【16ー10】稀代の悪女達
「夏祭りスペシャル! 大玉花火ぃっ! どっせいっ!!」
ハヤブサはそのたくましい肩に足を故障したヤマネを担ぎ、クリングベイル城内を走り回っていた。異形と遭遇した彼は躊躇うことなくその拳を振るう。
また一体、襲いかかる異形を殴り飛ばし、ハヤブサは城内の扉を一つ一つ開けて回った。
だが、そこに〈女王〉とアリスの姿は無い。それどころか、鍵のかかった部屋を開けてみれば、異形がわらわらと飛び出してくる始末である。
襲いくる異形を片っ端から撃退し、最上階をぐるりと回ったところで、ハヤブサはむぅっと唇をへの字に曲げた。
「どうやら、最上階にはおらんようだのぅ」
「……もしかしたら、ヤマネ達の知らない隠し部屋があるかもしれないのです」
隠し部屋に逃げ込まれてしまったら、〈女王〉を見つけだすのは非常に困難である。
ヤマネは真っ青な顔で俯いていたが、ハヤブサは特に気にした様子もなく、近くの壁を拳でゴツゴツと叩いた。
「ふぅむ……よし、ちょいとその辺の壁を壊して回るかのぅ」
「ハヤブサ様。以前、あなた様とウミネコ様が、この城を崩壊寸前に追いやったことをお忘れですか」
「…………」
ハヤブサは太い眉をヒクヒクと震わせ、ヤマネを乗せた左肩と反対の方に視線を向ける。
ヤマネはハヤブサの耳をキュッとつまみ、じとりとした目を向けた。
「もしお城が崩れたら、お嬢様とアリス様が危険なのです。多少の破壊行為には目を瞑りますが、どうかどうかどうかどうか、行き過ぎた破壊行為はご自重くださいませなのです」
「……相変わらずお前さんは〈女王〉が絡むと、おっかないのぅ」
十年前、城を崩壊寸前にした時も、ハヤブサは今と姿の変わらないこのメイドに、それはそれは叱られたのだ。
その時のことを思い出し「むぅぅ」とハヤブサが唸っていると、前方から女の声が響いた。
「ダァーーーーーーーリィーーーーーーーン!」
死臭漂うこの場にそぐわぬ甘ったるい声で叫びながら駆け寄ってくるのは、露出の高いワンピースに白衣を羽織った金髪の美女、ヘイヤである。
彼女はハヤブサの姿を視界に映すと、フリークスもかくやという素早さで駆け寄り、ハヤブサの分厚い胸板に顔を埋めた。
「あぁん、会いたかったわぁ。この衰えることを知らない、たくましい大胸筋……ハァハァ、ぐふふ……やっぱりダーリンが一番す・て・き」
「おぉう、久しいのぅ、ヘイヤ。無事で何よりじゃー」
ヘイヤに身体中を撫で回されても、ハヤブサは嫌な顔一つせず、豪快に笑う。
そうしてヘイヤが満足するまで体を触らせてから、ハヤブサは状況を説明した。
「とりあえず、観客は城の外に避難させたんじゃがな、白鶴……ジャバウォックが裏切ったらしい。〈女王〉とクラークのクローンが、連れて行かれたらしいんじゃが……心当たりはあるかいのぅ?」
「ジャバウォック……あの眠そうな中年親父ね。そう、なかなか悪くないマッスルの持ち主だったけど、敵だったなんて残念だわん……」
ヘイヤは肉厚な唇を尖らせ、人差し指をピトリと当てると、ふぅっと憂げな溜息を吐く。
そうして彼女はちらりと意味深にヤマネを見て、目を細めた。
「あんたはクラークが作った一番目の娘だったわね。名前は……確か、アインス」
「……ヘイヤ様は、クラーク様とどういうご関係だったのですか?」
ヘイヤは〈クラークの後継者〉を疎み、その野望を阻止したいと考えている。そのために、極秘でハヤブサと手を組んで、味方を集めていた。
廃棄寸前だったミミズクやドロシーを保護し、クラークの後継者の策略によって殺されかけたライチョウとスノーホワイトを救助して。
