づくし
9/17

小旅行

「旦那さま。非常事態が発生しました。」


「え?」


やだ、エリー……いきなり何言ってんの?

え?なんだ?魔物被害?

いやいや、それならすぐにでも騎士が動くから騒がしくなるだろ?

反乱?

それこそ無い無い。今の状況であったらどこの領でも発生するよな。

自然災害?

天気はここ最近良いし、有り得ないだろ。夏前だぜ?

一体何なんだ?


「こちらを。」


「お、おう。」


無茶苦茶嫌な予感がするんだけど……。

俺に来る手紙なんて、親父か友人?くらいなもんだ。

後はまぁ、王弟殿下宛に送った返事くらいかな。

エリーから渡された手紙を裏返して、封蝋を確認する。

なんで……王族専用の封蝋がついてるの?なんで?


「え?俺なんか悪いことした?」


「存じ上げません。中を検められるのが最善かと思われます。」


「…………嫌なんだけど?」


「ですが、それ以外に確認できません。」


「…………。」


エリーからペーパーナイフを手渡されて、受け取った手がプルプル震える。

あ、ちょっと中身切っちゃったかも。

中には一枚の定型紙。しかも羊皮紙。王様の勅令で扱われるものだ。

ちょっと破れちゃってるけど、恐る恐る中を見る。


「…………うわぁ。」


「旦那様、如何されました?」


「見てみろ。」


「拝見します。……そうですね、貴賓室を全面改装した方が宜しいかと。」


「切り替えの早い事で……。あ、それとニノに言っといて。もう少し豪華に出来る様に手配してって。花屋に発注掛けても良いぞ。」


「畏まりました。残りの期日の間に仕上げます。」


「頼むわ。面倒くせぇ……。はっ、胃に穴でも開きそうだ。」


「後ほど胃薬をお持ちします。それまでは辛抱してください。」


「おう。」


俺の領地に王弟殿下、並びにマリエール嬢がやってくるらしい。親父も添えて。

なんで?なんでぇ?おかしいだろ!?

え~と、なんだ。何が必要だ?

玄関ホール・ダイニングはそこそこ平気。

応接間も問題無い筈。貴賓室はエリーに頼んでるから大丈夫。

親父はどこかにぶち込んでおけばいいし……。


「あと2日か……。」


「旦那様。一点宜しいでしょうか?」


「ん?なんだ?」


エリーが淡い光を伴って現れる。


「貴賓室は対応可能です。ですが、御客様の目的が不明です。どのように歓待致しましょうか?」


「ワインは熟成した奴を出してくれ。料理長は何か言ってたか?」


「はい。紅茶や菓子等は問題ありません。ですが、食事に関してはインパクトが足りないと仰ってました。」


「あ~、だよなぁ。特産なんて無いからなぁ。」


「はい。お望みでしたら狩って参ります。」


「あ~。それ、俺が行くわ。」


「…………旦那様?」


「だってさ、少しくらい息抜きしないとさ……辛いんだよ。」


「…………。」


「そんな目で見るなよ……。少しくらい鬱憤を晴らしたいだけなんだよ。」


「では、こう致しましょう。私が旦那様の足となります。これで移動時間は削減できると思われます。宜しいでしょうか?」


「お、いいね。さっすがエリー。話が分かるな。よし、行くぞ!!」


「まさか、そのまま行かれるおつもりですか?」


「おう。どうせ、そんじょそこらの魔物じゃ暇つぶしにならない。」


「…………。」


エリー。別に俺は遊びたいわけじゃないんだぞ?本当だぞ?

自室に置いてある剣を持ってエリーに近づく。

いや~、楽ができるな。


「ぼ、坊ちゃま―!!」


扉が勢いよく開かれ、執事長のカメが文字通り転がり込んでくる。

相変わらず慌ただしいやっちゃな、お前。


「坊ちゃま!!聞いておりませんぞ!?やんごとなき御方がこの屋敷へ来られるなどと!!エリー、何故私も一緒に連れて行ってくれなかったんだ!?」


「申し訳ありません。旦那様に一点お伺いして戻る予定で御座いました。」


「カメ、あと頼むわ。よし、エリー行くぞ。行先は南の峡谷な。」


「畏まりました。執事長、少し離れます。」


「待って!?まっ…………」


カメが五月蠅くなんか言ってるけど、どうでもいい。

ただ、カメの顔がくっそ面白かったので少しだけ気分が楽になる。

いっつもネチネチ小言言いやがって。ざまあみろ。


エリーの空間転移で、自室の風景が岩肌だらけの景色に変わる。

エリーは一度行った場所ならどこでも移動できる。

ここも、以前修行で来たところだ。


「さて、ワイバーンでもいれば良いんだがな。」


「目的はワイバーンでしょうか?」


「いや、最低限ってところだな。出来れば竜種。」


「さて、いるでしょうか?」


「残ってるか……の間違いじゃねぇか?散々狩ったし。」


「そうですね。未然に防げましたので結果良し、と言ったところですね。」


「まぁな。被害も無くて、懐も潤って、ついでに借金にほとんど消えちまって……。」


「旦那様、切り替えましょう。ここは既に危険区域です。」


「お~う。」


嫌な事を思い出しながらぽつぽつと歩き出す。

ここで、俺の身体に魔力を循環させる。

俺だけの魔法。周囲の生物を感知できる魔法。

生きるもの。それが人でも、植物でも、動物でも、魔物でも。


「……大きい反応があるな。形状は四足。」


自然と顔が綻ぶ。ラッキー、大物発見。


「良し、さっさと狩りに行くぞ。エリー、付いてこい。」


「畏まりました。」


丘を1つ越え、谷を1つ降り、対象のいる目的地へと駆けていく。

雑魚は無視。いちいち相手にしてられん。

エリーも傍で走ってるし…………おい。


「エリーさん?重いんですが?」


「この機会に少しだけ増やしました。如何でしょうか?」


「いや、重いって。何で増やすの?」


「はい。旦那様が余りにも楽そうに振舞っていらっしゃいましたので、物足りないと懸念しました。私なりの配慮に御座います。ご不満でしたか?」


「不満です。いつもくらいにしてくれ。」


「畏まりました。」


そういう所が駄目なんだぞ!?いらんお世話をするんじゃねぇよ。

お茶目でやってるの?それとも嫌われてる?

まぁ、いいか。はい、ドーン!!

持ってた剣を振ったら、対象の頭が落ちる。

見た目以上に柔らかかった。おいおい……。


「え~。なぁ、エリー。これってアースドラゴンだよな?」


「はい。形状・生息地共に酷似しております。十中八九それかと思われます。」


「柔らかかったけど、大きさ的にはまぁまぁ長く生きてるな。」


「恐らくそう思われます。持ち帰りますか?」


「ああ。庭先だと……ニノに怒られるかな。裏門にしてくれ。」


「畏まりました。」


エリーが軽そうに切り落とした頭を空中に浮かべる。

アースドラゴンの身体も同様に持ち上がる。

便利で良いよな~。俺も使いてぇ。


「では、帰還いたします。」


「おう。帰るか。」


エリーと俺、獲物が淡く光ると周囲が一気に変貌する。

目の前には裏門が見え、我が家が眼前に映る。

ちょっとした旅行気分だったが、屋敷から慌ただしい声が飛び交ってる。

その声で現実へ戻される。はぁ……。しばらく、海にでも行きてぇ……。

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