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フリークス・パーティ  作者: 依空 まつり
第3章 「ネバーランドに逝った少女に捧ぐ」
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【3ー5】不思議の国への挑戦状

 男の名はグリフォン。勿論、本名ではない。

 フリークス・パーティ運営委員会の人間は皆、〈女王〉から貰った名前を名乗るのが慣習なのだ。

 ちょいと前までは、彼もフリークス・パーティに参加する騎士として、慣習である鳥の名前を名乗っていた。騎士を引退して運営委員会に配属になった時、運営委員会の総責任者〈女王〉こと、シャーロット=レヴェリッジが彼に与えた名前がグリフォンだ。

 そういうわけで、今の彼はグリフォン。ちょい伊達悪で渋めのハンサム兄貴だ。

「なぁ、グッさん」

 ウミネコの呼びかけに、グリフォンは勢いよく振り向いた。

「グッさん!? オレのことか!? なんだその呼び名!?」

「グリフォンのおっさん、略してグッさん」

「おっさん言うな!! オレはまだ三十六歳だ!」

「おっさんじゃん」

「お前もたいして違わねぇだろうが!」

「オレはまだ、ぎり二十代だもーん」

 そう嘯くウミネコは、どう見ても十代の若造にしか見えなかった。

 ウミネコとは長い付き合いになるが、まったく容姿が成長したように見えないのはどういうことだろう。相変わらずチャランポランな男だが、それでも十代の頃に比べれば多少は落ち着いた方だと思う。

 最近では、フリークス・パーティに参加する若い連中を何かと面倒見てやっているらしい。良い傾向だ。

 今回、シアルート製薬から逃走し、クロウを殺そうとしたモズのことを運営委員会に連絡したのもウミネコだった。

 連絡を受けたグリフォンとヤマネが駆けつけた時には、すでにモズはウミネコの手で真っ二つにされていて、今はその後片付けをしてきたところだ。

 ちなみにウミネコは、ほとんど手伝わないで横から茶々を入れてきただけだった。その上で、こうして運営委員会本部まで付いてくるのだから、何がしたいのか分からない。

 本部の廊下をグリフォンと並んで歩くウミネコは、あんな騒動があったばかりだというのに、血のように真っ赤なキャンディーを取り出して口に放り込んでいる。

「グッさんも、飴ちゃんいるー?」

「いらねぇよ、そんなガキくせぇもの」

「まぁ、オレも別に甘党ってわけじゃないけどさー、禁煙したら口寂しくて」

 そう言ってウミネコは、グリフォンの手に無理やり黒飴を握らせる。いらねぇって言ってんだろ、とグリフォンが顔をしかめても御構い無しだ。

「なぁ、グッさん。今年のフリークス・パーティにハヤブサは出る?」

 なるほどそれが本題か、とグリフォンは目を細めた。わざわざ運営委員会本部にまで付いてきたのは、グリフォンがその手の情報を漏洩の危険がある外では絶対に口にしないと知っているからだ。

 だが、たとえ運営委員会の本部の中であろうとも、グリフォンは口を割るつもりはない。

「出場選手のことなら教えねぇぞ。ばらしたら、女王様に首を刎ねられちまう」

「じゃあ、質問を変えるよ。ハヤブサは見つかった?」

「……そう簡単に見つかったら苦労はしねぇよ」

 フリークスパーティでは、選手が死亡或いは引退して数年が経った場合、その名前は新規の選手に与えられる。つまりは使い回されるのだ。

 だが、たった一つだけ、その選手が姿を消して十年経った今でも、誰も名乗ることを許されていない名前があった。それがハヤブサ。

 かつてフリークス・パーティで「伝説」と呼ばれ、ウミネコの生涯のライバルだった男の名だ。

 史上最多の優勝記録を打ちだしたハヤブサは十年前に引退宣言をし、それきり姿をくらませてしまった。

 運営委員会は血眼になってハヤブサの行方を探したが、とうとう見つからないまま十年の時が過ぎて今に至る。

 今でもハヤブサの情報には懸賞金がかけられている。それだけ、フリークス・パーティは伝説の男を欲しているのだ。

「何で今更そんなこときくんだよ。お前、今までハヤブサのことなんて気にしてなかったじゃねぇか」

「まぁ、そうだけど。オレにも思うところがあってさ」

 ウミネコはハヤブサのライバルと言われていたが、ハヤブサの引退に対するウミネコの反応は実にあっさりしていた。

 なにせ、周りが驚愕しどよめく中「へー」の一言である。それで良いのか生涯のライバル。そこは驚き、引退するライバルを引きとめるところだろうが。

 その後、レヴェリッジ家がハヤブサの情報に懸賞金を提示し、周囲が血眼になってハヤブサの行方を追っている間も、ウミネコはいつもと変わらない調子だった。

(そんなウミネコが今更ハヤブサのことを気にするなんて……どういう風の吹き回しだ?)