……だが、〈クラークの後継者〉と敵対しているならば、最初から〈女王〉に協力していれば良かったはずだ。
「アタシはクラークの元弟子よ。まぁ、筋肉の解釈違いで、師弟関係はすぐに解消したけれどねぇん。今はクラークの後継者……ツヴァイの野望を阻止したいって思ってる。それだけじゃダメかしらん?」
「ツヴァイと敵対しているのなら、最初からシャーロットお嬢様……〈女王〉と手を組めば良かったのです。それなのに、どうしてクラーク様の弟子であることを隠していたのですか?」
ヤマネの問いに、ヘイヤはにっこり笑い、ドイツ語で言った。
『セックスの最中に妹の名前を口走る男って、最低だと思わなぁい?』
「………………」
「なんじゃ? なんて言ったんじゃ?」
「いやん、ダーリンにはナ・イ・ショ。女の子だけの秘密の話よん」
ヘイヤはハヤブサにウィンクをすると、あんぐりと口を開けているヤマネに、それはそれは美しくも壮絶な笑みを向けた。
「だからアタシは、クラークも、その妹の女王様も嫌いだし、協力する気が起きなかったのよ……お・わ・か・り?」
ヘイヤの美しい笑みには女の情念が渦巻いている。
機械人形の身ながら、ヤマネが真っ青になってカタカタ震えていると、ヘイヤは余裕たっぷりの仕草でヤマネの額をツンとつついた。
「まぁ、流石に今は事態が事態だから、あんたの大事なお嬢様も、ちゃーんと助けてあげる。過去の男のことなんて、ダーリンの雄大なマッスルの前では、どーだっていいことだわ」
* * *
「つまりねー、おねえちゃんにも分かるように言うとー、クラークさんは鬼ヤバなシスコンのパリピでー、自分のクローンまで作っちゃって、キモ! って感じ」
優花は助けを求めるような顔でグリフォンを見る。
グリフォンは頭痛を堪えるように、額を押さえていた。どうやったらこの状況を説明できるのか、彼なりに懸命に頭を巡らせているのだろう。
そんな中、一番血をダラダラと流しているウミネコが、いつもと変わらない能天気な口調で言った。
「とりあえず、それぞれの事情はさておき、誰が敵なのかっつーのと、何を最優先するかをハッキリさせとこうぜ。あんま長話してる状況じゃないだろ」
「お前にしちゃまともな意見だな、ウミネコ」
グリフォンは感心したように呟き、
「今回の騒動は、全て〈クラークの後継者〉が引き起こしたモンだ。この〈クラークの後継者〉一味は、現時点でオレ達が把握してるのは、グロリアススターカンパニーの月島、笛吹、海亀、ジャバウォック」
「それとさぁ、オレが初戦で戦ったトキってチビのパートナーいたじゃん? 銀貨って女の子。そいつも一味な。ちなみに本名はツヴァイ」
ウミネコが挙げた「ツヴァイ」という名前に、この場にいる数人が反応した。
優花は知らない名前だが、きっと重要人物なのだろう。
ウミネコの初戦を観戦した優花は、銀貨という少女の容姿は覚えている。短く切り揃えたプラチナブロンドに青い瞳の小柄な少女だ。
そんな少女が、どうして〈クラークの後継者〉一味に与しているのか。優花にはまるで想像がつかない。ただ、一味の名前を聞いた優花は、一つだけ感じたことがある。
(……〈クラークの後継者〉達って、統率が取れてない感じ。みんなそれぞれの目的のために、一時的に協力してるだけ、みたいな……)
そんな〈クラークの後継者〉をまとめている人物とは、一体どのような人物なのだろう。
ふと思い浮かぶのは、決勝戦直後に響いた、あの放送。
『私は〈十二番目の娘〉……安全な場所で惨劇を眺め、誰かの死を笑ったあなた方に、ガラス越しでは味わえない、本物の恐怖をプレゼントして差し上げましょう』
