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フリークス・パーティ  作者: 依空 まつり
第1章「ワンス・アポン・ア・タイム」
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【1ー5】ヒロインの知らない、いくつかのこと


「だから、出ていくとかじゃなくてね。泊まり込みの仕事で…」

 クロウから借りた慣れないスマートフォンに戸惑いつつ、弟達にそう説明すれば、電話の向こう側から草太と若葉の声が同時に響いた。

『は? なぁ、嘘だろ優花姉っ!?』

『優花姉、出ていっちゃやだやだやだぁぁぁ!』

「あぁもう、あんた達! ちょっと落ち着きなさいってば!」

 クロウの家に向かう車の助手席で、優花はクロウを必死に説得して彼のスマートフォンを借りることに成功した。時刻は深夜でとっくに日付が変わっている時間帯だったけれど、草太のことが気がかりだったのだ。

 電話をした直後は、まだ草太は帰ってきておらず、優花がしばらく家を留守にする旨を若葉に告げると、若葉はわんわんと大泣きした。兄が家出した日の夜に、姉がしばらく留守にするだなんて言い出したら不安になるのは当然である。

 だが、そのタイミングでちょうど草太が帰宅したので、優花はほっと胸を撫で下ろし、草太が家を飛び出したことには触れず、自分がしばらく家を留守にすることを告げた。

 結果、弟二人は大混乱である。

『なぁ、優花姉、オレのせいか? それなら謝るよ、本当ごめん! だから出て行くなんて言わないでくれよ!』

 草太は優花が帰ってこないことを、自分のせいだと思っているのだろう。そう思ってしまうのも無理はない。

 草太のせいだとは思わせたくなくて、優花は必至に言い返した。

「仕事よ、仕事! 泊まりの仕事なの!」

『だからって急すぎるだろ! しかも、一ヶ月って……今までそんなこと、なかったじゃんか!』

「う……いや、まぁ、確かにそうだけど……」

 ちらりと横目で運転席をうかがうと、車のハンドルを握る優花の雇い主様がニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていた。

(本当に感じの悪いやつ!)

『なぁ、優花姉……正直に答えてくれよ。やっぱり、オレのせいなのか? 急に泊まりの仕事なんて入れたのは、オレの合宿代のため?』

 優花には「そう」とも、「違う」とも言えなかった。

 確かに、今回姫役を務めることで貰える収入があれば、草太を合宿に行かせることができる。そう考えたのは嘘じゃない。

 ……だけど、それだけの理由で命懸けの殺人パーティーに参加するほど、自暴自棄になってはいなかった。

 美花がお金を持ち逃げして失踪したこと、優花が逃げれば弟達に危害が及ぶ可能性があること──ここで、草太と若葉に全ての事情を説明することはできない。横でクロウが聞き耳を立てている。

 仮にクロウがいなくても、優花はきっと弟達に事情を打ち明けることはしなかっただろう。

(……だって、心配させたくないもの)

