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フリークス・パーティ  作者: 依空 まつり
第10章「オズの魔法使いなんて、いないから」
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【10-3】今回のMVPは、ドロワーズを用意したヤマネなのです

 ウミネコは決して運動能力が極端に高いわけではない。単純にスピードだけで比べるなら、ウミネコより上の選手はいくらでもいる。ドロシーだってそうだ。

 スピードを磨き、敵の隙を突き、絶対に避けられない角度から攻撃を仕掛ける──そのために積み重ねられた血の滲むような努力。数多の情報を元に練られた戦略。そういったものをウミネコは生まれ持っての怪力で軽々と叩き潰す。

 まるで怪獣が無造作に尻尾を振って、人間を叩き潰すかのように。



 絶対に避けられない位置から繰り出されたオウルの拳を、ウミネコは手を払いのけるだけで無効化した。本来なら、足を踏みしめて全身全霊の力で受け止めなければならないような攻撃だ。だが、ウミネコには蝿を払う程度の労力で事足りる。

 ウミネコと肉弾戦をする場合、ウミネコに掴まれたら、その時点で敗北だ。ウミネコに掴まれたが最後、玩具のように振り回され、グシャグシャになるまで叩きつけられる。

 だからこそ、オウルはウミネコが「握る」動作をできない角度から、慎重に攻撃を仕掛けた。

 計算された角度からの鋭いジャブ。だが、ウミネコがゆっくりと大きく腕を払うだけで、オウルの腕は捻じ切れそうなほど折れ曲がる。オウルは咄嗟に力を受け流しつつ、ローキックを放った。これは不意打ちだったらしく、ウミネコの姿勢が崩れる。

 そこにオウルが拳を放った。渾身のストレートはウミネコの左頬に直撃し、ウミネコの小柄な体は軽々と吹っ飛んで地面を転がる。

 だが、ウミネコはケロッとした顔で起き上がると、首をコキコキ鳴らした。

「いやぁ、いいのを一発貰ったな。こんなに楽しいのは、ハヤブサとやり合って以来だわ」

 フリークス・パーティでは武器の持ち込みが許可されている。それなのに好き好んで怪力のウミネコと肉弾戦をしたがる者なんて、まずいない。肉弾戦になれば、ウミネコの一方的な試合になることは目に見えているからだ。

 だからこそ、ウミネコ相手にまともに殴り合える稀有な存在に、観戦席は湧き上がり、実況席もヒートアップしていった。


『オウル選手の攻撃がクリーーーンヒッッット! しかし、ウミネコ選手立ち上がったぁ! なんという熱い戦い! 〈フリークス・パーティの狂戦士〉相手に、オウル選手一歩も引きません!』


「今度はこっちから行っくぞー! ……っはは! そらっ!」

 ウミネコはまるで子どもみたいに、はしゃぎながらオウルに殴りかかった。その勢いは右手首を痛めているとは到底信じられない。

 それはオウルも同じで、左手を痛めているはずなのに、ウミネコの殴りあいに応じている。

 オウルが長いリーチを生かしてウミネコを牽制しつつ攻撃を放つ。ウミネコがそれを力でねじ伏せる。

 それは凄まじい戦いだった。今までの試合とは比べ物にならない強者と強者のぶつかり合い。

 傍目には五分の戦いにも見えるだろう。だが、見る者が見れば分かる。オウルの方がやや分が悪い。

 オウルは生まれたときから……否、生まれる前から、戦闘に関するありとあらゆる知識と技術を叩き込まれている。でも、それはあくまでマニュアルのようなもの。

 絶対的に経験の足りないオウルはセオリーを無視した不測の事態に弱い。

 ウミネコみたいに、セオリー無視して攻めてくるタイプはオウルと相性が悪いのだ。

 今もセオリーなら避ける筈の攻撃をウミネコはあえて受けた。そして、カウンター。長身のオウルが軽々と吹き飛び、木に叩きつけられる。

「なんでお前、糸使わないの? 片手でもある程度使えんだろ?」

 ウミネコの言葉に、ドロシーはハッとしてオウルを見る。

(そうよ、なんでオウルは糸を使わないのよ! 使えば戦闘が有利になるはずなのに……)