(あの声は〈十二番目の娘〉って言ってたわ……もしかして……)
幼少期に読んでもらった童話集の物語の一つが、優花の脳裏に浮かぶ。
こんなのはただの思いつきだ。何の確証も得られない以上、この場で口にするべきではない。
優花が口を噤み黙り込んでいると、グリフォンが三本指を立てて言った。
「まずやるべきことは、大まかに三つだ。城内に残っている異形の掃討と、生き残りや怪我人の救助。ジャバウォックの旦那に連れていかれた〈女王〉とアリスの保護、地下に落ちたクロウとイーグルの救助」
グリフォンが提示した三点は、挙げた順番に優先順位が高いと考えて良いだろう。
彼は優花、美花、白兎、サンヴェリーナ、グレーテル、ミミズクを順番に見て、指示を出す。
「非戦闘要員は、避難する者の誘導を頼みたい。白兎、お前が指揮を取れ。ミミズクは念のため、避難する奴らの護衛を頼む」
「あぁぁぁぁ、良かったぁぁぁぁぁ、ボク、ちゃんと非戦闘要員にカウントされてたぁぁぁ!!」
白兎が胸の前で両手を握りしめ、歓喜の声を上げる。
グリフォンは「やかましい」と白兎を一喝し、言葉を続けた。
「それ以外の戦闘ができるやつは、城内を散策して〈女王〉とアリスを探しつつ、残った異形の掃討、逃げ遅れた人間の保護。これは、ライチョウ、スノーホワイト、オウル、ドロシー、後はパウダールームに残ってた騎士連中で元気な奴らに頼むつもりだ」
間違いなく、これが一番人手が必要な部分である。
……だが、そうなると地下に行くのは?
優花の疑問に答えるように、グリフォンが宣言する。
「最後に地下、ここは何があるか分からねぇから、オレとウミネコで行く。以上」
明らかに他の場所に比べて人員が少ないのは、優先順位が低いと見なされているからだろう。
優先順位が低い……即ち、クロウとイーグルが生きている可能性が低いと、グリフォンは判断したのだ。
咄嗟に優花とドロシーが声をあげた。
「私も地下に行きます!」
「アタシもクロウを助けに行くっ!」
優花とドロシーの言葉に、グリフォンが困ったように黙り込む。
若い娘に詰め寄られた彼は、助けを求めるようにウミネコを見たが、ウミネコはニヤニヤ笑ってグリフォンを見るだけだった。楽しんでいる。
グリフォンが「あー、そのだな……」と口ごもっていると、意外なところから助け舟が入った。オウルである。
「その提案は賛成しかねる。サンドリヨンは非戦闘要員だ。地下に行ってもできることは殆ど無い」
オウルの言葉に、ドロシーは「でかした」とばかりに目を輝かせた。
「そうよそうよ! サンドリヨンなんて足手まといよ! もっと言ってやんなさい、オウル!」
「同様に、ドロシーの地下捜索も推奨しかねる。ドロシーの優れた聴覚と身軽さは、城内の救助活動において非常に有効。よって、サンドリヨン、ドロシーの地下捜索は不適当」
「そこはアタシの味方をしなさいよ!?」
ドロシーが怒鳴るが、オウルは淡々と同じ説明を繰り返すだけで、引く様子は無い。
ドロシーは猫耳をピンと立てて、威嚇するようにフシャァと喉を鳴らした。
このやり取りに、優花はふと思いつく。耳が良くて身軽な人物なら、カーレンも該当するはずだ。
優花は小声でグリフォンに訊ねた。
「あの、グリフォンさん……カーレンは……」
「増援が来るなり『疲れた、寝る』って言って、その場にぶっ倒れて寝ちまいやがった」
先天性フリークスの中でも短期戦が得意なタイプは、体力が切れると電池が切れたかのように動かなくなる者が多いらしい。
カーレンは典型的な短期戦タイプだ。瞬間的に高い火力を発揮するが、長期戦になるとスタミナ切れになる。
