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フリークス・パーティ  作者: 依空 まつり
第13章「ハートの女王の昔話」
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【13ー6】パリピ説

『お兄様、私、鳥の図鑑が欲しいの。鳥がたくさん、たくさん載っている物がいいわ』

『シャーロットは鳥が好きなんだね』

『えぇ、私、鳥が好きなの』

 ケンゴが鳥の名前を教えてくれたから、というのも理由の一つだ。

 だが、きっとケンゴが絡まなくてもシャーロットは鳥を好きになっていただろう。

 体が弱く、まともに外出もできないシャーロットにとって、自由に空を飛べる鳥達は自由の象徴だ。

『鳥になって、空を飛べたら素敵だわ』

 思わず溢れた呟きを、兄は幼い夢だと馬鹿にしたりはしない。

『それは素敵だね』

 彼はどこまでも穏やかに笑って、シャーロットを愛しげな目で見つめていた。



 * * *



 移植手術が決まった日から、シャーロットは大きな病院に入院することになった。

 メイドのリーゼロッテが常につきっきりで世話を焼いてくれたので、不自由はない。強いて言うなら、本をあまりたくさん持ち込めないのが不満というぐらいだろうか。

 それでも、忠義者のリーゼロッテはせっせと家と病院を往復して、シャーロットが読みたがっている本を運んでくれた。

「いよいよ、明日が手術ですね」

 リーゼロッテは家から運び込んだ本を「よいしょっ」とサイドテーブルに積み上げて、額の汗を拭う。積み上げた本のタイトルを眺めるリーゼロッテは、懐かしいものを見るように優しい目をしていた。

 今回リーゼロッテが持ちこんだ本は、童話や鳥の図鑑など……シャーロットとケンゴの思い出の品だ。勿論、ケンゴから貰ったオルゴールも枕元に飾っている。

「なんだか懐かしい本ばかりですね」

「……そうね」

 手術前日に思い出の品ばかり手元に並べたくなるのは、やはり死に対する不安がつきまとうが故にだ。

 移植手術の成功例は決して多くはないことを、シャーロットは知っている。

 手術の執刀は兄が行うらしい。本来、身内は手術に参加しないらしいのだが、今回は特例なのだという。

 兄が手術をしてくれるのなら、きっと大丈夫──昔の自分なら素直にそう思えていたのに、母の寝室で母と兄がしていることを見てしまった後では、嫌なしこりがあった。

(あの日のことは、きっと夢よ。そうよ、悪い夢だわ)

 今は手術のことを、そして手術が終わってからのことを考えよう。

 シャーロットは懐かしい鳥の図鑑を膝の上に広げる。

(手術が終わったら、ケンゴに会いに行くのよ。ケンゴの故郷の日本を見るの)



 * * *



 手術台の上で、シャーロットは断続的な夢を見ていた。

 繰り返し、繰り返し、繰り返し。

 夢の中でシャーロットは汽車に乗り、船に乗り、ケンゴのいる日本に行く。

 そして、ケンゴの育った場所を見て、日本の鳥を見て、ヤマネという可愛らしいネズミを探して……


 ──お前のせいよ!


 幸せな夢は必ず、恐ろしい女の金切り声で終わる。


 ──お前さえいなければ!


 ──私からブルーノを取り上げないで!


 ──お前なんか死んでしまえばいい!!


 ヒステリックにシャーロットを呪うのは、何故かいつも母の声だ。

 シャーロットはその声から逃げるように走り続ける。

「助けて、助けて、お兄様、ケンゴ、リーゼロッテ!! だれか、だれか……」

 逃げる彼女の前に立ちふさがるのは一枚の扉。その扉をシャーロットは知っている。これは母の部屋へと繋がる扉だ。

 そして、僅かに開いた扉の隙間から見える光景は……

(いや! いや! いやぁ!)

