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フリークス・パーティ  作者: 依空 まつり
第4章「白鳥は歌う」
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【4ー4】公開メロドラマ

 オオルリはフリークス・パーティ参加歴の長いベテランだ。自分よりも圧倒的に強い相手と戦ったことは数え切れないぐらいある。そして、死線を乗り越えてそれに勝利してきたことも。

 シングルバトルでは、単純に騎士の実力が物を言うが、ペアバトルでは戦略性が問われる。いかに自分の姫を守り、敵の姫を効率的に殺すか──そのための戦略を、オオルリはいくつも知っていた。

 一方、目の前の男、イーグルはシングルバトルでの優勝経験こそあるものの、ペアバトルはこれが初めて。決して勝てない相手ではない。

「随分と余裕だな、イーグル。得物はそのステッキだけか? それとも仕込みか?」

 挑発しつつ、オオルリはイーグルの杖を注意深く観察した。

 一見したところ仕込み杖特有の細工は見られないが、油断は禁物だ。フリークス・パーティでは武器の持ち込みは禁止されていない。当然、暗器の類も。

「仕込み? まさか。そんな無粋な真似はしないよ。僕は紳士だからね。刃物を振り回す趣味は無いんだ」

「シングルでは運良く優勝できたようだが、今回も、まぐれが続くとは思わぬことだ」

「……まぐれ、ね。君が前回のシングル戦で何を見ていたかは知らないが、好きに言えばいい」

 イーグルは口の端を僅かに持ち上げて薄く笑うと、鋭い目に冷たい光を宿して告げる。

「せいぜい、己の無力さを噛みしめてくれ。脆いブリキのお人形さん」

 サイボーグ製の両腕を揶揄されても、オオルリは腹を立てたりしなかった。より強くなるために両腕を捨てた時から、覚悟はできている。歩んできた歳月の重みは、目の前の若造程度にどうこうできるような軽い代物ではない。

「お前の姫もろとも、この刃の錆にしてくれる」

 機械仕掛けの義手。その手首から伸びる特殊金属のブレードを持ち上げ、切っ先をイーグルと、その横に佇む姫オデットに向ける。

 刹那、イーグルの殺意が膨れ上がった。

 常に薄い笑みを浮かべていた端整な顔から笑みが消え、鷹のように鋭い目がオオルリを貫く。

「どうやら命はいらないらしい。ならば、お望みどおり……」

 凶悪な眼光を飛ばしたイーグルは、再び上品な笑みを浮かべ、オオルリにステッキの先端を向ける。

「そのツギハギだらけの無様な体を、粉々にしてあげよう」



 審判の海亀が、両者を所定の位置へと促す。

 今回の舞台は広い円形のステージ。ギミックの類は無いシンプルなステージなのは、エキシビジョンマッチ故、試合時間を長引かせないためだろう。

 それぞれのペアは、円陣の中央に、五メートルの距離を開けて立つ。

 それと同時に、ステージの周囲に電気が流れる音が聞こえた。ステージの周囲を高圧電流で囲ったのだ。

 フリークス・パーティでの勝利条件は「騎士か姫の死亡、或いは騎士の戦意喪失」のみ。

 「場外による失格」などという生温いルールは存在しない。選手が場外に出られないよう、ステージは高圧電流で囲われているし、それをかいくぐって逃亡しても運営委員会の手で連れ戻され、ステージに投げ込まれる。

