【幕間3】ある男の後悔
その女はけっして美しい女ではなかった。顔も体も貧相で、肌も髪も艶が無くくすんでいる。痩せすぎて頬のこけた顔には幸の薄い彼女の生き様がそのまま現れているかのようだった。
それでも、優しい女だった。元夫から暴力を受けて、それでも夫に尽くして、尽くして、最後は売られた。
そうして巡り巡って自分に買われることになったその女に、男は心底同情した。
──よりにもよって、オレみたいな化け物に売られるなんて、本当に哀れな女だな
そう言ったら、女は笑った。
「いいんです、あの人の役に立てて幸せですから」
男の姫になったその女は、フリークス・パーティの間はサンドリヨンという名前を与えられた。本名は最後まで聞けずじまいだった。そのことを男は酷く後悔している。
サンドリヨンは奇形の男を見ても怯えたりしなかった。
ある日、男は訊ねた。オレが怖くないのか、と。
「もっと怖い物をたくさん知っていますから」
女はそう言って静かに笑った。今まで、どんな目に合ってきたのかは訊けなかった。
いつの頃からか、穏やかで寂しげなこの女に男は惹かれていった。
この女が自分に親愛以上の感情を向けることはない。女は自分を売った夫を今でも愛している。
それでも男はこの女を愛していた。
この大会でまとまった金が手に入ったら、それを全てこの女にくれてやるつもりだった。
きっと女は男の元を去るだろう。それでも良かった。
奇形の自分では彼女を幸せにはしてやれない。だから、どこか遠い所で静かに幸せに暮らして欲しかった。
そう願っていた、のに……
* * *
黒い槍がサンドリヨンの胸を貫いていた。
ゾリュ、と肉を抉る音と共に槍が離れ、血が吹き出し、肉片が飛び散る。サンドリヨンの体が血の海の中に崩れ落ちる。
ワッと歓声が沸き上がる中、サンドリヨンを殺した男の声が聞こえた。
「楽に死ねて良かったな」
そう言った男は口の端を歪めて笑っていた。
サンドリヨンの死を、この男は嘲笑ったのだ!
許さない……こいつだけは、こいつだけは絶対に許さない。殺すだけではまだ足りない。
自分と同じ苦しみを味わわせてから殺してやる!
絶対に絶対に絶対に殺してやる!
──死肉漁りの凶鳥クロウ!!