 事情を伏せたまま弟達を納得させるべく、優花は慎重に言葉を選んだ。

「驚かないで聞いてほしいんだけど……」

『……なんだよ』

「今回の件は、美花が絡んでるのよ」

 途端に草太と若葉は悲鳴じみた声で叫んだ。

『なんでここで美花姉の名前が出てくるんだよ!』

『また美花姉が何かやらかしたの!?』

 横でクロウが、ぶはっと吹き出した。優花は見なかった振りをして、話を続ける。

「今回の泊まりの仕事は、本当は美花が受けてた仕事なのよ。でも、あの子、仕事を放棄して失踪したらしくて……」

『あー、なんか、オレ、展開が読めてきた……優花姉、また美花姉と間違われたんだな……』

 これだけの説明で、弟達がおおよその事情を理解してしまう程度に、美花は今までにも似たようなことをやらかしていた。流石に間違われて、拉致されたのは初めてだが。

「美花の代わりに私がその仕事をする、ってことで依頼人さんも納得してくれたの。悪い話じゃないのよ? お給料も凄くいいし」

 その代わり命懸けだけど、というのは勿論伏せておく。

「だから、心配しないで、ね?」

『……危ない仕事とかじゃないんだよな?』

 我が弟ながら鋭い。と優花は苦笑しつつ、殊更明るい声を出した。

「大丈夫よ。私がそんな危ない仕事、引き受ける訳ないでしょ!」

 引き受けたけど。

『優花姉を信じていないわけじゃないけど……優花姉、お人好しで流されやすいところあるからなぁ……』

「とにかく、心配しないで! それじゃ、また連絡するから」

 無理やり会話を打ち切り、優花はスマートフォンの画面の上で指を彷徨わせた。通話終了の時はどうすれば良いのかが分からなかったのだ。

 ニュッと運転席から伸びてきた黒手袋の指が、画面のアイコンをトンと叩くと、草太と若葉の声は完全に聞こえなくなる。

「大変だな、オネーチャンは」

 クロウはくくっと喉を鳴らして笑い、優花の手からスマートフォンを抜き取ってコートのポケットに戻す。優花は「ほっとけ」と声に出さずに呟き、心の中であっかんべーをしてやった。


 * * *


 高速道路を降りてから更に小一時間ほど走り続け、深夜二時過ぎにようやく到着したクロウの家は、都心にある高層マンションの一室だった。

 部屋のタイプは典型的な1LDKだが、一部屋一部屋が広くてゆったりしている。おんぼろな如月とは比べ物にならない。

 ただ、折角立派な部屋のに、雑誌だの細々とした雑貨だのが出しっぱなしになっていて、酷く散らかっていた。ダラシないなぁ……と小声でボヤくと、クロウがジロリと優花を睨む。

「散らかしていったのはお前の妹だぞ」

「アッ、ハイ……スミマセンデシタ」

 クロウはフン、と鼻を鳴らすと簡単に間取りやバストイレの場所を説明してくれた。

 まず玄関の右手にバストイレ、真っ直ぐ進むとダイニングキッチン。そしてダイニングキッチンの奥には十畳程のリビングがあり、右手の扉は寝室に繋がっているらしい。

 一通り説明を終えると、クロウはキャビネットから合鍵を取り出した。

「あの馬鹿妹が置いていった合鍵だ。使え」

 ポイと雑に放り投げられた鍵を優花は両手でキャッチした。鍵には可愛らしいハート型のキーホルダーが付いていて、なんとも美花らしかった。

「この部屋は好きに使って構わない。但し出かける時は、オレか一階の管理人室に一声かけろ。無断で出かけた時は逃亡とみなす」

 どうあっても優花を逃す気はないらしい。それでも、クロウではなく管理人室に声をかければ良いというだけ、まだマシだ。

 更にクロウは懐から黒革の財布を取り出し、ローテーブルに置いた。

「部屋の物は好きに使え。必要な物はこれで買え」

「あの、これ……」

「必要経費だから給料とは別物だ。好きに使えばいい」

(いやいやいや! 経費って好きに使っていいものじゃないでしょう!?)

 そろりと持ち上げて見た財布の中には、紙幣がぎっしりと詰まっていた。一万円を超える金を目にするとそれだけで緊張してしまう優花は、無言で頰を引きつらせ、そっと財布をローテーブルに戻す。

 クロウはそんな優花を不思議そうに見ていたが、やがてくるりとコートを翻すと、玄関に戻り、ブーツを履き直した。

「え、あの、どこに行くの?」

「所用だ。朝には帰る。明日からこき使ってやるから、適当に寝てろ……それと、くれぐれも逃げようとは思うなよ」

 それだけ言い残して、クロウは部屋を出て行った。優花は鼻から息を吐き、唇を尖らせる。

 正直くどいなぁ、と思う。そんなに念を押さなくても、逃げたりなんかしないのに……逃げられるはずがないのに。

 一人になると張りつめていた神経がぷつりと切れたのか、途端に心労で頭が重くなってきた。瞼が重い。そう言えば、もう深夜の二時だった。

 やるべきことや、考えることは山ほどあるが、とりあえず今は仮眠を取ろう、と優花は部屋を見回す。クロウは適当に寝てろと言っていたが、奥の寝室にはベッドが一つしかなかった。