 オオルリのパートナーのマーメイドは緊張に体を強張らせたが、一方、イーグル側は呑気なもので、これから殺し合いが始まるというのに、いちゃついている。

「オデット、僕の姫。君に勝利を捧げるよ」

「うん、頑張ってね、イーグル」

 オデットは無邪気に笑いながらそう言うと、その場にしゃがみ込んで両目を塞いだ。

 オオルリは思わず眉をひそめる。

「……お前の姫は、何をしているのだ?」

「僕の大事なオデットに、野蛮な戦いなんて見せたくないからね」

 ペアバトルにおける姫の役割は、戦闘の邪魔にならないように配慮しつつ、敵の騎士から逃げることだ。だというのに、あれでは逃げることすらままならないではないか。

 やはり、こいつはペアバトルの素人だ。シングルバトルの前回優勝者だかなんだか知らないが、ペアバトルの恐ろしさを思い知らせてやろうではないか。

「あぁ、一つ宣言しておくよ。僕は君の姫は狙わない。だから、姫を守ることは考えず、僕を殺すことにだけ専念すればいい」

「……ふん、そんな甘言に騙されると思ったか」

「本当さ。僕はか弱い女性を狙う趣味はないからね」

 イーグルの言葉は自分を揺さぶるためのハッタリだ、とオオルリは判断する。

 自分はその手のハッタリで心揺さぶられたりなどしないのに、無駄なことを。


「それでは、エキシビジョンマッチ──始めっ!」


 審判の海亀が片手を振り下ろし、試合開始の合図を送る。それと同時にオオルリは先制攻撃を仕掛けた。まずはイーグルに一撃。それを杖で受け止められるのは承知の上である。

 最初の一撃でイーグルの動きが止まった隙に、すぐそばにいるオデットの首をかき切るのがオオルリの狙いだ。

「君は、何がしたいんだい?」

 硬い物が砕ける音がする。それが、自分の左腕のブレードが砕ける音だと気づいた時には、オオルリは脇を蹴られ、吹き飛ばされていた。

 ゴロゴロと転がり、ステージの縁まで吹き飛ばされた体は高圧電流の餌食となる。

「ぎゃあああああああああああ!」

 のたうち回りながら、オオルリはなんとか高圧電流地帯から離れ、ステージの上を這う。イーグルは追撃をしなかった。

 ただ、ステッキでコツコツと床を叩きながら、哀れむような目でオオルリを見ている。

「もう一度問おう。体を機械化までして、君は、何がしたかったんだい?」

「オレが望むのは最強の座のみ! 例え、半身が機械にすげ替えられようと、最強の力を得られるのなら、それも構わん!!」

 オオルリの体は半分以上が機械に差し替えられている。それでも、高圧電流を食らって動かなくなるなんて柔な代物じゃない。左腕のブレードは粉々になってしまったが、まだ左腕の義手には別のギミックがあるのだ。肘の内側に取り付けられた小さなトリガーを引くと、左手の拳から針が飛び出す仕組みになっている。針の先端は、銛のようにかえしが付いているので、一度刺されば引き抜く時に体の肉を大きく抉ることができるのだ。迂闊に近づいてきたら、この針でぶすりと刺してやる。

「貴様を倒して証明してやる! このオレが、最強のフリークスだとな!」

 血を吐くようなオオルリの叫びに、イーグルは心底うんざりという顔をした。

「……くだらない」

 呟くと同時にイーグルは動き出した。恐ろしく、速い。

 オオルリがまだ残っている右手のブレードでイーグルの首を狙う。だが、イーグルはそのブレードを左手で掴み──いとも容易くへし折った。まるで薄い鉄板をグニャリと折り曲げたみたいに、ブレードが変形する。

(まだだ、左腕の隠し針が……)

 ギミックを発動させようとするが、発動しない。何故だ、と焦るオオルリはそこでようやく気がついた。

 自身の左腕が肩からもがれていることに。

「あ、ああ、あああああああああああっ!!」

 義肢とは言え、無理やり引き千切れば痛みはある。のたうちまわるオオルリは見下ろし、イーグルは手にしたオオルリの義肢をポイと放り捨てた。

「脆いね、まるで玩具と変わらない」

 次の瞬間、足に衝撃。今度は左足を折られた。


『速い、速すぎる!! あまりに圧倒的な力の差に、オオルリ選手、文字通り、手も足も出ません!』


 ドードーの実況がいつもより酷く遠く聞こえる。

 審判の海亀は、まだ戦闘終了の合図を出せない。オオルリはまだ敗北宣言をしていないからだ。

 そうだ、自分はサイボーグなのだ。例え足と腕がもがれたところで、まだ戦え……

「……ねぇ、下らないと思わないかい。紛い物の化け物モドキさん。どんなに体を作り変えて、改造して、つぎはぎだらけにしても、生まれつきの化け物の前では足元にも及ばない」