 シャーロットは目を閉じ、耳を塞ぎ、その場にしゃがみこむ。

 そしてそこで、いつも夢は終わる……はずだった。


「おはよう、シャーロット」


 穏やかな兄の声に、シャーロットはゆっくりと目を開く。

 まだ視界はぼやけていて、自分の周囲の状況がよく分からない……が、自分を見下ろす人影が兄であることだけは分かった。

(……お兄様)

 声を出したつもりだったが、シャーロットの唇は微かに震えただけで、声を発するには至らない。

 次第に兄の輪郭が明確になってくる。兄は目尻を下げて嬉しそうに笑っていた。

 だが、気のせいだろうか、兄がいつもより少しだけ草臥れているような気がする。まるで、一気に歳をとったみたいに。

「手術は無事に成功したよ、シャーロット。もうしばし、お休み」

 兄の手がシャーロットの瞼をそっと覆う。

 再び訪れる眠気に、シャーロットは必死であらがった。これ以上、あの悪夢を見たくなかったのだ。

 兄の手がそっと離れる。

 兄は「また様子を見に来るよ」と言って静かにベッドを離れていった。

 少しして、パタンと扉が閉じる音。どうやら、兄は部屋を出て行ったらしい。

「…………う、ぅ」

 シャーロットはゆっくりと寝返りを打ち、上半身を起こす。体はだるく、指の先に軽い痺れがあったが、なんとか動いた。

 そこでふと違和感を覚える。自分の両腕に包帯が巻き付けられているのだ。肘のあたりから指の先まできっちりと。腕だけじゃない、足や体の何箇所かもそうだ。臓器の移植手術なのに何故?

 特に違和感が激しいのが背中の辺りだ。なんだかやけにもぞもぞする。まるで、背中と服の間に何かを挟んだかのように。

 上半身を起こしてベッドに腰かけるような姿勢をとったシャーロットは、己の体だけでなく、周囲の風景にも違和感を覚えた。

 窓の無い白い壁の部屋。ベッドはシャーロットが寝ている物だけで、あとはベッドサイドにいくつかの機器や点滴が置かれているぐらいだ。普通の病室とは明らかに雰囲気が違う。

 ふと、シャーロットは壁に一枚の壁掛けカレンダーがかけられていることに気がついた。カレンダーの日付は九月で、十一日までが×で潰されている。

(なんなの、これは。まるで、今日が九月十二日みたいじゃない)

 シャーロットの手術日は四月二十五日だったはずだ。

 このカレンダーが正しい日付を示しているとしたら、手術日から五ヶ月近くが経過していることになる。

 まじまじとカレンダーを眺めたシャーロットは、そこで恐ろしいことに気づき、目を見開いた。

 カレンダーの年度が、違う。

 もし、このカレンダーが正しいのなら、経過したのは五ヶ月じゃない。


 ……五年と五ヶ月だ。


「……う、そ」

 自分はそんなにも長い時間、眠っていたというのか?

 まさかとは思うが、思い返してみれば確かに、兄の顔は少しばかり歳を重ねていたような気がする。

「お兄様……、お兄様……っ」

 どういうことなのか話を聞かねばとベッドを下りたシャーロットは、しかし足に力が入らず床に崩れ落ちる。

 足にも酷い違和感がある。まるで、骨を一度取り出して微妙に形の違う物を入れ替えたみたいな……。

 なんとか床を這って身を起こそうとすれば、今度は指にも全く同じ違和感を覚える。

 改めて見れば、包帯の上からでも分かるほど、指の骨格が変形していた。

 指の関節をピンと伸ばすのがやけに難しい。どういうことなのかと、シャーロットは左手の包帯を少しばかり捲ってみる。

 包帯の下には、華奢で小さい淑女の手があるはずだった……が、包帯の下の皮膚は気のせいか薄い茶色に見える。

「……なに、これ?」

 皮膚病の一種かと背すじを冷やしながら、シャーロットは震える手で包帯を更にめくる。

 そして、絶句した。

 彼女の手は歪に変形し、薄茶のこまかな鱗と皮膜で覆われていた。先端の爪はやけに硬く、色も人間のそれと違う。

 言うなればそれは、鳥の足だ。


「い、やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 思わず喉も裂けんばかりに悲鳴をあげれば、すぐに兄が血相を変えて駆けつけてきた。

