夜のご不満話
「ああ~!!くそ、飲み過ぎた!!」
あの変態野郎、何本開けやがったんだよ……。
まぁ、親父用に取っといたワインだから困らねぇけど、流石に飲みすぎだろ。
外に頭冷やしに来たけど、違う意味で冷えるぜ。
「旦那様、お水は如何でしょうか?」
「エリー?あぁ、貰う。っと。」
足が縺れてしまった……。飲みすぎたなこりゃ。
エリーが優しく受け止めて……くれない。
何だこれ?風?何これ涼しい!?
「お加減が宜しくなさそうですね。少し横になられてください。」
「あぁ、の前に、水、貰えるか?」
「畏まりました。」
エリーが告げて直ぐ、唇にひんやりとしたものが触れる。
水だ。相変わらず器用な奴だな……。
ズズ―。うめぇ。
「少し動かしますが宜しいですか?」
「お~う。良いぞ~。」
テラス出て来てたけど、確か長椅子を置いていたな?
メイドたちの休憩場の一つで、新調したばかりのやつ。
「長椅子あったろ~?」
「お部屋の方が宜しいのでは?」
「いや、しばらく夜風に当たりたい……。」
「畏まりました。ですがこの時期はまだ冷えます。少しの間だけですが、宜しいですね?」
「おう。いいぞ~。」
やっべ。めっちゃ酔っぱらってる。
あの変態のペースに合わせてたらいかんな。
ぱっかぱっか飲みやがって……。
「なぁ、エリー?膝枕。」
「畏まりました。」
ゆっくりゆっくりと運ばれてるのが良く分かる。
てか、これ良いな。夏だったら最高じゃね?今度やってもらおう。
「では、失礼いたします。」
おお?柔らかい太ももだ。いいなぁ、いつぶりだ?
「エリー?いつぶりだっけ?」
「何が、でしょうか?」
「膝枕。」
「……記憶している限り、8年ぶりかと存じ上げます。」
「……もう、そんなに経つのか。あれ何の時だっけ?」
「……覚えていらっしゃいませんか?賊の討伐の際、身を挺して、私のようなガラクタを守ってくださった時に御座います。」
「おい、お前はガラクタなんかじゃない。二度と言うな。」
「……申し訳ございません。以後、気を付けます。」
「そうしろ。一気に酔いが醒めた。」
「申し訳ありません。」
「いい。だけどもう言うんじゃねぇぞ。エリーは俺の大事な大事な女だ。」
「……旦那様、私は……「ん?また俺を怒らせたいのか?」いえ、申し訳ありません。」
「なぁ、エリー。いつからだっけ?」
「?申し訳ありません。質問の意図が理解出来かねます。」
「エリーがさ、急に距離を取り出したのって。」
「…………。」
「あ、やっぱり意図的かよ。沈黙は肯定だかんな。」
「そのような事は……。」
「あるじゃん!!めっちゃくちゃあるじゃん!!」
「…………申し訳ありません。」
「いいよ。何となく理由は察してる。だからさ、その泣きそうな顔さ、やめてくんね?」
「……畏まりました。」
「…………良し。なぁ、俺ってさ、結婚しなきゃ駄目か?」
「我ら使用人一同、釣書を両手に心から願っております。」
「え~?あのさぁ、俺って結婚しない方が良いと思うんだよ。」
「そんなことは御座いません。願うからこそ、前当主様も励んでおられます。」
「釣書はもう要らねぇよ……。親父に手紙送っても釣書が返ってくるし。」
「世継ぎの誕生は貴族の義務に御座います。だからこそ、旦那様にはご結婚なさってもらわねばなりません。」
「養子貰ったらいいじゃん。身内からさ。」
「それを前当主様、並びにご親族の皆様が納得なされば、一考に値します。」
「説得するからさ、良いじゃん。」
「恐らく不可能と存じ上げます。何故なら、王家の方々の意思も選考されますので。」
「……そっちはそっちで何とかするよ。」
「ではどうぞ。」
「……くっそ。良い案が思い浮かばねぇ……。」
「追加として、申し上げます。」
「聞きたくない。」
「いえ、ご清聴ください。何故なら、旦那様の「いいってば!!」……ご自覚をお持ちで何よりに存じます。」
「クッソ!!もしかして、敵しかいねぇ!?」
「……旦那様。」
「なぁ、聞きたいことが有るんだった。」
「聞きたい事で御座いますか?」
「ああ。あのさ、気を悪くしないでくれたら、嬉しいんだけど。」
「それは私に関する事でしょうか?」
「ああ。そうだ。」
「問題は御座いません。如何様にもお聞きください。」
「おう。あのさ、エリーって自動人形なんだよな?」
「はい。今より幾年かは不明ですが、太古に生存していた記憶は僅かながら御座います。」
「でさ、でもさ?ほとんど人間じゃん?」
「そう造られております。設計上は、ですが。」
「ほうほう。でさ、飯食ったりできる?」
「可能と言えば可能です。ですがせずとも問題は御座いません。」
「食えるんだ?味とか分かる?」
「味覚も、五感全て御座います。」
「ふむふむ。」
「旦那様?」
とりあえず目に毒なデカい2つの物体を揉んでみる。柔らか!!なんか久しぶりだ!!