「そういう訳だから、耳の良いドロシーは城内の救助活動。これは絶対だ」
グリフォンが断言すれば、ドロシーは悔しげに唇をへの字に曲げて、なおも食い下がろうとする。
「……でも、でも……サンドリヨンを連れて行く理由はないでしょ」
「まぁ、そうだな。だから、サンドリヨンの嬢ちゃんは救助活動に……」
優花はグリフォンの言葉を無視して、スタスタと歩き、美花の前に立った。
そして有無を言わさず、美花のドレスのスカートをたくし上げる。
数秒の沈黙。
「きゃあああああああっ!? お姉ちゃんのエッチ〜〜〜〜!!」
「こらっ! じっとしてなさいっ!」
「やぁ〜〜〜ん! スカートに頭突っ込んで喋らないでぇ〜〜〜!!」
優花の突然の奇行に、一同は絶句した。
一番余裕のあるウミネコだけが「わーお、すっげぇ光景」と呟き、口笛を吹く。
優花は周囲の視線もなんのその、美花のスカートの内側に縫い付けたポケットから、ペン型の注射器を取り出すと、呆気にとられている一同にそれを掲げてみせた。
「kf-09nのワクチンよ。これを使えば、異形になった人を元に戻せるわ」
「なんでそんなモンを、嬢ちゃんが持ってんだ!?」
「イーグルに貰ったの。異形化した人を元に戻せる薬は、今この場では、これ一本だけよね?」
優花はペン型の注射器を胸の前でギュッと握りしめ、一同を見回す。
決勝戦の舞台で、イーグルが地下に落ちる瞬間を見ていた者が、この場にどれだけいるだろう。
「……イーグルは地下に落とされる直前、海亀に薬を打たれてるわ。十中八九、kf-09nでしょうね」
「なにぃっ!?」
グリフォンが目を剥き、白兎が「ひぃぃぃ」と悲鳴をあげる。
「最強のフリークスのイーグルさんが異形化したら、もう誰にも止められないじゃないですかぁぁぁ!!」
そう、イーグルの異形化は想像しうる限り、最悪の展開だ。
圧倒的な強さを持つイーグルが異形化してしまえば、間違いなく被害は甚大なものとなる。
グリフォンが深々と溜息を吐き、右手を優花に差し出した。
「……嬢ちゃん、悪いこたぁ言わねぇ。その薬をオレに渡しな」
「私も連れて行ってくれるなら」
「……勘弁してくれ」
人の良いグリフォンは、純粋に優花の身を案じてくれているのだろう。
そのことに少しだけ良心が痛むが、優花は一歩も引かずにグリフォンを見る。
「私も、地下に連れて行ってください」
グリフォンがグッと唇をへの字に曲げて黙り込むと、ウミネコが軽い口調で言った。
「いーんじゃね?」
「おいっ、ウミネコっ!」
グリフォンが怒鳴ると、ウミネコは足の怪我を上着で縛って止血しながら言う。
「だってさぁ、サンドリヨンちゃんは別に運営委員会の人間でもなけりゃ、グッさんの部下でもないし。好きに行動すりゃいいじゃん」
ウミネコは更に右手を握って開いてを繰り返し、怪我の程度を確かめると、どんぐり眼をくるりと回して優花を見た。
「ただ、オレもグッさんも、まぁまぁ手負いだから、守ってあげられる保証はないぜ。それでもいいんなら、自己責任ってことで」
「オレの負傷の何割かは、お前のせいだぞ、ウミネコ」
グリフォンはじとりとした目でウミネコを睨んだが、それ以上優花を止めようとはしなかった。
優花はグリフォンとウミネコに、深々と頭を下げる。
「……ありがとうございます」
礼を言いながら、優花は自分ができることを必死で考えた。
この場で、鷹羽コーポレーション陣営の情報を持っているのは自分だけなのだ。
イーグルがいない今、自分ができる範囲で動かなくては。
(そのために、できることは……)
優花は白兎に目を向けた。
