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フリークス・パーティ  作者: 依空 まつり
第7章「踊る赤い靴」
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【7ー1】チャラ男系イケメンと電波系イケメン

 選手専用観戦席に顔を出したクロウと優花に、ウミネコは片手を振って爽やかに言った。


「よっ、公開SMコンビ!」


 クロウは無言でウミネコの頭に拳骨を落とす。ウミネコは「ギャッ!」と悲鳴を上げて、頭を押さえた。

「いきなり拳骨とか酷くね!?」

「出会い頭に随分な挨拶だな。とうとう頭に蛆でも湧いたか」

「えー、だって、この間のアレって、どう見ても公開SMショー……」

 拗ねた子どものように唇を尖らせるウミネコに、エリサが白い目を向ける。

「ウミネコさん、下品です。死んでください」

「エリサちゃんまで超辛辣!」

「サンドリヨンさんが、恥ずかしさのあまり、涙目で真っ赤になって固まってるんですよ! そういう下品なジョークは言う相手を選んで下さい!」

 エリサの言う通り、優花は耳まで真っ赤になってフルフルと震えていた。スカートをギュッと握りしめて俯く姿を眺めて、ウミネコは言う。

「分かってないなー。こういうのは初々しい反応をする女の子に言うからこそ、楽しいんじゃんか!」

「ただのセクハラ親父じゃないですか」

「えー、だってさぁ、元はと言えばクロちゃんがー……」

「その話を掘り返すな……埋めるぞ」

「どこに!?」

 優花は三人の会話をなるべく聞き流しながら、視線を遠くへと向けていた。

 できれば他人の振りしたいのだが、この目立つメンバーではそれも叶わない。



 第二試合が終わってから三日。

 優花の体調もすっかり良くなったので、今日はこうして試合の見学に来ていた。

 ちなみに、クロウの次の試合は少し間が開いて明後日。

 ウミネコは先日、第二試合を無事に勝利したらしく、次の試合は当分先。

 燕とサンヴェリーナの第二試合は、今日、このスタジアムで行われる予定だ。

「さて、おバカなウミネコさんは放っておくとして……今日の試合ですが、私、ちょっと個人的に見たい試合があるので、席を外させていただきますね」

「おぉっ、誰か追っかけ選手でもいるの?」

「ふふふ、ご想像にお任せします」

 エリサは「それでは、また後で」と言って、スカートの裾を翻した。

 優花は初戦の日に見かけたエリサの暗い表情が気になったが、今、その理由を訊ねても、エリサはきっと教えてはくれないだろう。

 エリサの背中を無意識に目で追いかけている優花の横では、クロウとウミネコがこの後のことについて話し合っていた。

「オレも個人的に気になる試合があるから、そちらを見に行きたい」

「んー、実はオレもなんだよねー。サンドリヨンちゃんは?」

 ウミネコに話を振られ、優花はしばし考える。

 今は試合を見るよりも、二回戦目の後に世話になったアンパン大使に礼をしに行きたかった。

「見たい試合は燕さん達のだけで……試合が始まる前に、ちょっと行きたい所が……」

「全員、別行動のようだな。それなら、時間を決めて集合にするか」

 クロウは優花がどこに行きたいかを察したのだろう。

 会場の地図とタイムスケジュール表を優花に渡すと、真剣な顔で言う。

「あまり、人の少ない所はうろつくなよ。特に運営委員会の目の届かない所には行くな。それと、食い物に釣られて変な奴についていくなよ」

 あんたはあたしの母親か。と大声で突っ込みたいが、先日泣き顔を見られたせいか、なんとなくバツが悪い。カムバック、年上の威厳。

「この会場は記録防止のために携帯電話を使えないエリアが多い。何か困ったことがあったら運営委員会の奴を探せ。とりあえず、ヤマネを頼っておけば大丈夫だろう」

「クロちゃん、過っ保護〜。ところで、燕達の試合は十三時からだっけ? んじゃ、そのぐらいの時間になったら、またここに集合ってことで」

「いいか、絶対に人のいない所には行くなよ。絶対だぞ」

 繰り返し念を押され、優花は引きつり笑いを浮かべながら思った。

(私って……どんだけアホだと思われてんだろ)