 そこで、気がついた。

 オウルは糸を使っていないわけじゃない。

 ドロシーは一応、オウルのパートナーだ。一緒に戦闘訓練もしている。だから、オウルの指の動きを目で追って周囲をよく観察すれば、どういう風に糸が張り巡らされているかが分かるのだ。

 オウルの糸の使い方は大きく分けて四つ。

 敵に巻きつけて切断を狙う「直接攻撃」

 敵の移動先に予め仕掛けて、必要に応じて発動される「罠」

 敵の行動を邪魔する「妨害」

 張り巡らせた糸の上を綱渡りのように移動する「移動補佐」

 オウルは糸の操作のみに専念すれば、十本以上の糸を同時に操作できるが、戦闘中であることと左手の怪我を考慮すれば、今操作できるのは精々三本といったところ。

 そして、その三本は全て“罠”という形でドロシーの周りに配置されている。

 ウミネコがドロシーを攻撃対象にした時、すぐに発動するように……ドロシーを守るために。

(馬っ鹿じゃないの! 馬っ鹿じゃないの! 馬っ鹿じゃないの! アタシのためにいらない怪我して! 僅かに残った糸を全部、アタシを守るために使って!)

 蓄積したダメージが足にきたのか、オウルの体勢が崩れた。

 ウミネコがペロリと舌舐めずりをする。

「さあ、とどめイっちゃおうかー」

 ドロシーは駆け出した。己の持てる全速力で跳躍し、そしてウミネコの後頭部に回し蹴りを叩き込む。ウミネコは顔面から勢いよく地面にスライディングした。

「ふぎゃらっ!?」

 ドロシーはスッキリした心地で着地し、余裕たっぷりにスカートの裾を払う。

 ウミネコは「いってー」と言いながら、汚れた顔面を袖でごしごし擦っていた。普通の人間なら首の骨が折れているはずなのだが、流石ウミネコ。嫌になるくらい頑丈だ。

「ドロシー」

 オウルがドロシーを見る。

 ドロシーは気恥ずかしくなり、目をそらしつつ、オウルにあるハンドサインを送った。オウルがパチパチと瞬きをして、ドロシーの手の動きを目で追う。

 オウルとパートナーを組むことになった時、オウルとドロシーの間では、予め糸の配置に関するサインが決められていた。

 オウルの糸は無秩序に広範囲に張り巡らせると、味方の妨害になりかねない。

 それを防ぐために、糸をどの位置に何本配置するか、移動補佐用か攻撃用かなどをハンドサインで伝えるのだ。

 ドロシーはこのハンドサインを試合で使ったことは一度もない。

 だが、今こそ必要なのだ……ウミネコに勝つために。

「アタシは、一人でウミネコと戦うのが怖い……だから、あんたの力を貸して……オウル」

 オウルは無表情ながら、力強く頷いた。ドロシーの期待に応えるように。

「了解した」

 糸が音もなく動く。ドロシーのハンドサイン通りに。

 ドロシーは改めてウミネコを見据えた。

(やっぱり怖い……でも、大丈夫)

 今のドロシーは一人じゃない。


「やるわよ、オウル。()()()()の力を、会場にいる奴らに見せつけてやる!」


 ドロシーは一気に距離を詰め、ウミネコに蹴りを放った。バレエのダンスのように優雅で、かつ無駄のない鋭くキレのある蹴りを、ウミネコは酔っ払いの千鳥足のようなステップでかわす。

「ドロシーちゃん、動きのキレが良くなったなー。で、この隙にオウルが糸で何か仕掛けるわけだ……こんな風に!」

 オウルが糸でウミネコの首を狙う。だが、それより早くウミネコは横に跳んで、オウルの糸を避けた。

「お前の武器の、この糸みたいなの……これ、フリークスパーティ向きじゃないよなー。ネタが分かれば怖くないし」

 確かにその通りだ。オウルの糸はどちらかと言えば、暗殺用の武器……暗器に近い。

 威力も普通の武器より遥かに劣るから、不意を打ってナンボだし、ネタがばれればいくらでも対処できてしまう。

 公開試合……しかも勝ち上がり式ともなれば、ネタはばれるし、対策も練られてしまうから、暗器使いに不利なのは当然だ。

(でも、オウルの糸はただの暗器とは違う。汎用性があるし、いくらでも応用が利くんだから!)