ところで優花は、女性にしてはまぁまぁ目つきが鋭い方である。そんな優花にギラギラした目を向けられ、白兎は「ひぃぃぃっ」と震えあがった。
「ぼぼぼぼボク、何かしましたかぁっ!?」
「なんで怯えるのよ。確認したいことがあるんだけど……観戦客は、お城の外に逃げたのよね?」
「はいっ! 逃げましたっ! はいっ!」
「……船はあるの?」
白兎は「あっ」と今更そのことに気づいたような顔をした。
やはり、誰も気づいていなかったのだ。観戦客はクリングベイル城の外に逃げたが、城外にも異形がいる可能性はゼロじゃない。
そして何より、ここは小さい島なのだ。本当に安全な場所に逃げるなら、船に乗って本州まで渡らなくてはいけない。
白兎は真っ青になって指を一つ、二つと折り始める。
「ふふふ船はですね、レヴェリッジ家所有の物は二艘しかありません。それ以外にも、えーっと、裕福なお客様が多いので、個人で所有している方もいるかもしれませんが……数は多くないと思います」
逃げた観戦客の中には怪我人もいるし、裕福ではない「姫」達もいる。圧倒的に船が足りないのだ。
このままだと確実に、船の奪い合いになるだろう。
グリフォンもそこまでは想定していなかったらしく「やっべぇ」と呻いて、額に手を当てた。
優花はちらりと唇を舐めて、美花を見る。
「あんた、周防さんの顔は分かるわね。イーグルの秘書の」
「分かるよー。でも、私、あんまり好かれてないからー、近づきたくないんだけどー」
「周防さんもこの島にいる筈よ。大至急探して、ワクチンの確保と、島から脱出するための船を用意してもらって」
イーグル不在の今、鷹羽コーポレーションの指揮権は彼にあると見ていい。
だが、優花の提案に美花は難しい顔をした。
「ワクチンはどうか分からないけどー、船は絶対無理だよー。イーグル、自分の船を持ってたけど、そこまで大きくはないよ? 逃げる人、全員を乗せるのは無理〜」
「イーグルは、決勝戦が終わった後、〈女王〉達を拘束して、フリークス・パーティを乗っ取る計画を立ててた。そのために、協力者である深海財閥会長の部下が船で島を包囲してる……その船に避難する人を乗せてもらうのよ」
優花の発言に、グリフォンと白兎が目を剥いた。
運営委員会側の彼らは、イーグルがフリークス・パーティを乗っ取ろうとしていたなんて、夢にも思わなかったのだろう。
グリフォンが困惑顔で呻いた。
「深海財閥は『修羅』のスポンサー……そうか、イーグルは『修羅』と繋がってたのか」
その呟きに、白兎が泣きそうな顔をする。
「『修羅』のスポンサーってことは、フリークス・パーティ関係者の敵じゃないですかぁぁぁ! 無理無理無理です! 助けてもらえる筈がありません!! 絶対見捨てられるぅぅぅぅぅ!!」
フリークス・パーティの運営委員会のみならず、観戦客やスポンサーもまた『修羅』にとっては、裏切り者だ。助ける義理も義務もない。
だから、優花は一か八かの勝負に出ることにした。
そして、この作戦の勝率を上げるために一番適任なのが、他でもない……美花なのだ。
優花は美花の肩をギュッと掴んだ。
「周防さんから深海会長に、救援要請を出してもらって」
「え〜。ダメって言われたら〜?」
「秘策があるの。耳を貸して」
優花は美花の耳元で、ごにょごにょと秘策を説明した。
美花はキョトンと目を丸くして優花を見つめると、目と口をにんまりと笑みの形にする。
「おねーちゃん、悪い女〜」
「えぇ、そうよ、稀代の悪女と呼んでちょうだい」
ちょっぴり自棄になって開き直る優花に、美花がニヤニヤ笑って言った。
「うん、いいよ。片棒担いであげるぅ。稀代の悪女は美人双子姉妹だもんね〜」