面倒ごとは嫌い
返事は「否!!」
規定紙にでかでかと書いて封筒に仕込む。
封蝋をぺったり付けて~はい、完成。
俺が何したって言うんだ……。悪い事なんてしてないだろう……。
すんげぇ気が重い……。はぁ……。
「旦那様。既にため息を17回されています。」
「数えなくていいし、覚えなくていい。」
「畏まりました。」
「はぁ……。応接間で居るんだったな。」
「旦那様がご足労せずとも、私がお渡しいたします。」
「いや、俺が行く。なんか、すり替えられると嫌だし……。」
「そのような詐称行為などいたしません。旦那様を裏切る行為など、私には出来かねます。」
「エリーじゃない。他の奴だ。特にカメ。」
「カメ様ですか?そのような事は無いと思いますが?」
「エリー。そのままの君で居てくれ。人間はな、心が汚いんだよ。」
「申し訳ありません、旦那様。私には理解出来かねます。」
「それでいい……。開けてくれ。」
「はい。」
エリーがノックをして中の返事を待つ。
問題無く扉が開かれる。
そこそこの調度品と寛ぐことが出来るスペースで、来客の対応は基本この部屋だ。
室内には姿勢正しく座っている人影が一つ。
「ご足労痛み入る。返事を持ってきたので、どうかそちらの主へ渡して欲しい。」
「畏まりました。レイモンド・リグ伯爵様。私のような一介の者にも快く歓待して下さり、感謝申し上げます。」
「いや、当然のことをしたまでだ。そうそう、エリー。」
「はい。騎士様、こちらをお受け取り下さい。」
エリーが銀のトレーに載せて差し出したのは、1つの袋と3本のワイン。
袋には労うための金貨が何枚か入ってる。
ワインは道楽ワイン。
意味は「これやるから、大人しくしててくれ。」と王弟殿下向けのサイン。
「では、お言葉に甘えて。」
「ワインの1本は必ず主に届けてくれ。残りは好きにしたらいい。」
「いえ、全て主へお届けいたします。」
「まぁ、そこは任せる。今日は泊っていくか?」
「いえ、直ぐに返事を受け取ってこいと、厳命されております。伯爵さまの御申し出は有難いのですが、申し訳ありません。」
「そうか。帰り道中も気を付けてくれ。」
「はい。では、これにて。」
「送ろう。エリー、案内してやれ。」
「畏まりました。では、騎士様。こちらへ。」
「頼もう。」
エリーに騎士を案内させて、俺は自室へと戻る。やる事山積みなんだよ……。
折角さ、残り4年の減税処置貰ってるんだから、色々やりたいじゃん。
領地の発展もそうだけど……、魔物被害も無くなるようにしたいしさ。
とりあえず、自室にいるリッドを何とかしないとな。うざい。
「旦那様、無事騎士様をお送りいたしました。」
「ご苦労さん。エリーも何か欲しいものあるか?」
「御座いません。」
「たまにはなんか欲しいって言えよ。」
「いえ、私に必要なものは既に御座います。」
「またそれか……。」
エリーにとって必要なもの。俺という主人。ただそれだけ。
カメなら、休暇とか金とかワインとか……遠慮なしに強請ってくるぞ?
「なぁ、エリー。」
「はい、旦那様。」
「とりあえずさ、休みとかどうよ?」
「必要御座いません。それに、旦那様のお目付け役が必要になります。」
「そんなもん、カメにやらせればいいだろう?」
「カメ様でしたら、旦那様の無理、無茶を止められません。それに、買収される可能性が御座います。」
「(バレとる。)…………じゃあ、金。何か買い物とかしたらどうだ?」
「旦那様からの贈り物で十分に御座います。それに、これ以上の御厚意は心苦しく思いますので、お止めいただければ幸いです。」
「それは無理だ、日頃の感謝の意味もあるのだからな。他…………何かあるか?」
「何も御座いません。もし、もしあるとするならば、どうか旦那様のお側にてお仕えささせて下さい。」
「はぁ……。わかった。欲しい物とか、なんかあったら教えろ。」
「畏まりました。ご配慮感謝いたします。」
自室の扉をエリーが開ける。
その先には燃え尽きたリッドが俺の机にもたれかかっていた。
素直に思うけど、気持ち悪いな……。
「おい、起きろ。」
足を軽く蹴ってみるが反応なし。なんだ、こいつ。
待てよ……こいつに擦り付けるか?
正確には何があるが、女が絡まなければまともだし。顔は良い方だ。
子爵位だが、そこまで落ちぶれてもいない。むしろ領は明るい方だし。
「おい、リッド。お前がマリエール嬢とお見合いしてみるか?」
「いいの!?」
いきなり起き上がったかと思ったら、足に抱き着いてくんなよ。
「ああ……。俺は断りの連絡を送ったし、こういう話が来るって事は向こうも捜してるんだろ?だったら、俺が王弟殿下に聞いてみるけど……「頼む!!」……分かった分かった。」
こいつ……マジでメンドクセェ。
椅子に座って規定紙を取り出す。
こういう面倒なのは直ぐに行動した方が良い。
「今更聞くけど、マリエール嬢ってそんなに良いのか?」
「え!?知らねぇのか?知ってるはずだろ?」
「え?知らない。」
「はぁ!?おま、レイだって15歳の成人パーティー出てたろ?」
「ああ。行かなきゃ家督継げなかったしな。」
「そこにいたんだぜ!?マリエール嬢も!!」
「知らん。興味なかったからな。挨拶して飯食って酒飲んだらバルコニーでひたすら空気になってたし。」
「いやいや、あんな美人見ない方がおかしいんだけど!?」
「ふ~ん、そうなの?」
「そうだよ!?って、美人ってだけじゃねぇぞ?優しさ溢れる御方だ。粗相をした令嬢に気遣って手を貸したりもしたんだ。」
「ふ~ん。エリー、これ。明日で良いから速達で。」
「畏まりました。何かお付け致しますか?」
「う~ん。ワインは持たせたしな……。アレにしとくか。」
「よろしいのですか?」
「持っててもいらないしな。王弟殿下なら上手い使い道があるだろ。」
「畏まりました。手配いたします。」
「おう。あと、茶貰える?」
「はい。直ぐにご用意いたします。少々お待ちください。」
エリーは一礼の動作をした後、全身が淡く光った後、一瞬で消える。
リッドの表情が面白れぇ。なんだ、その顔。
「初めて見たのか、消えるのは?」
「え?消え……え?」
「エリー曰く、空間転移だと。目的地に直ぐに行けるってんで重宝してるんだと。」
「くうかん?」
「良く分からんだろ?まあ、そんなに難しく考えなくていいよ。」
「お、おう。」
「そんでまぁ、そのマリエール嬢ってのは人気があるってことで良いのか?」
「あ、ああ。中央じゃ話す事も難しいって話だぞ?お茶会は定期的にしてるらしいけど。」
「ほ~ん。」
「興味なさすぎだろ……。」
「興味ねぇもん。」
「……レイ、お前って本当に男か?」
「喧嘩売ってるのか?」
「こう聞きたくもなるだろ!?」
「知るか。お、もう帰ってきたか。」
「はい、ただいま戻りました。お待たせしてしまい申し訳ありません。」
いつの間にか帰ってきていたエリーに、リッドがビビりまくってる。
淹れたての紅茶を飲みながら友人の顔を眺める。馬鹿面だなぁ……。