 グリフォンが探るような目でウミネコを見ていると、ウミネコは新しいキャンディの包み紙を取り出してピリピリと端を破く。

「今年のフリークス・パーティはさぁ、ちょっとおかしいよな。一体、裏で何が起こってんの?」

 グリフォンは黙して語らない。ウミネコは袋に貼り付いてしまったキャンディを剥がすのに苦戦しながら、独り言のように呟く。

「いや、むしろ……おかしいのはフリークス・パーティじゃなくて、レヴェリッジ家の……」

「ウミネコ」

 ウミネコの独白を、グリフォンは強い口調で遮る。

「レヴェリッジ家のお膝元であるこの運営委員会本部で、そーいう軽口はやめとけ」

 ウミネコは丸い薄茶の目でじぃっとグリフォンを見上げていた。こちらの心情を探ろうとするかのように。かと思いきや、くるりと踵を返してグリフォンに背を向ける。

「オレ、もう帰るわ。ジャバのとっつぁんに『そのうち飲みに行こうぜ』って伝えといて」

「……あぁ」

「じゃーなー」

 ウミネコはグリフォンに背を向けたまま、ヒラヒラと片手を振った。やがて、その背中は廊下の角を曲がって見えなくなる。

 やはり、フリークス・パーティに昔から関わっている奴は何かしら感じているのだ、とグリフォンは唇を噛みしめる。

「『何が起こってるの?』だと……そんなのオレが知りてぇよ」

 廊下の非常灯を睨みつけ、グリフォンは先月行われた幹部会議のことを思い出していた。



 * * *



 その日行われた幹部会議の日は残暑が厳しく、日本の夏特有の蒸し暑さが得意ではないグリフォンはぐったりとしていた。

 フリークス・パーティの主催者であるレヴェリッジ家はドイツの名家だが、フリークス・パーティは何故かいつも日本で行われている。

 グリフォンも詳しい理由は知らないが、レヴェリッジ家の先代当主クラーク・レヴェリッジが大の日本通であるからとかなんとか。

 クラーク亡き後は、その妹のシャーロットが後を継いだが、彼女もまた日本という国に何かしらの思い入れがあるらしく、大会が無い時でも足繁くこの国に通う。

 この国の何がそんなに良いのか、グリフォンにはさっぱり分からない。確かに治安が良いことは認めるが、物価の高さと夏の湿度の高さには正直辟易する。今だって、秋なのに馬鹿みたいに暑いし。

 だが、この気候にぐったりしているのはグリフォンだけで、それ以外の連中はみんな涼しい顔をしていた。

 幹部会議に参加しているのは、フリークス・パーティの総責任者にして、レヴェリッジ家当主の〈女王〉シャーロット・レヴェリッジ。

 それから時計回りに、ちょっとくたびれた感じの中年男のジャバウォック。

 二十歳前後のおどおどした青年、白兎(はくと)

 のっぺりとした仮面で顔を隠した青年、海亀(うみがめ)

 そしてグリフォンの五人だ。

 幹部の人数が少なく、かつ比較的若い人間が多いのは、二年前にクラーク=レヴェリッジが死去し、大規模な人事異動があったからだ。

 一番幹部歴が長いのがジャバウォック。次が白兎。グリフォンと海亀は今年幹部になったばかりの、ほぼ新人と言ってもいい。

 たまに医療班の人間や、笛吹、ヤマネなどが会議に顔を出すこともあるが、基本的にはこの五人で会議を行う。

 今回の議題は数日前に運営委員会宛に送られてきた一通の封書についてだ。

 くだんの封筒は黒一色という趣味の悪い代物で、そこに赤黒いインクでパーティのご案内と綴られていた。

 中身は封筒と同じ真っ黒なカード。そこに血のように赤いインクで、ただ一言こう記されている。



 ──本当のフリークス・パーティが始まるよ


 