 とは言え、オウルは片手を負傷中。

 攻撃、妨害、罠、移動補助をうまく組まないとウミネコには勝てない。

(……考えろ。考えろ)

 下手な小細工など軽々とねじ伏せる圧倒的な暴力。

 それにドロシーは立ち向かわなくてはいけない。

 舞台は庭園。周囲にはちょうど良い高さの木。

(……うん、いける)

 ウミネコに見えないようにハンドサイン。オウルの顔が渋くなる。

「ドロシー、再考を提案する」

「却下。さあ、やるわよ!」

 ドロシーが走り出すと、オウルは渋い顔のまま糸を繰る。

 まずは、なるべく足元の低いところに糸をジグザグに張り巡らせる。飛び回るのが苦手なウミネコは、これでだいぶ動き辛くなったはずだ。

 更に残りの糸は木に巻きつけるようにして、高い位置に張り巡らせる。オウルの糸張りの時間を稼ぐため、ドロシーはウミネコに攻撃を仕掛けた。

「やあっ!」

「まずはドロシーちゃんが遊んでくれんのかー」

 楽しそうに笑いながら、ウミネコが拳を振るう。直撃すれば即死につながる重い一撃。それを慎重に受け流し、ドロシーは次の攻撃に備える。

「攻撃はしてこないの、ドロシーちゃん?」

「タイミングってもんがあんの、よっ!」

 更に繰り出される攻撃をかわす。

 悔しいがドロシーの力量では、敵の攻撃をかわしながら反撃するのは難しい。今はとにかくかわすことに専念して、時間を稼ぐ。

「分かりやすい時間稼ぎだなー……飽きちゃうぜ」

「なら、こんなのはどう?」

 オウルの糸張りは八割方終わっている。ドロシーは綱渡りの要領で糸の上に飛び乗った。そして、糸から糸に飛び移る。

 怪力のウミネコと同じフィールドで戦う必要はない。ネコ科のキメラであるドロシーの売りは身軽さとバランス感覚。

 オウルが糸を張り巡らせたこの空間では、ウミネコは足元の糸が邪魔で動きを制限される。一方、ドロシーは縦横無尽に張り巡らされた糸を足場に動き回れる。

 一際高い所に張り巡らされた糸の上に立ち、ドロシーはウミネコを見下ろした。

「ふふん、いい気分。どう、あんたに同じことができるかしら」

 ウミネコは額の上に手をかざしてドロシーを見上げると、悲痛な声をあげた。

「そりゃあんまりだぜ、ドロシーちゃん……なんでドロワーズなんか履いてんのさ!」

「……は?」

「絶好のアングルなのに、パンツが見えない!」

「死ね」

 ドロシーは糸から飛び降り、ウミネコの脳天に踵落としを仕掛けた。高さも勢いもバッチリの必殺の一撃である。だが、ウミネコはニヤリと口の端を持ち上げて笑う。

「はい、引っ掛かったー」

 ウミネコは半身を捻って踵落としをかわし、挑発に乗ったドロシーに拳を向ける……が、そこでウミネコの体が不自然に止まった。

「うん? んんん?」

 緩やかにウミネコの体が宙に浮く。地面に網目状に配置された糸が一気に持ち上げられたのだ。

「うお、なんだこれ!? 糸が体に食い込んで地味にいてぇ!」

 糸の中でもがくウミネコに、オウルが淡々と言う。

「時間のかかる技なので、実戦で使うのは初めてだ」

 それは足元に張り巡らせた糸を一気に巻き上げて、敵を宙吊りにする罠だ。

 要領は漁と同じだ。海底に網を設置し、魚が網の上に来たら一気に網を持ち上げて魚を捕る。それと同じことをオウルはやったのだ。

 当然、敵に気づかれたらそれまでなので、準備に時間がかかる。だから、今みたいにドロシーが時間を稼がないとこの技は使えない。

 何より大きな弱点は……

「ふっふーん。オレ、気づいちゃったぜ、この技の弱点! この糸を操っている間、オウルは身動きがとれない!」