「あぁ、シャーロット、シャーロット、大丈夫かい?」

「おに、お兄様、私、私の手が……あぁっ……」

 ガタガタと震え、己の手から目をそらすシャーロットを、兄は優しく抱きしめ、なだめるように背中を撫でた。そのことに心を落ち着かせる間もなく、今度は背中の違和感が強くなる。

 ……シャーロットの背中に、何かがついている。

「怯えないで、シャーロット。お前は誰よりも美しい姿に生まれ変わったんだよ」

「生まれ、変わっ、た? ……移植手術、は?」

 兄は淑女の手を取ってエスコートするかのように、鱗に覆われた手を取る。

 そしてふらつくシャーロットを支えながらゆっくりと隣の部屋に向かい歩き出した。

 隣の部屋は広い研究室のような部屋だった。この部屋にも窓は無いから、もしかしたら地下室なのかもしれない。

 壁際の大きな棚には、鳥類、哺乳類、爬虫類など様々な生き物が、ホルマリン漬けの標本にされて、並べられていた。

 そして、反対の壁際には大きな姿見が一つ。

 鏡の中のシャーロットは、気のせいか顔が少しばかり若返っているように見えた。もし、本当に五年の歳月が過ぎているのなら、今のシャーロットは三十二歳だ。

 だが、鏡の中の自分は二十歳ぐらいに見える。五年の歳月で少し老けた兄と並ぶと、その違いは余計に顕著だった。

「ごらん、これが今のお前だよ」

 シャーロットの背後に立った兄が寝巻きの紐を解けば、はらりと上衣が床に落ちる。

 露わになった裸の上半身は肩周りから腕にかけて白い羽に覆われていた。最初はそういう肌着なのかと思ったが、よく見ると違う──この羽は本当に皮膚から生えているのだ。

 動揺した瞬間、背中で何かが動いた。

 兄がシャーロットの肩を掴んで横を向かせると、背中のそれはシャーロットの目にもよく見える。

 肩甲骨から伸びるそれは、白い翼だ。

「鳥の翼の移植には苦労したんだ。そのまま鳥の翼を切って移植するだけでは上手くいかないから、お前の背中に合う専用の物を培養して育てて、それから移植するのに苦労してね。それに合わせて骨格もいじったのだけど、骨を随分削らなくてはいけないから、これにも時間がかかったんだ」

 シャーロットの呼吸に合わせて、その翼は確かに動いていた。肩甲骨を少し動かせば、その拍子に翼が広がり、数枚の羽を散らす。

 その様子を見て、兄はうっとりと微笑んだ。

「あぁ、なんて美しいのだろう。まるで天使のようじゃないか。まだ、空を飛ぶのは難しいけれど、いずれは空も飛べるようにしてあげるから、楽しみにしていておくれ。私の可愛いシャーロット」

 そう言って兄は、シャーロットの白い頬をするりと撫でる。

 兄は五年もの間眠り続けていたシャーロットと言葉を交わせるのが、嬉しくて嬉しくて仕方がないと言わんばかりの様子だった。

「顔もね、お前が一番美しかった頃のものを再現したんだ。あぁ、内臓も、もう心配しなくて良いんだよ。悪いところは殆ど取り替えてしまったからね」

 本来の手術は臓器移植だったはずだ。それが、どうしてこんなことになっているのだろう。

 今、自分の背中には人間にはありえない鳥の翼がある。腕の皮膚も骨格も、そして顔までもが弄られている。

 ……だとしたら体の中は? 自分の体の中はどう弄られてしまったのだろう?

