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【幕間9】おにぎりの思い出

 優花が小学三年生の頃、同年代の子どもの間では、ペットを育成する携帯ゲームが流行っていた。放課後になると、みんなゲーム機を持ち寄って夢中で遊んでいたのだが、家が貧しい優花は当然ゲーム機なんて持っていなかったし、それが欲しいだなんて家族にねだれるはずもなかった。

 だから、皆の輪に入りづらかった優花は、放課後になると学校の近くにある山に入り浸って、一人で遊んでいた。

 そのことを寂しいと思ったことはない。何故なら、ゲームのペットなんていなくても、優花には可愛いお友達がいるのだ。

「こんにちは、おちびさん」

 大きな木の根元に置いた段ボール箱の中には鳥の雛がいた。特に名前はつけていないが、優花はおちびさんと呼んでいる。

 おちびさんは、この山の中で優花が見つけた雛鳥だ。弱っていたところを見つけて保護した優花は、放課後になると毎日このおちびさんの世話をしていた。おちびさんが何の鳥の雛かは分からないが、野鳥は人間が保護してはいけないらしい。だから、ここでおちびさんを匿っていることは、絶対に大人達には秘密だ。

 おちびさんは、最近はちょっとだけ懐いてくれて、優花が頭を撫でても逃げたりはしなくなった。

 見つけた時はほとんど毛がなかったのだが、最近は少しずつ羽が生え始めてきた。それが、ぽわぽわしていてとても可愛い。

「ふかふか~、ふふっ、いいこ、いいこー」

「優花ちゃーん!」

 おちびさんを手のひらに乗せて餌を与えていると、小柄な少年が優花の名を呼びながら、駆け寄ってきた。牛乳瓶の底みたいに分厚い眼鏡をかけた、ボサボサの髪の毛の男の子だ。優花は(しょう)君と呼んでいる。

 通っている小学校こそ違うが、この裏山で知り合った優花の大事な親友だ。

 ちょっと内気で大人しいが優しい子で、おちびさんの世話も一緒に手伝ってくれる。

「ご飯あげてたんだ」

「そうよ。あーあ、この子がご飯食べてるの見てたら、私もお腹が減ってきちゃった」

 おちびさんが食べているご飯とは、即ち小さい虫である。

 小鳥が虫を食べている様子を見て、自分もお腹が減ったと言える優花の図太さに、翔は優花ちゃんらしいや、と慣れた様子で笑いながら相槌を打った。

「うん、そうだね、お腹すいたね」

「ふっふっふ、今日は私も良い物持ってきたんだ。じゃじゃーん、おにぎりー!」

 優花はランドセルの中からアルミホイルで包んだおにぎりを二つ取り出した。

 如月家ではおにぎりと蒸かし芋は定番のおやつである。すぐにお腹がへってしまう優花にとって、腹持ちの良さは最も重要なポイントだ。

 優花はアルミホイルの包みを一つ翔に手渡した。

「半分こして食べよ。今日はなんと鮭のおにぎりなのよ!」

 ちなみにいつもはオカカと昆布と梅干しのローテーションである。鮭おにぎりはちょっぴり贅沢なのだ。

「凄いね、このおにぎり、優花ちゃんが作ったの?」

「へへへ~。お母さんに教えてもらったの。上手でしょ!」

「うん、すごく上手。優花ちゃんはお料理上手だね」

 おっとりと笑いながら褒める翔に、優花は小鼻を膨らませて頷く。

 それから、二人で食べたおにぎりは、とびっきり美味しかった。



 * * *



「1091、1093、1097、1103……」

 クロウは布団の中で無心に素数を数えていた。その桁数がついに三桁を超え、四桁に達した頃、隣で眠る優花が寝返りをうち、もにゅもにゅと口を動かしながら寝言を言う。

「おにぎりうまー!」

「なんなんだよ本当に!! あぁ、くそっ!! しっかりしろ、俺……1109、1117、1123、1129……」


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