 イーグルのステッキがオオルリの喉を押し潰した。カヒュッ、と不自然な息を吐くオオルリを見下すイーグルの目は、どこまでも哀れんでいる。弱いオオルリを。

「君の存在が、いかに無意味で無価値か理解できたかな? 理解できたのなら……さようなら」

 喉を圧迫するステッキにぐっと力が込められたその時、審判の海亀が声を張り上げた。

「そこまでっ!! オオルリ選手、戦意喪失とみなし、この試合、イーグル選手の勝利ですっ!!」

 喉を潰してしまえば、オオルリは敗北宣言ができなくなるとみなした上での判断なのだろう。

 イーグルはステッキを持ち上げると、ふぅっと溜息を吐いて、海亀を一瞥する。

「……随分甘いレフェリーだ」

 イーグルの白手袋はオオルリの義肢をもいだ際に、機械油で汚れていた。彼はポケットから取り出した真新しい手袋に取り替えると、目を塞いでしゃがんでいたオデットの肩を叩く。

「待たせてごめんね、オデット。怪我はないかい?」

「うん、イーグルが守ってくれたから、平気だよ」

「オデット、僕の女神、勝利のご褒美をくれるかな?」

 イーグルが姫にかしずくようにしてオデットの手を取れば、オデットは「いいよ〜」と笑顔でイーグルに抱きつき、その頰にキスをする。

『エキシビジョンマッチ、勝者はイーグル選手! 今、勝利した騎士に姫君から祝福の口づけが贈られました! ここで、勝者のイーグル選手からコメントを頂きましょう。イーグル選手、よろしいですか?』

 タキシードに派手な仮面の実況者ドードーが、イーグルにマイクを差し出す。

 イーグルは薄く笑いつつ、余裕の態度でそれに応じた。

「僕とオデットの大切な時間を邪魔されたくないんだ。手短に頼むよ」

『それでは……勝者として、一言コメントを』

「そうだね、それじゃあ、哀れな造り物の化け物さん達に一言」

 イーグルはカメラの方に顔を向けると、ニコリと上品に微笑み、宣戦布告をした。

「君達など、本物の化け物の前では足元にも及ばないことを、僕が証明してあげるよ」

『なんという強気な発言! しかし、前回のシングル戦優勝者のイーグル選手なら、今大会の優勝も夢ではない!?』

「勿論、優勝しますよ。僕の愛する姫、オデットのためにも」

『おーっと、これはお熱い! そういえばイーグル選手は当初、パートナーバトルには出ないと宣言していたそうですが、今回参加を決めたのは、やはりオデット姫のためですか?』

 踏み込んだ質問にも、イーグルは気を悪くした様子はなかった。

「えぇ、僕は我儘なので、心から愛する姫のためでないと、なかなかやる気が起きなくて……それで、パートナーを見つけられず、参加を見送っていたのですが、僕の運命の人に再会したんです」

『情熱的ですねぇ! では、その運命の女性、オデット姫にもインタビューを……』


「「こんの、バカ娘ぇぇぇぇぇぇっ!!!」」


 響いた声はマイクを使って話すドードーやイーグルの声よりも大きかった。

 会場を揺るがすほどの怒声を響かせた二人は、勢いよくステージを駆け上る。試合終了と同時に高圧電流はオフになっていたので、突然の乱入者を止めるものはない。

 クロウは目を血走らせ、顔中に青筋を浮かべて。優花はスカートをたくし上げ、目をギラギラと輝かせて。

「こ、困りますよ、試合場に入りこまれては……」

 海亀が制止すると、その二人──クロウと優花は声を揃えて怒鳴った。

「「すっこんでろ!!」」



 * * *



「……あわわわわ、た、大変なのですっ」

 この珍騒動をモニター越しに見ていたヤマネは、オロオロとシャーロットを見る。厳格な女王様は不快そうにしているかと思いきや、意外にも『面白い余興だこと』と呟いた。機械音声ではあるが、不思議とその声色は弾んでいるように聞こえる。