「でも、アタシは動けるのよ」

「……デスヨネー」

 ヘラリと笑うウミネコに、ドロシーもニッコリと笑いかける。

 そして、ドロシーは地を蹴って飛び上がると、渾身のサマーソルトキックをウミネコの後頭部に叩き込んだ。


『決まったあああ! 勝者、オウル&ドロシー!』


 ドロシーはピョンピョンと飛び上がり、オウルの元へ駆け寄った。

「やったあああ! やった! やったわよオウル! アタシ達が勝ったのよ! アタシ達が! あのウミネコに!」

 はしゃぐドロシーとは対照的にオウルはやはり無表情だ。

 だが、彼はドロシーをじっと見ると、小さく頷き、噛みしめるように言う。

「ああ、ドロシーのおかげだ」

 ドロシーの耳がピンと立って、動きが止まる。

 オウルは淡々と言葉を続けた。

「私一人では勝てなかった。ドロシーがいたから勝てた」

「べ、べべ、別にアタシ一人じゃ勝てなかったし、あんたのおかげでもあるわけで……だから、その……」

 ドロシーは顔を真っ赤にして口ごもりつつ、ごにょごにょと小さい声で「ありがと」と呟く。

 無言で頷くオウルは、やっぱり無表情だけど、ドロシーには笑っているように見えた。



 体に絡みつく糸をぶちぶちとちぎりながら起き上がったウミネコの元に、隠れていたエリサが歩み寄る。ウミネコは地面にあぐらをかいてエリサを見上げた。

「あーあ、花、無駄になっちゃったなあ。エリサちゃんいる?」

「うわ、別の女の子にあげる予定だった花を他の女の子に回すとかサイテー。そんなんだから、もてないんですよ、ウミネコさん」

 いつもと変わらない調子のエリサに、ウミネコもまたいつもと変わらぬ態度で「えー」と唇を尖らせる。

 エリサもウミネコも、試合に負けてもそれを悔しがったりはしない。いつもと何も変わらない。

 けれど、ウミネコの敗北が決まった瞬間に、二人の関係は変わる……否、終わるのだ。

「今までお世話になりました。私はここでお役御免ですね」

「もうちょっと、うちに居ても良いんだぜ」

「いえいえ、私も暇ではないので」

 さらりと笑うエリサを、ウミネコは丸い目でじぃっと見上げる。

「なあ、エリサちゃん」

 エリサはさらりと髪を揺らしてウミネコを見た。風に揺れる髪がエリサの表情を覆い隠す。

 ウミネコはやはりいつもと変わらぬ声で問う。

「目的は果たせたの?」

 エリサは答えない。

 赤毛の下の白い顔は、いつもと変わらない人当たりの良い笑みを浮かべていた。

「何のためにフリークスパーティに参加してたかは知らないけどさぁ。命は大事にしろよー」

「ご忠告ありがとうございます」

 エリサはスカートの裾を摘まんで、上品に一礼すると、ウミネコに背を向けて歩き出す。

 こうして、二人の関係は静かに終わった。

 ウミネコは子どもが帰宅する友達にするみたいに、遠ざかるエリサの背中にヒラヒラと手を振る。

 口の中で「またな」と小さく呟きながら。




『準決勝に参加する四組が決定しました! 準決勝第一試合は燕&サンヴェリーナVSクロウ&サンドリヨン! 準決勝第二試合はイーグル&オデットVSオウル&ドロシーです!! 第一試合は三日後、第二試合は四日後、会場は引き続き、このクリングベイル城!! 燕とクロウはどちらも優勝経験有りの実力者!! これは見逃せません! 更に更に! パートナーバトル初出場者であるイーグルVSオウルの新人対決。こちらも実に楽しみです! 第二回フリークスパーティ・パートナーバトルの栄光を掴み取るのは一体どのペアなのか!!』