 二人で寝ても充分に余裕があるクイーンサイズのベッドだが、勝手に使うのは気が引けたので、ベッドの上の毛布を一枚だけ失敬して、優花はリビングのソファの上でもぞもぞと丸くなる。

(……うー、やっぱ毛布一枚じゃ寒いなぁ……)

 おんぼろだった如月家は隙間風が酷くて、真冬になると外との温度差がほとんどないぐらい寒かった。それでも寒い夜は、薄い毛布を弟達とくっつけて寝れば、充分暖かかった。

 このマンションは当然隙間風なんて無いし、ソファも毛布もふかふかだ。それでも、自分がこの広い部屋にひとりぼっちなのだと思うと、途端に寒くて、寂しくて、涙が出そうになった。

 いつもなら、家に帰れば誰かがいた。だから、一人で寝ることなど滅多になかったのだ。

(……一人になるのが、こんなに心細いなんて)

 今思えば、優花が出稼ぎで都会に出るのをためらったのも、弟達を家に残すのが心配だったからではなく、自分が一人になることが寂しかったからだ。

 家族がいれば強くあろうと頑張れるのに、一人になると途端に途方に暮れてしまう。家族のためにと言いながら、本当は誰よりも家族にすがりついている。そんな自分の弱さが情けなかった。

 寝よう、寝よう、と思っていたのに、目を閉じれば色々なことが思い浮かぶ。


(……草太と若葉はもう寝たかな)

(美花は路頭に迷ったりしてないかしら)

(明日から、どんな生活になるのかな)

(あの乱暴なクロウとうまくやっていけるかな)

(二週間後には……パーティという名目の殺し合い)

(怖い、怖いよ)

(死にたくないよ)

(家族と会えないまま死ぬなんて嫌だ)


「……っ、ぅ~」


 怖くて、寂しくて、心細くて。優花は毛布に包まりながら、久しぶりに大泣きした。


 * * *


 車を適当なパーキングに停めて、歩くこと数分。クロウはとある施設の前で足を止めた。

 フェンスと有刺鉄線で囲まれているその建物は、政界、財界と各方面で日本に勢力を伸ばすグロリアス・スター・カンパニー傘下の研究所である。

 グロリアス・スター・カンパニーは医療関係の研究も盛んで、日本各地に研究施設があるが、その中でもこの施設はとりわけ敷地が広い。

 警備員は、こんな時間に研究所に入っていこうとするクロウを、咎めようとはしなかった。クロウはこの施設において極めて特殊な位置付けをされている。だからこそ、どんな時間に出入りしようが、どんな姿でいようが、どんな物を所持していようが、警備員達は常に見て見ぬふりをするのだ。

 奥に進んだクロウは扉の横に設置されたパネルに暗証番号を打ち込み、網膜認証をした。そうやって面倒なセキュリティチェックを繰り返しながら奥へ進むほど、通路は細く狭くなっていく。この圧迫感が、クロウは死ぬほど嫌いだ。

 心なしか早足で奥へ進み、クロウは目的の部屋の扉をノック無しで開ける。

 最新の警備システムに守られた研究室で彼を待ち構えていたこの研究室の主任、月島みのるはいつ見ても胸糞悪くなるような笑顔でクロウを出迎えた。

「やぁ、クロウ。よく来たね。いらっしゃい」

 月島はまだ三十歳前後の女だが、この研究所の主任を務めている才女だ。化粧っ気はなく、地味な服の上に白衣を羽織り、腰に届くぐらい長い黒髪を三つ編みにしている。いかにも不健康そうな青白い顔も、ガリガリに痩せた体も、とても色気があるとは言い難いのだが、目をいやらしく細めて笑う姿には、独特の艶があった。もっとも、クロウは月島の笑顔に嫌悪感こそ抱けど、好意を持ったことは一度も無いが。