 ヤマネはそのことに軽く驚きつつも、無線を持ち上げた。

「えっと……とりあえず、警備担当のグリフォンさんとジャバウォックさんに連絡して……」

『必要無いわ』

「えっ!?」

『ヤマネ、ドードーと海亀に指示して、そのまま続けさせなさい』

 〈女王〉がそう命じたのなら、ヤマネに否やはない。

「かしこまりましたなのです」

 ヤマネは無線をエプロンのポケットに戻し、モニター画面に映るステージを見守る。

 モニターの中では、クロウと優花が過去最高に意気投合した様子で怒鳴り散らしていた。



 * * *



 サンヴェリーナはポカンと目と口を丸くした。

 イーグルの姫オデットにスポットライトが当たった瞬間飛び出していった二人が、どういうわけかスクリーンに映っているではないか。

「お二人とも、凄い剣幕で飛び出して行かれたと思ったら……」

 一体、あの二人とオデットの間に、どのような確執があったのだろうか。

 狼狽えるサンヴェリーナの横で、兄の燕も「うむ」と困惑した声で頷く。

「詳しいことは分からんが、随分とこみ入った事情があるようだな……それにしても、また随分と悪目立ちを……ろくでもない輩に目をつけられねば良いのだが」

 サンヴェリーナと燕が二人のことを気にかけている横で、呑気なことを言っているのがウミネコとエリサである。

「ヒューッ、クロちゃんやっるぅ~♪」

「修羅場の予感がしますねぇ」

 ステージの上にいる者達は皆スクリーンに釘付けだ。だが、彼らの関心は殆どがイーグルとクロウに向けられていた。前回のシングルバトル初戦で、クロウがイーグルに惨敗したことは記憶に新しい。

 少しばかり目の良い者は、オデットとサンドリヨンが瓜二つの顔をしていることに気づき、不思議そうな顔をしている。

 そんな中、周囲と違う反応を見せているペアが、一組だけあった。鳥のマスクを被った鳥人間コンビである。

 鳥人間(♂)のピジョンがクツクツと喉を震わせて笑えば、同じく鳥人間(♀)が相方を見上げて訊ねる。

「気になる?」

 ピジョンは首肯するでも否定するでもなく、ただ息を吐くようにして笑う。

 鳥人間(♀)は、スクリーンの中で勝気そうな顔を怒りに歪めているサンドリヨンを見て、何やら納得したような様子でうんうんと頷いた。

「流石は……の……ってところだな」



 * * *



 イーグルの姫オデット、もとい如月美花は両頬に手を当てて声をあげた。

「え~~~、なんでなんでぇ~! なんでこんなところに、お姉ちゃんがいるのぉ!?」

 びっくり〜と語尾を伸ばして言う美花に、優花は頰をヒクヒク震わせながら、静かに押し殺した声で答えた。

「……なんでだと思う? 胸に手ぇ当てて考えてごらんなさい」

「え~、オデットわっかんなぁい!」

 オーバーリアクション気味に首を横に振る美花に、先にブチ切れたのはクロウだった。

「こんの馬鹿女っ!! 裏切り者っ!! オレのところから逃げ出したと思ったら、よりにもよってイーグルの姫になっていたとはなっ!」

「あ~、分かったぁ!お姉ちゃん、クロウに無理やり姫にされたんでしょぉ? クロウってば最っ低ぇ~!」

 クロウの顔の青筋が更に一本増えた。

 黒手袋をした手をフルフルと怒りに震わせて、クロウは血走った目で呻く。

「あんだとぉ、ごるぁぁぁぁぁ!」

「お姉ちゃん、そいつやめといた方がいいよぉ! まじ、最悪だから! 性格悪いし!」

「てっめぇぇぇぇぇ……」

 クロウが美花に飛びかかろうとする直前で、優花は声を張り上げる。いつも美花を説教する時にしていたように、腰に手を当てて。

「いい加減にしなさい! 人様に迷惑かけるなと、あれほど言ったでしょうが! あんたはどうして、いつもそうなの!」

 ピシャリと言い切る優花に、美花は拗ねたように唇を尖らせると、プイッとそっぽを向く。

「もぉ、お姉ちゃんの石頭! 分からず屋! 頑固者! なんでいつも、すぐ頭ごなしに怒るのぉ! そんなんだから、どうして私が家出したかとかも、分からないんでしょ!!」

「…………え?」

 美花は家を出る時に「都会で良い男をゲットしに行く」と言っていた。それが理由ではないのだろうか?