「……私の体の中は、今、どうなって、いるの?」

 震える声でシャーロットが問えば、兄は患者を安心させる医者のように、穏やかで自信に満ちた声で言う。

「安心しなさい。内臓は人間の物でないと、上手く定着させることができなかったからね。どれも、人間の内臓を移植しておいたよ」

 そう言って兄はシャーロットの手を引き、更に奥にある扉に手をかけた。

 シャーロットの心臓が悲鳴をあげる。嫌な予感、この先にある物を見てはいけないと、自分の全身が告げている。

 だが、まだ体を上手く動かせないシャーロットは、兄に誘われるまま、扉の先にある物を見てしまった。

 大きな水槽。その中に眠る女性の裸体は、全身が手術痕だらけだった。

 明らかに内臓や骨のいくつかが無くなっており、体が不自然に凹んでいる。

 その穏やかに眠るような顔を、シャーロットはよく知っていた。

「……おかあ、さ、ま?」

「レヴェリッジ家を破滅させようとした、どうしようもない女だったけどね、私とシャーロットを産んでくれたことだけは感謝しているんだ」

 兄は、ガタガタと震えるシャーロットを背後から抱きしめ、耳元で囁いた。

「なによりも、シャーロットを生かすために、その体の隅から隅まで役に立ってくれた……すぐに死にたがる人だったから、生かしておくのに苦労したよ。父のふりをしてご機嫌をとったりね」

 最後の一言に、シャーロットは確信した。

 母の部屋で見た光景は、夢ではなかったのだと。

 そして……



『あぁ、もちろんだよ、シャーロット。最高のドナーがいるんだ!』



 己の体にあてがわれた臓器が、母のものであることを。



 * * *



 〈女王〉は長話を終えると、ふぅと短く息を吐いて、左手の手袋を外した。

 手袋の下から現れたのは、鳥の足を思わせる鱗と皮膜に覆われた手。

 それは、色こそ違うがクロウのそれと酷似していた。

「……オレと同じじゃねぇか」

 クロウがポツリと呟くと〈女王〉は小さく首を横に振る。

「今から四十年近く前の技術で行われた手術よ。いかに兄の腕が優れていても、お前が受けた手術には遥かに劣るわ」

 その副作用や後遺症がどれほどのものだったかは、想像するだけで恐ろしい。

 最新の技術で作られたクロウとて、副作用や後遺症で地獄のような苦しみを味わったのだ。それが、四十年前の技術でどれだけ対処できたと言うのだろう。

 誰もが沈黙している中、美花がさっと片手をあげた。

「ねーねー、女王様は翼があるの? パッと見、背中スッキリしてるんだけど、折りたたみ式?」

「飛べもしない翼なんて、あっても無意味よ。とっくに切り落としたわ」

 ただ、翼の名残はいくつか残っているらしい。〈女王〉がドレスの襟元をくつろげれば、首元に白い羽がはえているのが見える。それと、いくつかの手術痕も。

 〈女王〉の体は首から下はツギハギだらけだった。きっと、その後も何度も何度も手術を繰り返したのだろう。皮膚は変色して、いびつに引きつっている。首から上が完璧に美しいだけに、その体の醜さは余計に際立っていた。

 美花がプシュンとクシャミをする。

「女王様ぁ、羽しまってー! 私、羽毛アレルギーなの!」

 〈女王〉は無表情でドレスの襟元を戻し、ちらりと美花を見る。

「……同じ体質の男を一人、知っていてよ」

「そうなんだー。結構いるもんだねー」

 美花は鼻をかむと、マイペースに紅茶をゴクゴクと飲む。

 美花はこの中で一番一般人に近いはずだが、今の話を聞いてもさほど動揺していないのが、クロウには意外だった。

(……いや、思えばサンドリヨンもそうだったな)