「……消印は無い。直接投函されたものですね。筆跡もわざと崩してあるから、調査は難しいでしょう」

 真っ先に口を開いたのは、カードを観察していた仮面の男、海亀だ。海亀は真っ白い仮面の奥で目を眇めて、封筒とカードをひっくり返したり、光に透かしたりしていた。

「あのぅ、これって脅迫状……ですよね?」

 小さく挙手をしながらおどおどと発言したのは、海亀のとなりに座っている青年、白兎である。幹部になった時期はグリフォンと同じだが、最年少のせいか、白兎はいつもビクビクおどおどしている。

「特に要求は書いてないし、脅迫状と言うよりは犯行予告めいてるねぇ」

 のんびりした口調でそう言ったのは、最年長で最古参の幹部ジャバウォック。くたびれた中年のような雰囲気の男だが、その眠そうな瞼の下では優れた観察眼が静かに輝いている。

 海亀、白兎、ジャバウォックの発言を黙って聞いていたグリフォンは、正直この脅迫状に関してそれほど興味がなかったので、最後に申し訳程度に発言をした。

「悪戯か嫌がらせだろ。それ相応の恨みは買ってんだ。こんなの初めてのことじゃねぇだろうが」

 気の弱い白兎が「で、ですよねー……」とヘラヘラ笑いながら同調する。その誰にでも媚びる姿勢が気に入らず、グリフォンはフンと鼻を鳴らした。

 すると、今まで黙って話を聞いていた上座の女──〈女王〉シャーロット・レヴェリッジが白い手袋に覆われた手を海亀に差し出した。

 彼らの女王様は、細い体に喪服のようなドレスを身につけている。色の薄い金髪はきっちりとまとめられ、頭から黒いヴェールを被っているので、その表情は分からない。

『カードをお寄越し』

 その声は機械を通して発せられた、平坦な声だ。

 病気で声が出なくなったとか、多方から恨みを買っているから顔も声も隠しているとか、周囲は好きっ勝手に憶測をしているが、誰も真実は知らない。ただ、病気という説はあながち間違っていないのではないかと、グリフォンは密かに思っている。彼の記憶が確かなら、シャーロットは七十歳を越えているのだ。病気の一つや二つを患っていてもおかしくはない。

『たしかに、いつもなら騒ぎ立てるようなことではないわ……この印さえ、無ければね』

 シャーロットの手が、封筒に垂らされた赤い封蝋に刻まれた印をなぞる。

『この紋章は兄……クラーク・レヴェリッジが使っていたものよ。兄亡き後、兄の私物はほとんど処分したから、この紋章の付いた物が残っている筈はない』

 先代当主クラーク=レヴェリッジ。その名前は、この場にいる全員が知っているが、実際に顔を知っている者は意外と少ない。

 フリークス・パーティの創始者はあまり人前に姿を現さず、屋敷にこもって、部下に指示を出している事の方が多かったからだ。

 ジャバウォックが癖の強い髪をガシガシとかきながら、発言した。

「死者からの手紙って奴ですかい? そいつぁ、気味が悪い」

「趣味の悪い冗談はやめてください、ジャバウォック。これは何者かの嫌がらせです。とりあえず、当日の会場の警備はより厳重に……」

 真面目な海亀がジャバウォックに噛み付くが、これにグリフォンは声を荒げた。

「おい、オレの仕事を増やす気か!?」

 グリフォンの肩書きは会場警備責任者である。警備を厳重にするということは、それだけグリフォンの仕事が増えるということだ。

 流石に不憫に思ったのか、ジャバウォックが「うちの部下も何人かそっちに回すよ」と口を挟む。

「あとは……そうさねぇ、招待客の警備体制も見直した方が良さそうだ。そっちはもうちょい時間をかけて煮詰めましょうや」

「ボ、ボクもそれでいいと思います……」

 ジャバウォックの意見に白兎が同意し、これで話は一応まとまったかに見えた。

 そう、この時点で幹部達は誰もフリークス・パーティを中止しようとは考えていなかったのだ。フリークス・パーティでは莫大な金が動く上に、人の命のやりとりが行われている。