 * * *



 エリサ、優花と別行動を取ることにしたクロウに、ウミネコが話しかけた。

「なぁ、クロちゃんは誰の試合を観に行くんだ?」

「ライチョウだ。この先、試合で当たる可能性が高いから、奴のギミックアームを見ておきたい。前回の試合よりバージョンアップしている可能性があるからな」

 クロウの言葉に、ウミネコは合点がいったと言いたげな顔で手を叩く。

「あぁ、だからサンドリヨンちゃんを連れて来なかったんだ。ライチョウの試合って、大概エグイもんなぁ~」

「……この時間帯の試合で他に気になる奴はいない。見る価値のある試合なんて、ライチョウぐらいのものだろう。お前もそうじゃないのか?」

 〈リーサルウェポン〉の異名を持つライチョウは、オートコパール社の後天性フリークスだ。全身を機械化しており、戦闘能力も持久力も非常に高い強敵である。

 ウミネコが気にするほどの選手なんて、それぐらいしか思いつかなかったのだが、ウミネコはクロウに意外な提案をした。

「……実は気になる奴がいるんだ。なぁ、クロちゃん。ちょっと付き合ってくんね?」

「……?」



 * * *



 移動通路を歩きながら、ウミネコはクロウに訊ねた。

「クロちゃんは、ハヤブサって知ってる?」

 知っているも何も、このフリークス・パーティではウミネコに並ぶ有名人だ。

 伝説の騎士と呼ばれたその男は十年前に引退し、それきり姿を消してしまったと言われている。

 クロウがフリークス・パーティに参加し始めたのは七年前なので、ハヤブサの活躍を直接目にしたことはないが、その噂を耳にすることは何度もあった。

 本来、フリークス・パーティで使われる選手名は、連続出場している限り、同じ名前を使うのが通例だ。但し、選手が死亡した場合、或いは五年以上参加が無かった場合は、新しい参加者に名前が譲られる。

 しかし「ハヤブサ」の名前だけは、十年が経った今でも、新たに誰かが名乗ることを許されていない。それだけその名前には重みがあるということだ。

 だから「ハヤブサ」の名前は今でも選手達の憧れの的となっている。

 そして、ハヤブサの噂は唯一のライバルと呼ばれていたウミネコとセットで語られることが多い。

「あの伝説の男は、お前のライバルだろ? オレよりお前の方が詳しいに決まってる」

「うーん、みんな誤解してるんだけどさぁ、運営の奴らが試合を盛り上げるために、オレとハヤブサが因縁のライバルとか言い出しただけで、オレは別にハヤブサをライバルとは思ってないんだぜ? 多分、向こうもそうだったと思うよ。まぁ、あの当時、戦ってて一番楽しいのが、あのオッサンだったのは事実だけど」

 ウミネコの言葉に、クロウは「確かに……」と声に出さず頷く。

 ウミネコはフリークス・パーティでは珍しい、試合の勝敗にこだわらず、楽しければそれで良いというスタイルの騎士だ。

 ライバルと張り合い高みを目指すだなんて、少年漫画向きな性格ではない。

「今じゃあ、ハヤブサの戦いを直接見たことがある奴は、ほとんどいないだろうなぁ」

「……そのハヤブサがどうしたってんだ。今大会の出場者にハヤブサを名乗る奴はいなかった筈だ」

「うん、まぁ、そうなんだけど……ね」


『さぁ、やって参りました! Eブロック第三試合! 出場選手は今大会のダークホース!? 謎の覆面コンビ、ピジョン&インゲル!』


 歓声に応えるように現れたのは、鳥のマスクを被った大柄な男と、同じく鳥のマスクを被った地味なワンピースの女だ。

 開会式で見かけた覚えがある。一度見たらなかなか忘れられないコンビだ。

「おい、お前はまさか、あれがハヤブサだと疑っているのか?」

「クロちゃん、ハヤブサの武器って知ってる?」

「いや、知らないが……」

「トンファーだよ」

 鳥のマスクをかぶった男、ピジョンが手にしている武器もトンファーだ。

「確かに珍しい武器だが……それだけで決めつけるのは尚早すぎないか?」

「まぁ、そうだね。それに姫が全然別人っぽいし」

 ウミネコの呟きに、クロウは改めてピジョンの姫──インゲルを観察した。

 顔をマスクで隠しているので年齢は分からないが、おそらくまだ若い。年齢は十代後半から三十代前半ぐらいだろうか。

 身につけているワンピースはいかにも村娘らしい衣装で色気は無いが、豊満なボディラインはそれなりに男心をくすぐりそうだった。

 クロウはハヤブサの噂は知っているが、そのパートナーの情報までは知らない。

「ハヤブサの姫はゲルダっていう姉ちゃんだったんだ。ゲルダはハヤブサの恋人だったから、オレが知る限り、姫が変わることは一度も無かったよ」

「あの舞台の上の鳥女が、ゲルダかもしれないだろ。顔を隠してるんだし」

 クロウの指摘に、ウミネコは首を横に振る。

「今、あそこにいるインゲルって女は、ゲルダとは別人だ。ゲルダは後天性フリークスで、分かりやすい身体的特徴があったんだ。顔を隠してても、本人だったら分かるさ。それに、ゲルダはあんなにむっちりしていない。もっと細くて華奢だったし、背も低い」