「あの……。」
「感覚ある?」
おっと、嫌われたくないし止めよ。
「はい。御座います。」
「ほほう。じゃあさ、一番聞きたいことがあるんだ。これが本題。」
「どうぞ。」
「子供作って産める?」
「……お答えする義務は御座いますか?」
「ない。そしてこれは命令じゃないから、答えても答えなくても良い。」
「…………。」
「知ってるんだ。分かってるんだ。でもさ、仕方ないんだよ。」
「旦那様……。」
「分かっちゃいるんだ。けどさ、エリーは聞いてない事もあるかもしれんがな。俺はあの友人もどき共の話を聞いてさ、嫌になっちまったんだよ。貴族の女ってやつが。」
「……続けてください。」
「ああ。やれ騙された。強かだ。横暴だ。傲慢だ。子供だ。馬鹿だ。……聞いてて嫌になってくる。いちいち話すだけでも連絡とってから~うんちゃらかんちゃら。面倒だ。俺は凝ることは好きだけど、面倒が嫌いだ。」
「はい。痛いほどに……存じております。」
「だろ?だから結婚とか……考えたくも無い。俺はそう思ってる。」
「ですが、旦那様がいらっしゃる限り……付いて回るものなのですよ?」
「はぁ……そうなんだよ。だから早めに引退したいんだけど……。」
「世継ぎがいらっしゃらない限り、それは望めません。」
「はぁ~めんど。だからって市井の娘には手を出したくないし、他の貴族共が認めないしな。」
「はい。旦那様の仰る通りに御座います。」
「あ~めんどい。あ~めんどい。もう嫌!!あ~親父が親父の親父で励んでくんねぇかな!?」
「旦那様。不謹慎と思われます。」
「えぇ!?どこが!?あれか?あいつか?親父を捨てて、金だけ無心に来るような糞ババアの事か?あれを実母と思うだけで胃袋ひっくり返るぞ!?ってか一回吐いたぞ!?」
「承知しております。ですが……」
「それ以上言うな。エリーの口からこれ以上、あいつのことを喋って欲しくない。」
「…………。」
「おい、なんでエリーが落ち込んでるんだよ!?頼むよ、止めてくれ。俺はそんな顔見たくないんだ。な?」
「…………。」
俺が口を指で押さえてるせいで、言葉を発してくれない。
いやさ、もう終わった話だし。あのくそ婆の事とかどうでも良いしさ。
次来たら殺すって念押ししたし。忘れたいんだけど……。
ま、起き上がるか。よっこいしょ。指も放しておこう。
「いいか、もう良いんだ。エリーには難しいかもしれんが、忘れてくれ。」
「はい。善処いたします。」
「おい、それって出来ませんって言ってるもんだぞ!?」
「では前向きに検討いたします。」
「う~ん。言葉変えても同じだからね?俺、知ってる。」
「……努力します。」
「う~ん、この。はぁ……。まぁ、いいや。エリーにはエリーの考え方があるんだ。これ以上は何も言わない。」
「申し訳ありません、旦那様。」
「おう。なぁ、エリー。」
「はい、旦那様。」
「俺さ、今が充実してるからさ、良いんだよ。これ以上さ、多くなってもしんどいし。」
「はい。」
「まだ多少はいけるよ?でもさ、あれもこれもって、まだまだやる事山積みなんだわ。」
「そうですね。橋の増築も、街道整備も、徴兵制の是正もまだ終えていません。」
「痛いとこばっか突っつかないでくれる?あ、増築予算はカメに渡したから終わってる。」
「旦那様の御働きに感服しております。ですがご無理はなさらぬ様、お願い申し上げます。」
「無理はしてない。だってエリーに止められるし。」
「目を放せば休むことをいたしませんし、前科も御座いますので。」
「はいはい。ごめんね。もう無理しない。」
「…………。」
「お、俺を疑ってないか?」
「ご理解が早いようで安心いたしました。」
「…………分かった、分かったから。降参だ、その目は止めてくれ。」
「承知いたしました。旦那様、そろそろ。」
「おう、寝るか。そういや、あの変態は?」
「既に御就寝されております。二階奥の客室でお休みになられてます。」
「……あいつにララを近づけさせるなよ?」
「心得ております。明日は一日、料理長の補佐をお願いしています、ご安心を。」
「そっか。なら良い。ふぁ~はぁ~。ふぇるかぁ。」
「畏まりました。お手をどうぞ。」
「おう。…………。」
「あの、旦那様?」
「柔らけぇ~。」
エリーの手を握っていたら俺の身体、宙に浮いちゃった。
比喩表現とかじゃなくて、マジで。
そのままスイ~って運ばれている。風のクッション気持ちええ……。
ん?なんかエリーが言ってるけど、何て言ったんだ?
まぁ、いいか。明日覚えてたら聞くわ~。おやすみ。