 レヴェリッジ家に恨みを抱いている奴なんて、それこそ星の数だ。たかだか脅迫状一枚でパーティを中止するわけがない。

 そう、思っていたのだが……


『来年からは、フリークス・パーティの縮小を考えた方が良さそうね』


 機械を通して響くクイーンの言葉に、グリフォンは目を剥いた。

「はぁ!? ど、どういうことだよ、女王様!?」

 驚いているのはグリフォンだけじゃない。日和見のジャバウォックですら、眠たげな目を持ち上げて「そいつぁ、また、随分と急な話ですなぁ」と驚きを隠せずにいる。

 だが、女王は落ち着き払った態度で言葉を続けた。

『二年前に兄、クラーク=レヴェリッジが死んだ時から考えていたことよ』

 これにおずおずと発言をしたのは白兎だ。

「……あ、あのぉ、そんなことをしたら、出資者の皆さんが黙っていないのではないでしょうか……?」

『えぇ、そうでしょうね。だから、いますぐにという訳ではないわ。徐々に規模を縮小していき、数年以内にペアバトルの方は廃止する方針です』

「ペアバトルの廃止ぃっ!? おいおい、ペアバトルの興行収入がどれだけのものだと思ってんだ!?」

 グリフォンの叫びにも、女王は動じなかった。

『昨年がおよそ一兆五千億、一昨年は一兆八千八百億……必要なら過去十年分の数字を読み上げてもよろしくてよ』

「分かってるなら、どうして!?」

 グリフォンの叫びに女王は黙して答えない。

 気まずい沈黙が場を支配する中、口を開いたのは海亀だった。

「……私は女王に従います」

 白兎もそれに便乗する。

「じょ、女王様がそう言うなら、ボクもそれでいいかなぁ〜……なんて」

 歯ぎしりをして黙りこくっているグリフォンを、ジャバウォックがちらりと見る。そうして、場を取りなすように、いつもと変わらないのんびりとした声で言った。

「オレは……まぁ、様子見で良いと思いますけどねぇ。とりあえず、今年は通常通りの運行で良いんでしょう?」

『えぇ。それでも、現在の規模で行うフリークス・パーティは今年が最後だと思っていて頂戴』



 * * *



 非常灯の灯りを見上げ、グリフォンは溜息を吐くと、ウミネコに押し付けられた黒飴とやらを口に放り込む。

「うわ、なんだこりゃ、クソ甘ぇ!!」

 顔をしかめつつも、食べ物を粗末にすることも出来ず、グリフォンは苦行でもしているかのような顔で飴をガリガリ噛んだ。


 ──今年のフリークス・パーティはさぁ、ちょっとおかしいよな。一体、裏で何が起こってるの?


 無心に飴を噛んでいると、ウミネコの言葉が蘇る。

(そんなの、オレが聞きてぇんだよ!!)

 先月の会議の後、女王はフリークス・パーティの縮小を宣言し、以降頑なにその意見を変えようとしなかった。

 このままだと女王の言葉通り、フリークス・パーティは縮小、衰退の一途を辿ることになるだろう。

「……ったく、どこの馬鹿だ! あんな手紙を出しやがったのは……くそっ!!」

 舌打ちしつつ、グリフォンは口の中に残った小さい飴の欠片を無理やり飲み込む。ザラザラチクチクする喉に顔をしかめていると、背後から近づいてきた中年男がグリフォンの名を呼んだ。

「おーい、グリフォン」

 どこか眠たげなその声の主はジャバウォックだった。ジャバウォックは運営委員会の中で最も信頼できる相手だ。グリフォンは肩の力を抜いて片手を持ち上げる。

「ジャバのとっつぁん。どうした、こんなところで」

「さっき、そこでウミネコに会ったぜ。あいつがここに来るなんて珍しいじゃないか」

「あぁ、モズの件の後始末を手伝いにな」

 まぁ、ウミネコはグリフォンの横で喋っているだけで、殆ど何もしなかったが。

「そいつは御苦労さん。シアルート製薬との交渉は海亀がやっといてくれるってよ」

 モズの所属するシアルート製薬側は、本来なら生きたままでモズを引き渡してほしかったらしく、それなりにごねているのだと言う。

 自分達の管理不足を棚に上げてよく言うもんだぜ、とグリフォンがぼやくと、ジャバウォックは煙草の箱を差し出した。いつもならありがたくいただくところだが、今は口の中が黒飴の味で染まっていて、気分が悪くなりそうだったので辞退しておく。

