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結婚したくない領主の奮闘記  作者: 奈良づくし
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婚約話①

朝早くにエリーに起こされ、今日も一日、始まりの運動から。

もう少しさ、甘い起こし方、してくれないかな?

耳元で囁くとか、ベッドに腰掛けて頭撫でて、とかさ。

……なんでさ、毎回毎回横抱きで起こされるの?

別にいいけどさ。

その後の着替えの最中にさ、重し付けるのを止めてくれたら最高なんだけどね。


「なぁ、エリー。」


準備運動している俺とは裏腹に、ただ立って待っているエリーに声を掛ける。

真っ赤な髪に琥珀色の瞳。いつ見ても綺麗だ。

もうちょい、可愛らしく、笑えば、最高なんですけど。


「はい。旦那様、如何致しました?」


「俺がガキの頃に言った言葉、覚えてるか?」


「はい。全て記憶しております。」


「…………。」


(……恥ずかしい過去、全部覚えてるってことでよろしい?)


「旦那様、如何されましたか?何かお忘れの事でも?断片的な言葉でも私が検索いたします。」


「いや……なんでも……ないから……。」


「畏まりました。ご入用でしたら、断片的な事でも問題ありませんので、お教えください。」


「じゃ……じゃあ。15年前の……昨日の出来事は?」


「はい。早朝より旦那様に連れられ、剣術の指南を願われました。再三の注意と忠告を踏まえた上で懇願されましたので受諾いたしました。同日、旦那様の初めての訓練は重り10グラムからスタートし、かけっこと称して走ってもらいました。2時間程は知られた後30分程休憩。後に……」


「もういいもういい。まるっきり覚えてるってことで良いんだな!?」


「はい。旦那様と共に居た時間。また、私個人の事。旦那様のおかげで目覚めて15年と6ヶ月と10日と16時間程、全て記憶しております。」


「…………。」


(歩く情報の塊なんですが!?)


「如何されましたか?少し顔色が悪いようですが?」


「な、何でも無い……。」


「畏まりました。旦那様の意思を遵守します。」


「は、走るぞ!!」


「畏まりました。本日は昨日よりも重くします。」


「畜生!!」


よ~し、走るぞ。

って言ってさ、3時間たんまり走ったよ……。

もうさ、距離とかさ……聞きたくないんだよ。


「本日は400キロメートル程走れましたね。もう少し重くしても大丈夫でしょう。」


「止めて!?」


「旦那様から余裕が見受けられました。私の監督不足です、申し訳ありません。」


「謝らないで!?」


「次からは予測の2歩上程を見積もる予定です。ご安心を。」


「お願い、止めて!?」


「では、お湯浴みを。その後に朝食です。グリッド伯爵子息様も同席をお願いしますか?」


「いや、あいつ次第で良い。まだ寝てるだろ。起こしに行くのはカメにさせろ。」


「畏まりました。では、カメ様にお伝えしてきますので少々お待ちを。」


「おう。」


エリーが一礼したと思ったら、消えるような速度で消える。

自分でも何言ってるか意味不明だけどさ……速すぎるんだよ……。


「旦那様、お待たせ致しました。」


「おう、行くぞ。」


朝風呂~。さっぱり~。

朝飯~。うめぇ!!


「街道整備……いや、先に再編だな。只でさえ回収ルートで数がいねぇのに……。」


俺の領地、騎士の数が少なすぎる……。

まぁ、俺のせいなんだけど……。


「エリー。応募した件どうなってる?」


「はい、現状おりません。」


「いないの?……こうなれば自警団から……いやいや駄目駄目。う~ん。」


「現状、騎士爵は2名。騎士は12名、準騎士は20名おります。」


「34名……少ないな。」


「以前は合わせて、152名おりました。」


「……そうだね。」


「如何なさいます?連れ戻すことも可能ですが。」


「いらない。俺が欲しいのは民を守る騎士だ。弱くてもいい、志のある騎士が欲しいんだ。」


「愚問でしたね。申し訳ありません。」


「構わん。それよか、どうするか……。不満とか出てる?」


「有りません。逆に、満足の声であれば出ております。」


「そうか、なら良い。……因みに、どんな内容?」


「はい。大半は給金関係です。残りは待遇ですね。」


「ほんほん。少しくらいは不満ってあるんじゃない?」


「…………旦那様、お気を悪くなさらないので欲しいのですが。訓練関係ですね。」


「知ってた。うん。俺だって嫌だ。」


「旦那様はご無理の無い範囲で調整しております。心配ご無用に御座います。」


「うん。うん?」


「では、急募が入り次第ご連絡いたします。」


「うん……。」


「では…………」


あのさ、あのさ、無理の無い範囲って何?