「そんな怖い顔をしないでおくれ。ぞくぞくしちゃうじゃないか」

 青白い頰をほんのりと朱に染め、猫背気味の背中を揺らして笑う月島に、クロウは鼻の上に皺を寄せて吐き捨てる。

「知るかよ、変態が」

「相変わらず口の悪い子だねぇ。あまり反抗的な態度は関心しないな。君の命を握っているのは誰だと思ってるんだい?」

「お前の上にいるグロリアス・スター・カンパニーだ。お前じゃない」

 けんもほろろなクロウの態度に、月島はやれやれと首を横に振り、唇を尖らせてため息を吐いた。

「……やっぱり可愛くない。それでも、こうして私に会いにやってくるくせに」

「薬のことがなけりゃ、誰がお前らなんかに頼るか。早く、今週分を寄こせ」

 クロウが低く吐き捨てると、月島は途端に熱が冷めたような態度で椅子に座り、指のささくれを弄り始める。そうして、クロウの方など見向きもせずに言った。

「薬を渡す前に報告が先だろう? 逃走したお姫様の件はどうなったんだい? 今日中に捕まえておかないと、君、フリークス・パーティに参加できないじゃない」

「問題無い。別の奴をつかまえた」

「ふぅん、それは良かったねぇ。今回のフリークス・パーティに参加できなかったら、君、切り捨てられてもおかしくなかったし」

 まるで他人事のような月島の口調に、クロウの奥歯がギシリと軋んだ。

 月島は人差し指のささくれをピッと引っ張って千切る。そうして、ぷっくらと膨らんだ血の雫をベロリと舐めながら、眼球だけをぐるりと回してクロウを見る。

「そんなに怖い顔しないでおくれ、本当のことだろう? なにせ、君は前回のシングル戦で──」

「黙れ!!」

「なにも意地悪で言ってるんじゃないさ。私は君のためを思って言ってるんだ。分かるだろう? 私だって、可愛い可愛い最高傑作を失いたくはない。努々、私の期待を裏切らないでおくれ。君があまりに期待外れだと、研究は打ち切りになりかねない。そうしたら……君の末路は廃棄か解剖の二択だ」

 胃がひっくり返りそうな強い吐き気が込み上げてくる。それをグッと堪えると、今度は視界が歪み、ぐらりと眩暈がした。

 廃棄、解剖、その末路を辿った連中を、クロウは何人も見ている。

 薬を貰えないままうち捨てられ、もがきながら死んだ者。生きながら腹を裂かれ、己の臓物を目の当たりにしながら絶命した者。

 そんな哀れな実験動物達を見下ろして、月島はこう言うのだ。


 ──ねぇ、クロウ。お前もあぁなりたいかい?


「……いや、だ」

 食いしばった歯の隙間から無意識に溢れ落ちた声は、いつだってクロウの胸の奥にある言葉だ。

 嫌だ、嫌だ、オレは死にたくない。あんな無残な死に方をしたくない!!

 月島は椅子から立ちあがると、血の気の引いた顔で立ち尽くすクロウの頰をするりと撫でる。

「うん、そうだね。それなら……私の期待に応えてくれるだろう? そのためならば、どんな手段を使っても構わない」

「……わか、った」

 引きつった声で応じれば、月島はニッコリと微笑んだ。まるで、聞き分けの良い我が子を見る母のように。

「うん、良い子だね。それじゃあ、今週分の薬をあげよう」

 そう言って月島はデスクの引き出しを開けると、中から小分けにされた薬を取り出し、まとめて一つの紙袋に入れた。クロウはそれをふんだくるようにして奪い取り、月島に背を向ける。

 こんな所、一秒だって長居したくなかった。

「あぁ、そうそう。一つ、教えてほしいのだけど」

 クロウが廊下に繋がるドアノブに手をかけたところで、月島が世間話でもするかのような口調で言う。

「どうして、今回はあそこのマンションにしたんだい? あそこは『運営委員会』が提供している部屋だろう? いつもはうちの会社が用意している、もっと部屋数の多いマンションを使っていたじゃないか」