 優花が戸惑っていると、紳士然としたイーグルがやんわりと間に割って入った。

「失礼、君は僕のオデットのお姉さん、なのかな? それに、そっちの彼は……どこかで見覚えがあるね」

 そう言ってイーグルは、何かを思い出そうとするかのように顎に手を当てて「うーん」と考え込む。

 そして、ステッキを小脇に挟み、ポンと手を叩いた。

「あぁ、思い出した。半年前のシングル戦……初戦で僕と対戦した、出来の悪いキメラか」

 爽やかな口調だが、最後の一言に悪意がたっぷり塗り込められている。

 短気なクロウが「てめぇ……」と歯ぎしりすると、イーグルは余裕たっぷりの笑顔でクロウを見下した。

「君達の事情は知らないけれど、僕のオデットに手を出そうと言うのなら、こちらも黙ってはいられないよ」

「……そこをどけ。その馬鹿女を一発殴らせろ」

「僕がそれを許すと思うかい?」

 クロウとイーグルはまさに一触即発という空気だった。クロウは完全に頭に血が上りきっているし、イーグルはそれを分かっていてクロウを煽っている節がある。

 今にも戦闘が始まりそうな空気の中、必死で声を張り上げたのは審判の海亀だった。

「お二方とも、どうか争いはおやめください。フリークス・パーティ中、試合以外での私闘は禁止されてます!」

「確かに私闘は良くないな。ねぇ、カラス君」

 海亀の必死の訴えに、イーグルが物分かりの良い顔であっさり引き下がる。ただし、最後の一言に毒を盛るのは忘れずに。

「……クロウだ。ちゃんと覚えやがれ、鳥頭」

「失礼、《死肉漁りの凶鳥》君。僕と僕の姫に用事があるのなら、試合に勝てば良いことだ。まぁ、君が僕と当たるまで、勝ち残れたらの話だけど」

「上等だ。お前こそ途中でうっかり敗退なんてならないよう気を付けることだ。パートナー・バトルは、シングルとは勝手が違うからな」

「ご忠告ありがとう、先輩さん。そちらこそ足元をすくわれないように……行こう、オデット」

 イーグルが美花をエスコートするように手を差し伸べれば、美花は「うん!」とニコニコしながら、イーグルの腕にしがみつく。

「お姉ちゃん、私、絶対負けないからね。悪いけど、今回だけは絶対に譲らないんだから」

 美花はパチンと可愛らしくウインクをして、優花に背を向ける。そうしてイーグルと美花の二人は余裕綽々の態度でステージを下りていった。

 残されたクロウと優花が無言で二人の背中を睨みつけていると、これまでのやりとりを黙って見守っていた実況のドードーが声を張り上げる。


『おおーっと! ここでまさかの急展開!! なんと、イーグルの姫オデットと、クロウの姫サンドリヨンは姉妹だった!! おまけに、イーグルとクロウは前回のシングル戦で戦っている、まさに因縁の相手!! 更に更に更に!! オデットはクロウ選手の元姫だったが、一度袂を分かち、イーグル選手の元へ身を寄せたとの情報が! これは美しい姉妹を巻き込んだ恋の四角関係の始まりかっ!? 熱い展開になりそうだーーー!!』


 ドラマのあらすじのごとく自分達の関係性がまくしたてられている現実に、優花は虚ろな目で呟いた。

「……これ、全部スクリーンに映ってるわよね……」

「……言うな。もう、何も言うな」


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