昼食。うめぇ。


「やっと起きたのか。」


「おぅ……。頭いてぇ……。」


「あれだけ飲めばな……。少しはマシになったか?」


「まぁな……。「どうぞ。」あ、あんがと。」


「で、今日はどうするんだ?」


「もう一晩泊めて?」


「いいぞ。エリー、これカメに渡してきて。大至急な。」


「畏まりました。失礼いたします。」


「……なぁなぁ。エリーちゃん有能過ぎね?」


「だな。感謝してもしきれん。」


「いいなぁ。まぁ、俺はまだ爵位引き継いでないから楽で良いけど。」


「結婚相手がいたらだっけ?」


「そうそう。いないんだけどな。もう、弟に譲るか……。」


「おいおい。お前がいないと面倒なんだけど?」


「なーに、リグ領の橋渡しはするさ。弟も馬鹿じゃない。不利益な真似はしないだろう。」


「そうかぁ?リッドの弟っていったら、レリオだよな?」


「いや、モルダーの方。流石にレリオは推さん。馬鹿すぎるし。」


「モルダーって、まだ10歳くらいだろ!?」


「頭良いぞ~、俺にもレリオにも似てない。あと5年で成人だ。」


「はぁ……。お前が良いなら良いけど。寝首かかれるなよ?」


「レリオごときに負けるかよ。あいつ馬鹿だから隔離されてるし。」


「マジかよ……。何したんだよ?」


「市井の妙齢な女性を無理矢理何人もやらかしやがった。親父もお袋も大激怒。」


「おぉう……。馬鹿じゃねぇか。」


「おいおい、こういうのはどこにでもある話だ。中央は目が厳しいけど、地方に行けばどこにでも有るぞ?」


「えぇ!?嘘だろ!?」


「マジだよ。逆にしていない貴族の方が珍しいくらいだ。リグ家だって、何年か遡れば、有る話かもしれんぞ?」


「止めてくれよ……。」


「だから嫁さん捜せって話だ。」


「止めてくれ……、聞きたくねぇ……。」


「御歓談中、申し訳ありません。」


「なんだ?エリー…………それ、捨ててこい。」


「え?何々?紙……釣書か?」


「はい、前当主様より速達で御座います。返答も直ぐにとの事。」


「持ってきたやつは誰だ?」


「はい。中央の騎士様に御座います。対応はお任せください。」


「きし?」


「はい。短刀の国紋から確認致しました。本物に御座います。」


嫌な予感しかしない……。

今まで商人経由だったのに……。どういうこった……。


「え?エリーちゃん、見せてよ。」


「申し訳ありません、グリッド伯爵子息様。旦那様にご確認いただくまではお見せすることが出来ません。」


「え~。おい、レイ。早く見ろよ。俺も見たいんだよ。」


「…………。」


もうね、なんか知らんけど、手が震えてた。

背筋がぞわってしたから、これ駄目な奴だって。

こういう時の勘だけは鋭いんだよ。嫌な時だけさえてるっていうか……。

机に置いて、ちょっとだけ、ちょっとだけ開く。隙間から…………。


「エリーちゃん、こいつ固まってね?」


「はい。そのように思えます。」


「おーい。もう見たろ?見るぞ~…………マジか?」


「申し訳ありません。ご説明願えますか?」


「あ、おう。この人……いや、この御方……マリエール嬢だ。」


「マリエール嬢。大公家の御令嬢と記憶しております。」


「いやいやいやいや。何でなの?レイ?可笑しいって!!」


リッドに揺らされて覚醒できた。


「なんで!?どうして!?」


「俺が聞きてぇ!!どういうこった!!エリー、手紙ないのか!?」


「御座いません。そちらの釣書には何か書かれておりませんか?」


「うん!?あ……何か書いてる。」


「なになに。レイモンドへ、こちら御令嬢との婚約話を王弟殿下より直々に戴いた。直ちに返事されたし。追伸--否は無いものとする。」


「おいぃ!?親父!?いや、糞親父!?」


「マジかよマジかよ、すげぇじゃねえか。高嶺の花だぞ!?」


「非常に喜ばしい出来事に御座います。今日は料理長へ旦那様の好物だけを揃えましょう。」


「エリー!!見捨てないでぇ!!」


「旦那様。危険ですので御放しいただけると幸いなのですが。」


「絶対ヤダ!!助けて!!」


「旦那様。お返事を願います。騎士様も焦っておられるご様子でした。旦那様のお手紙が無くては騎士様にもご迷惑が掛かってしまいます。」


「嫌だぁ!!」


「……ここまで取り乱してるレイは初めて見るな。何が不満なんだよ……俺なんて、俺なんて……。」


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