 フリークス・パーティの開催二週間前から、騎士と姫は寝食を共にすることが義務付けられていた。そうやって「顔見知り」にしておいた方が、どちらかが殺された時に、より盛り上がるからだ。

 そのための住居を、フリークス・パーティ運営委員会は無償で提供してくれている。今、クロウが使っているマンションもその一つだ。

 だが、必ずしも運営委員会が用意した住居を使わなくてはいけないわけではない。自分で不動産を借りても良いし、所属する企業が用意してくれることもある。クロウも今までは、グロリアス・スター・カンパニーが用意した住居を利用していた。

「君は性質上、プライベートに踏み込まれると色々と厄介なことになるから、部屋数は多いに越したことはないだろう? あの1LDKじゃ、何かと不便じゃないのかい?」

「……大した理由じゃない。ただの気まぐれだ」

「気まぐれ、ねぇ」

 月島は意味ありげに笑っていたが、それ以上の追及はしてこなかった。


 * * *


 クロウはマンションに戻ると、部屋に戻る前に管理人室に立ち寄った。

 このマンションの住人の全てが大会関係者という訳ではないが、管理人や警備員はフリークス・パーティ運営委員会の息がかかっており、ある程度は融通が利くようになっている。

 だから、クロウはでかける前に管理人に伝えておいたのだ。

 オレの部屋にいる女が、無断で逃げ出す素振りをしたら、捕まえておけ、と。

 管理人に確認すると、どうやらクロウの姫──サンドリヨンは外出も逃亡もしていないらしい。そのことに、クロウは少しだけ安堵する。

 あの女がいないとクロウは大会に出られない。そうしたら、どんな目に合うかは、月島に聞かされてきたばかりだ。

 姫になる女は、身内でも友人でも恋人でも、なんだって構わないのだが、クロウみたいに身内も知人もいない者、あるいは身内や知人を殺し合いに巻き込みたくない者は、運営委員会から女を斡旋してもらうことが多い。

 斡旋されるのは、大抵が金に困った身寄りのない女だ。

 そもそも、金のために殺し合いに身を投じるだけあって、他に行く宛が無い連中がほとんどだ。そういう女達は、裏社会の制裁の恐ろしさを知っているから、金さえ与えておけば、そう簡単には裏切らない。

 それなのに、バイト感覚でホイホイと運営委員会に斡旋され、挙句の果てに金を持って逃げ出す馬鹿がいるとは思わなかった。

(……これ、絶対に運営側の人選ミスだろ)

 あの馬鹿女を斡旋した運営の人間を本気で殺してやりたい。


 * * *


 部屋に戻ると、クロウの姫、サンドリヨンはソファで丸くなって寝ていた。

(……なんでソファで寝てんだ、この女)

 被っているのは毛布が一枚だけ。見るからに寒そうだ。てっきりベッドで寝ているものだとばかり思っていたのに。

 ふと思い出す。こいつと同じ顔をした妹の時はどうだったか。

 ……あぁ、そうだ。あの馬鹿女は「美花はベッドで寝るから、クロウはソファで寝てね!」と悪びれもせず言いやがったのだ。まったく似てない姉妹である。顔はほとんど同じなのに。

(まぁ、なんだっていいさ。オレを裏切ったりしなければ)

 じっとサンドリヨンの寝顔を見下ろしていると、サンドリヨンはゴロリと寝返りをうち、うんうんと苦悶の表情で呻きだした。

「うぅ~~~……美花……あんたまた、人様に迷惑かけて……あっ、すみませんすみません本当にうちの妹が……いやほんと本人じゃなくて私は姉なんです双子なんです、私はやってないんです……ううう」

「…………」

 クロウは自分の直感をさほどあてにはしてない。

 それでもなんとなく、この女は自分を裏切らないような気がした。


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