「しかし、パーティ前から散々だねぇ。こんな騒動が起きるなんて」

「……なぁ、ジャバのとっつぁん。あの気味の悪ぃ手紙と今回のモズの暴走は関係があると思うか?」

 それはグリフォンだけが考えていたことではないだろう。

 怪文書が送りつけられた一ヶ月後に起きたモズの暴走。何かしら関連付けて考えたくなるのは当然だ。

「……どうだろうねぇ。あの手紙を出したのがモズだっていうのは、ちょいと考えが飛躍しすぎな気がするが……まぁ、何にせよ、肝心のモズが死んでしまった以上、真実は闇の中だ」

 遠回しな表現で意見をぼかすのはジャバウォックの特徴だが、言っていることは確かに正しい。

 それでも、グリフォンは自分の考えを誰かに聞いて欲しかった。

「ジャバのとっつぁん。オレはよぉ、あの怪文書を出したのは運営委員会の誰かじゃないかと思っている」

「『誰か』と言う割に犯人を確信しているみたいに聞こえるねぇ。それで、誰を疑ってるんだい?」

「……海亀だ」

 フリークス・パーティを縮小するという女王の意見に賛成した唯一の人物が海亀だ。

 今年幹部になったばかりのあの男は、運営委員会の人間の癖に、妙にフリークス・パーティの在り方を良く思っていないような節がある。

 確かに殺人ショーを金儲けに利用しているのだから、気分が良くないと思うのも分からなくはないが、それならそもそも、何で運営委員会にいる?

 あいつはもしかして、フリークス・パーティを潰すために運営委員会に潜入した、工作員なんじゃないのか?

 グリフォンが珍しく饒舌に自分の考えを口にすると、ジャバウォックは「うーん」と曖昧な相槌を打ち、煙草を一本咥えた。

「それはまた、随分と飛躍したもんだねぇ」

「おまけにあの仮面。なんだよあれ。薄気味悪ぃ」

 海亀はいつも顔を白い仮面で覆っている。本人は怪我の痕を隠すためと言っているが、どこまでが本当なのやら。もしかしたら前科持ちで、見られてはまずいツラなんじゃないのか?

 そんなグリフォンの不満を一服しながら聞いていたジャバウォックは、彼にしては珍しく苦笑した。

「うん、お前さんがフリークス・パーティを好きで、これからも続けたいと思っているってのはよーく分かったよ。だから、フリークス・パーティを快く思っていない海亀が嫌いなんだろう。でも、同じ職場の仲間なんだから、もーちょい信用してあげなさいな」

「……オレぁ、別に」

「フリークス・パーティを続けたいと思ってるのは、お前さんだけじゃないよ。それに、フリークス・パーティが無くなることで、行き場が無くなる連中がいることを女王は理解しているさ」

「…………」

 化け物達の殺し合いによって成り立つフリークス・パーティ。それが無くなってしまえばフリークス・パーティのために造られた化け物達は存在意義を失ってしまう。

 最悪、廃棄されることもあるかもしれない。

 他にもこのフリークス・パーティに参加するために犯罪行為を我慢して、普通の人間に混じって暮らしている奴もいるのだ。

 グリフォンも昔はそうだった。暴力の中でしか生きられない生き物だった彼にとって、フリークス・パーティは唯一の居所だったのだ。

 年を取って暴力を振るいたいという衝動が落ち着き、今は引退して運営側に回ったわけだが、それでもグリフォンはフリークス・パーティという宴を愛している。

 無くなってほしくないのだ。

「とっつぁん、今夜は飲もうぜ。飲まなきゃ、やってられねぇ」

「あぁ、ウミネコにも声をかければ良かったねぇ。丁度入れ違いで帰っちまったところだが」

「これでハヤブサがいれば、フリークス・パーティ同窓会だな」

「おや、随分と懐かしい名前が出てきたねぇ」

 グリフォン、ウミネコ、ジャバウォック、そしてハヤブサ。

 十年以上前、四人でよくつるんでいたあの頃。

 傍若無人でやりたい放題のハヤブサと、火に油どころか、爆竹を放り込むウミネコ、そんな二人に振り回されるグリフォンと、それを窘めないで見ているだけのジャバウォック。

 あれはあれで確かに楽しい日々で、やはり自分はフリークス・パーティを失いたくないのだと、グリフォンは改めて思うのだった。


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