あるメイドの日常①
私はララと申します。
つい最近まで隣の領で家族と共に、お貴族様のお屋敷で働いておりました。
ですけど、そのお貴族様の不正が発覚しちゃって、家格が落ちてしまいました。
そのため、私たち親子は切り捨てられる形で追い出されました。
お金、貰えませんでした……。
泣く泣く、風のうわさを伝ってこの領地、リグ伯爵領に借金こさえてやって来ました。
その噂というのがまぁ、眉唾物でして……。
やれ給金は良い、税金も安い、待遇も良い、仕事がある、領主さまは立派だ
ホントに~!?
本当でした。びっくりです。
まだ給金は貰っていませんが、家族の借金返済、及び支度金を戴きました。
父さんは庭師をしていたので、そのまま庭師のお仕事を。
母さんは料理を担当していたので、そのまま厨房でお仕事を。
私は給仕や清掃をしていたので、メイドとしてお仕事をしております。
しかもしかも、生活寮を貸してくださって、寝れる部屋を提供していただきました。
家賃無しです。考えられません。有り得ません。でも、ありました。
「ララ~、昨日は御免ね。領主さまのご友人がいらっしゃったんでしょ?何もされなかった?」
「あ、ミニさん。お早う御座います。ええっと、その……。」
「あ~。泣きつかれたの?こう、足にぐわっ、って組み付いてきたとか。」
「えっと、その。スカートの中に……。」
「うっわ。それは酷いわね……。」
「あ、でもでも。領主さまが来られて直ぐに放してもらえました。」
「良かったわね。最悪パンツ脱がされてるわよ?」
「!?」
「マールさんいるでしょ?あの人が過去最悪でね。あ、言わない方が良いわね。」
「え?え?何ですか?気になるんですけど!?」
「本人に聞いてね。多分、怒りながらでも教えてくれると思うから。あ、大事には至ってないわよ。」
「…………。」
「大体、領主さまのご友人ってさ……。」
ミニさんが辺りを見渡してる。
誰かに聞かれたら不味いんだろうな……。聞きたくないな~。
「ヘタレだし。噂ではね、皆女性経験無いそうよ?」
「ぶぅっ!?」
それは駄目ですよ!?反則です!!良い大人が……全員!?お貴族様ですよ!?
「これ、誰にも言わないでね?お願いだから。」
「いっ、わない、でっ……。」
「笑いすぎ。いや、確かに笑えるんだけどさ~。」
「ふっ、ふっ、ふっ………」
お、落ち着け私。向こうでも笑っちゃいけない貴族様やったじゃない!!
メイド全員で夜更かししてさ。見事一位になったじゃない。叩かれた方だったわ……。
プルプル震えながらでも、笑いを呑み込もうとしてるんだけど……無理ぃ……。
「ミニさん、ララさん、お早う御座います。今日も良き朝ですね。」
「!?」
「お、お早う御座います。エリー様。本日もご機嫌麗しく存じます。」
領主専属侍女のエリーさん。超の付くベテランさんから挨拶されちゃった!!
ミニさんは拍子を突かれたけど立て直して一礼してる。流石、ベテランメイドさん。
ちょっ……ちょっと待って!!まだ無理……。
プルプル震えてる私に、エリーさんは優しく頭を撫でてくれる。えっ?
「ミニさん?何か良からぬ事を吹き込みましたか?」
「え、あ、そ……の……。」
ミニ先輩、すっごい眼が泳いでますよ!?
「……朱交われば赤くなる、そして、身から出た錆という言葉があります。」
「「?」」
「簡略で言いますが、噂話が好きな人から噂話好きになり、自分の言った事が悪い形で返ってくる、という事です。」
「「…………。」」
「いつ、何時、誰が、聞き耳を立てているかは分かりません。ご注意下さい。では、良い一日を。」
……こっわ……。注意なんだろうけど……こっわ。
優しく撫でられた手が離れていくのが少し寂しい気持ちになったんだけど……。
エリー様の言葉で正気に戻りました。怖いわ……。
歩いていくエリー様を見送っていると、エリー様の両手が淡く光り出した。
下から掬うように手を動かしているのと同時に、周りにぼやけて見える何かが出来た。
「何……あれ?」
「あ~。ララは初めて見るんだ?」
「あの、ミニさん。エリー様は何をしているんですか?」
「ふふ、エリー様はね。魔法使いなの。それもとびっきり凄い魔法使い様。」
「ま、魔法ですか?あの、お貴族様が持たれている?」
「そう。しかも1個2個どころじゃないのよ。一杯よ!?一杯!!」
「え!?1つなのでは?」
「そ。でもエリー様は違うのよ。」
「え、ええ?」
「普段は面倒な場所の掃除や洗濯に使ってくださるの。おかげでお仕事も苦じゃ無いわ。それでも、お部屋の掃除とか、こまごまとしたのは私達がしないとね。お仕事無くなっちゃう。」
「え?えぇっと。あの、今、何をしているんですか?」
「今?通路内の清掃をしてくださってるわ。えっと、確か……風で埃を集めて空間に圧縮してお外へポイ、だっけ?」
「風?空間?圧縮?ポイ?」
「詳しくは知らないわ。ただ、エリー様の通った後って、掃き掃除がいらないくらい綺麗なのよ。」
「…………。」
適当に窓の淵を指でなぞってみる。埃が付いてない……。嘘ぉ……。
「でしょ?って、早く行かないと侍女長に怒られるわよ!?」
「え、あ。ああ!?」
支給された懐中時計を見て大声を出してしまう。
時間まであと3分。走って間に合うかどうかだ。
って、ミニ先輩走ってる!?待ってよ!?置いて行かないで下さい!!待ってー!!