「……体型で分かるんなら、ハヤブサはどうなんだよ? お前が知っているハヤブサと、ピジョンってのは同じ体型なのか」

 クロウがステージで戦うピジョンを指差すと、ウミネコは後頭部をかきながら「アッハッハ!」と笑った。

「いやそれが、オレ、野郎の体型なんてわざわざ観察したり、まして、覚えたりなんてしないからさぁ……顔隠されたらハヤブサかどうかなんて分からないって。女の子なら胸のサイズだけで当てる自信あるけどな!」

「使えねぇ上に最後の発言が変態丸出しじゃねぇか」

「ちなみにサンドリヨンちゃんはD65。着やせするタイプと見た。良かったね、クロちゃん!」

「死ねっ!!」


『おぉーっと!! ここで、ピジョン選手の一撃が決まったー!! 一撃ノックアウトー!! 勝者はピジョン選手です!!』


「……ありゃ、終わっちゃった」

「お前のせいでろくに見れなかったじゃねぇか」

 クロウがじとりと睨むと、ウミネコは腕組みをして癖っ毛の頭を右に左に揺らす。

「うーん、力技で押し切るあたりとか、似てる気はするんだけど……やっぱ、これだけじゃ分かんないなぁ」

「やはり、顔を見ないと分からないか?」

「ぶっちゃけ、オレ、人の顔を覚えんの苦手だから、ハヤブサの顔を忘れかけてんだよなー」

「仮にもライバルと呼ばれた相手だろうが!?」

 思わず突っ込むクロウに、ウミネコは「だって、十年ぐらい会ってないんだぜー」と軽い口調で言う。本当にウミネコにとってハヤブサという男は、因縁の相手でもなければ、宿命のライバルでもなかったのだろう。

「あぁ、くそっ、時間を無駄にした。ライチョウの試合はもう終わってるだろうが……待ち合わせの時間まで、まだだいぶあるぞ」

「それじゃ、ツグミちゃん……あぁ、今回はドロシーちゃんって名乗ってたっけ、あの子の試合を観に行こうぜ!」

 ウミネコの提案にクロウは顔をしかめた。ドロシーとは第二試合の後に会って、不愉快な思いをしたばかりだ。

 わざわざ応援してやる義理もないし、ドロシーの戦闘スタイルや力量をクロウは充分に把握している。

「あいつの試合なんて、わざわざ見る価値もないだろ」

 素っ気ない口調で言うクロウに、ウミネコは意味深な笑みを浮かべた。

「いやぁ、そうでもないぜ。何せ、ドロシーちゃんのパートナー……アルマン社の秘蔵っ子みたいだからさ」



 * * *



「えーっと、この辺だと思ったんだけど……」

 地図を片手に歩き回っていた優花は、地図と現在位置を示すパネルを交互に見て首を捻った。

 数ヵ所ある販売ブースを歩いて回って、それなりに経つが、なかなかあのパン屋は見つからない。

 おまけに、前回は半分意識の無い状態でフラフラと彷徨っていたから、正確な場所を覚えていないのだ。

 医務室から比較的近い販売ブースは、確かに見覚えのある場所だった。だけど、そこにあのパン屋の姿はない。

 こういうことは、運営委員会の人に訊いても良いものだろうか……と悩んでいると、背後から声をかけられた。

「やぁ、そこの可愛いお姫様。何かお探しかな?」

 最初は他の人に向かって話しかけているのかと思ったが、周囲に他に人の姿は無い。

 優花は、これで振り向いて人違いだったら恥ずかしくて死ねる……と思いつつ、ぎこちなく声の方を振り返った。

 背後に立っているのは若い男だ。すらりと背が高く、手入れの行き届いた茶髪のハンサム。ブランド物の服を軽く着崩しているのだが、その着崩し方もどこか小慣れていて、いかにも洒落た伊達男といった雰囲気。