 * * *



 クリングベイル城別館に用意された選手達のための部屋は、スイートルームとまではいかずとも、セミスイートぐらいの広さがあり、ミニキッチンもついている。

 宿泊中は、希望すれば運営員会が食事を用意してくれるのだが、優花はすることがないと落ち着かないので、ヤマネに頼んで食材を分けてもらい、自炊していた。

 今日のご飯は白米、豚汁、焼き魚、野菜炒め、浅漬けだ。

 丼で豚汁を啜る優花の隣の席では、ちゃっかり便乗してやってきたウミネコが豚汁の椀に七味唐辛子をボフボフと振り入れている。その手の動きが少しだけぎこちないのは、今日の試合の怪我のせいだろう。

 クロウは慣れない箸で焼き魚をほぐしつつ、ウミネコをちらりと見た。

「まさか、お前が負けるとはな」

「いやー、負けた負けた」

 豚汁を啜って「うめぇ〜」と幸せそうな息を吐くウミネコは、とても今日試合で負けたようには見えない。

「意外とあっさりしてますね、ウミネコさん」

「まあ、今回はそこそこ稼げたし、楽しく戦えたし、悔いは無し! 欲を言えば、もうちょい色んな奴と戦ってみたかったけどな」

 ウミネコにとって大事なのは勝敗ではなく、楽しかったか否かであるらしい。流石は「戦闘狂」と言われるだけのことはある。

 ウミネコとは真逆の性分のクロウが、魚の骨をちまちま取り除きながら口を挟んだ。

「ところでドロシーへの『宣誓』……ありゃ何だったんだ。お前、ドロシーに気があったのか」

 勝利したら姫を貰い受けるという宣言。言ってみればプロポーズである。

 だが、ウミネコは白米の上に野菜炒めを乗せ、あっけらかんとした態度で言った。

「んー、そうした方が、楽しくなると思って」

 クロウの眉間の皺が深くなる。

「……もしかして、オウルを挑発するために『宣誓』したのか?」

「うん」

「挑発のためだけに?」

「イエス☆」

「勝ったらどうするつもりだったんだ」

「責任取ってドロシーちゃんを嫁に貰う」

 クロウも優花も箸を動かす手を止めて黙りこんだ。

((どこまで本気なのか、さっぱり分からない))

 二人の心の声が重なった瞬間である。

 だが、ウミネコはどこまでもマイペースに浅漬けをぽりぽりと齧っていた。

 こうして見ると、つくづく無害であどけない少年にしか見えない。中身は戦闘狂のアラサーだが。

「あーあ、エリサちゃんも出て行っちゃったし、寂しいなー」

「あの……エリサちゃんは今どこに?」

 ウミネコの呟きに優花がそわそわしながら訊ねれば、ウミネコは「さぁ?」と軽く肩を竦めた。

「試合が終わったら契約終了で、姫は自由の身だかんなー。それ以上はオレも干渉できないし」

 ウミネコとエリサは本当に、ビジネスパートナーのような関係だったのだろう。

 寂しいなどと言いつつ、そこには大人らしい割り切りがあった。ウミネコの態度に未練は無い。

 ウミネコは魚の頭をバリバリと齧ると、やんちゃな少年のようにキシシと笑った。

「サンドリヨンちゃんのご飯美味いし、クロちゃんからかうの楽しいし、オレ、ここの家の子になっちゃおうかなー」

「ふざけんな二十九歳児」

 そう低く呟くクロウは、魚の頭をバリバリ食べているウミネコと、皮をパリパリと齧っている優花を信じられないものを見るような目で見ていた。


 どうやら、カルチャーショックだったらしい。

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