 クロウの境遇を話して、キメラの体を見せた時も、彼女は落ち着いていた。

「……お前もサンドリヨンも、案外、動じないよな」

「えー? 超びっくりしたよ? 女王様のお兄さんヤバくない? 妹に鳥の羽つけて、天使みたい〜はキモすぎてドン引き。女王様、苦労したんだねー」

 そこかよ、というツッコミを飲み込み、クロウは小さく息を吐く。

 クラーク・レヴェリッジは妹を偏愛しているマッドサイエンティストだったが、その技術が抜きん出ているのもまた事実だ。

 こうなってくると、いつだったかウミネコが言っていた、レヴェリッジ家に関する噂がいよいよ現実味を帯びてくる。

 ウミネコも同じことを考えていたのだろう。ソファの上で足をぶらぶらさせながら、彼は口を開いた。

「錬金術師のレヴェリッジ家は、お得意の錬金術で最強のホムンクルスを作ろうとしている。フリークス・パーティは、そのための実験場だ……って噂を耳にしたことがあるんだけど、それってガチ?」

「概ね正解よ」

 ウミネコの問いに、〈女王〉は顔色一つ変えず即答した。

「私の移植手術に成功したあと、兄の実験はよりエスカレートしていったわ。レヴェリッジ家は錬金術師の末裔。胡散臭い本が地下には山ほどあった。兄はそれを読み漁り、おぞましい実験を繰り返すようになったわ」

 クラークが最初に実験台にしたのは、彼の母。

 クラークは臓器を取り出した後も、母の遺体に様々な手術を施した。最後の方は、面影も残らない肉塊に成り果てたという。

「そして、母の遺体をただの肉塊に変えた兄が次に取り組んだ研究が……老いることなく、永遠に生きる方法を探すこと」

 女王の呟きに、ウミネコが「わぉ、お約束ぅ〜」と口笛を吹いた。

「なんか漫画で百回ぐらい見た気がするなぁ。悪いやつって、なんでどいつもこいつも同じこと考えんだろうね?」

「きっとー、超長生きしたいぐらい、人生楽しいんじゃない?」

 美花の返しに、ウミネコが手を打ってケラケラと笑う。

「マジかー。今の人生が超楽しいから不老不死になりたいのかー。その発想、めっちゃパリピっぽいわー」

「『楽しい時間サイコー! 永遠に続いちゃえー!』みたいな? そっかー、クラークさんはパリピだったんだねー」

 なんでこいつらは、こんなに緊張感が無いんだ。とクロウは頭を抱えた。

 横ではグリフォンが「パリピってなんだ?」と大真面目に呟いて、ウミネコと美花にからかわれている。馬鹿二人のテンションに流されては、いつまでたっても話が進まない。

 クロウは眉間に皺を寄せ、真面目な空気を漂わせて咳払いを一つした。

「ごほん。キメラの技術で不老不死ってのは無理があるぞ。寿命の長い生き物とかけあわせて寿命を延ばす……なんて研究も過去にはあったらしいが、どうしたって無理がある」

 そもそもキメラの寿命は、普通の人間より圧倒的に短いのだ。それは自分も例外ではないことをクロウは知っている。

 現在七十歳過ぎのシャーロット・レヴェリッジが今も生きていることは、それだけで奇跡のようなものなのだ。

 〈女王〉はヤマネに紅茶のお代わりを命じ、アリスをちらりと見る。

 今までずっと神妙な態度でおとなしくしていたアリスは、クロウを見上げて口を開いた。

「クロウは、タマシイの存在を信じる?」

 唐突な質問にクロウは口ごもった。

 信じるか否かで問われたら、答えはノーだ。

 だが、魂は存在しないと証明することの難しさも、理解はできる。

「……そんなの『悪魔の証明』と一緒だ」

「クラークは『魂は存在する』と考えた。人間は肉体という器にタマシイが入って、初めて完成すると」

 アリスの言葉に、クロウはだんだんとクラークの狙いが読めてきた。

 もし、クラークが「魂と器があって人間が完成する」という説を信じ、その上で永遠の命を望んだのだとしたら……

 クロウの想像を肯定するように、アリスは言う。

「クラークは考えたんだ。老いた体を捨てて、新しい体にタマシイを移せばイイ、って」

 クロウはアリスの姿を、改めて上から下まで眺めた。

 金色の髪、青い瞳、整った顔立ち……〈女王〉の身内としか思えないその容姿が意味するものは、ただ一つ。


「……そのために造られた、クラークのクローンがボクだ」


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