 まぁ、はっきり言ってしまえば、優花が苦手なタイプのチャラそうな男である。

「お姫様、何かお手伝いできることはありませんか?」

 そう言って男は、気取った仕草でウィンク。

 優花は軽く仰け反りつつ、答えた。

「えっと……この辺にあった、パン屋を探しているんです」

「あぁ、もしかして……店長さんがアンパンを推しまくってる、あの店?」

「お店の名前は知らないけど、多分それです」

 絶対に間違いない、と優花は力強く頷くと、男は気取った仕草で肩を竦めた。

「あのお店なら二日前まではここにあったけど、もう畳んじゃったみたいよ? 安くて美味しいからオレも気に入ってたんだけどねぇ」

「……そうなんですか」

 残念だわ、と優花は肩を落とす。

 パンを貰ったこともだが、それ以上に彼女の言葉に気づかされたことも多いから、そのことも含めて一度お礼が言いたかったのだ。

 しかし、期間限定のお店だったのなら、会うのは難しいだろう。

 優花がしょんぼりと俯いていると、男が屈んで優花の顔を覗き込んだ。

「…ねぇ君さ、もしかしてサンドリヨンちゃん?」

「え、えぇ……そう、ですけど」

「あ、やっぱり!」

 男はハンサムな顔ににこやかな笑みを浮かべ、あろうことか優花の手を握りしめた。

「試合中はほっかむりで顔がよく見えなかったけど、こうして近くで見るとやっぱり可愛いね」

「はぁ、どうも……」 

 優花が警戒していることに気づいたのか、男はパッと手を離すと、おどけるみたいに両手をあげてみせた。

「あぁ、ごめんごめん、名乗りもしないで。オレはコウって言うの。よろしく」

「はぁ……」

「そんな警戒したような顔しないで。オレさ、君と一度話してみたかったんだ」

 キョトンと瞬きをする優花に、コウと名乗った男はふざけ笑いを引っ込めると、真面目な顔で話し始める。

「この間のミミズクとの試合、オレも見てたんだ。実はオレも騎士として試合に参加してるんだけど、なんてゆーか……やっぱ殺し合いとか嫌じゃん?」

 コウは少しだけ眉を下げて苦い顔をすると、息を吐きながら言う。

「それなのに、ここでは殺し合いが当たり前みたいになってる。それどころか、いかに惨く殺すか観客達がけしかけてくる始末だろ。でも、誰もそれをおかしいって指摘しないんだよね……だから、正面からそれはおかしい! って言える君が凄いなぁと思って」

「いや、その……私は口先だけで全然立派なことは……」

 恥ずかしくなり目をそらす優花に、コウはゆっくりと首を横に振ってみせた。

「立派立派。こんなところで大声で自分の主張ができるだけ全然偉いよ。普通は立ちすくんで声が出なくなるって」

 オレにはできなかったことだよ、と呟くコウの声には、浮ついた雰囲気とは真逆の落ち着きがあった。

「この狂った世界をおかしいって思ってる奴は他にもいるけど、誰も何も言わないんだ。黙って自分の言葉を飲み込んで、自分に火の粉が降りかからないようにじっとしてる……黙っていれば、誰かが何とかしてくれるとでも思っているのかねぇ」

 そこで言葉を切り、コウは自嘲を誤魔化すような笑い方をする。

「かく言うオレも、そんな主張ができなくて逃げ回ってた一人だけど。君の言葉でちょっと目が覚めたっていうか……だからさ、君に会ってお礼が言いたかったんだ。ははっ、まぁ、オレのちょっとした自己満足だけど」

 優花は彼に返す言葉が分からなかった。自分のことを肯定されたのは素直に嬉しいが、その反面、自分はそんなに立派な人間じゃない、という思いもある。

 優花はもじもじと指をこねながら、ぎこちなく口を開いた。

「……あの、自己満足って悪い意味ばかりじゃない、と思うんです」

「うん?」

「少なくとも自分は満足してるんだから文句あるか! ……って、これ人の受け売りなんですけど。だから、その、えっと……うまく言えなくてごめんなさい」

 ますます居たたまれなくなって片手で顔を覆うと、コウは穏やかに笑って首を横に振る。

「いいよ、なんとなく伝わった。サンドリヨンちゃんは良い子だねぇ~。あんな根暗で性格悪そうな男の姫なんてやめて、オレの姫になっちゃわない?」

「いや、それは……」

「この間も手錠とか猿轡とか……酷い格好させられてたじゃない? あいつに暴力とか振るわれてない?」

 最初はいかにも軽薄な口調で優花を誘ったコウだったが、その後に続く言葉は真剣そのものだった。どうやら、本気で優花の身を案じてくれているらしい。

「もう大丈夫です! ちゃんと話し合って仲直りしましたから」

「そう? でも、何か酷いことされそうになったら、オレでも他の誰でも良いから、ちゃんと助けを求めるんだよ? 実は他人事ながらちょっと心配してたんだ、あの試合の後、君がクロウって奴に酷いことをされてたんじゃないかって……」

「ご親切にありがとうございます。でも、本当に大丈夫ですから」

 優花が慌ててクロウのフォローをすると、その場に静かな声が割り込んだ。


「……おい」


 最初、その声がどこから聴こえたのか分からなかった。コウも同様に、ギョッとした顔で肩を竦め、そして勢いよく振り向く。

 いつのまにか、コウの背後には一人の若者が佇んでいた。年はコウと同じぐらいだろう。襟足がやや長めの髪は、脱色を繰り返したような色の薄い金髪。バンド好きの若者が好みそうなサスペンダー付きのパンツと黒いプリントTシャツを着て、至る所に厳ついシルバーアクセサリーを付けている。

「……またナンパか? 懲りない奴」

 静かに呟く金髪の若者に、コウが慌てて首を横に振った。

「いやいや、ナンパじゃないって。ちょっと可愛い子と立ち話してただけ!」

「立ち話? ……そいつ見覚えがある」

 そう言って、その若者は優花をじっと見る。その顔は、美醜に疎い優花でも見惚れるぐらい整っていた。

 コウも分かりやすいハンサムなのだが、金髪の若者は綺麗という言葉の方がしっくりくる。

(こんな綺麗な人初めて見た……この人も騎士?)

 優花が戸惑っていると、コウが金髪の若者に優花のことを説明した。

「この子はサンドリヨンちゃんだよ。ほら、この間のクロウとミミズクの試合、お前も見てただろ?」

「……あぁ、そうか。その子が……」

 そう呟いて、金髪の若者は色の薄い目で優花をじっと見た。

 男女問わず、ずば抜けた美人に見つめられれば、誰しも緊張するものである。

「……あ、あの?」

 戸惑いつつ優花が口を開くと、金髪の若者はズバリ一言。


「……長生きしないタイプだな」


 初対面の相手に随分な言い草である。

 優花の中で、金髪の若者に対する評価が「ミステリアスでクールなイケメン」から「電波なイケメン」に変化する。

 そんな電波なイケメンの横で、コウが苦笑しながら口を挟んだ。

「お前、また誤解されるようなことを……」

「誤解? 何がだ?」

 電波イケメンは何がいけないのかまるで分かっていない顔をしていた。

 コウが「あーもう!」と嘆かわしげな顔で額に手を当てる。

「気を悪くしないでね、サンドリヨンちゃん。こいつ、こんなんだけど意地悪で言ってるわけじゃなくて……」

 コウの言葉が終わるより早く、電波イケメンは優花とコウに背を向けて、ふらりと歩き出した。コウは慌ててその背中を追いかける。

「こらっ! どこ行くんだよ! 人の話は最後まで聞きなさいってば!」

「……嫌な空気が近づいてる。帰る」

 電波イケメンはポソポソと小さい声で呟き、人形じみた目をくるりと回してコウを見た。

「……ここにいると殺されるぞ。死にたいなら、そこにいればいい」

「はぁ!? あ、ちょっ、待てって! ごめんな、サンドリヨンちゃん。また今度ゆっくりお茶でもしようね~!」

 足音を感じさせない足運びでその場を立ち去る電波イケメンを、コウがバタバタと追いかけた。

 不思議な二人組だったなぁ、と優花はその後ろ姿を眺める。

「サンドリヨン」

 声をかけられて振り向くと、そこにはクロウとウミネコがいた。

 クロウが「用事は済んだのか?」と訊ねたので、優花は曖昧に頷く。

「あー……うん」

 あのパン屋が見つからなかった以上、ここにいる理由はないし、クロウと合流して問題ないだろう。

 燕の試合までは、まだだいぶ時間がある。クロウとウミネコはどうするつもりなのかと優花が訊ねると、ウミネコが陽気に提案した。

「それじゃあ、サンドリヨンちゃんも、オレ達と一緒に試合観戦しようぜ。今日はちょっと珍しい試合が見れちゃうかもよ?」

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