【13-3】いいオッサン、まさかの○○疑惑
サンドリヨンとイーグルの密会を見た時、クロウの頭をよぎったのは笛吹の言葉だった。
──君がガラスの靴を差し出しても、彼女はそれを受け取ってはくれないよ。だって、君は彼女の王子様じゃない
そうだ。クロウは王子様になんてなれない。
作り物のフリークス。屍肉を啄ばんで生きながらえてきた、醜い鴉だ。
傘の下で身を寄せ合うサンドリヨンとイーグルの姿が、クロウには絵本のワンシーンのように見えた。
虐げられたお姫様を迎えにきた王子様。さしずめ自分の役どころは、姫を捕らえた悪い魔物といったところか。
『こうして王子様はお姫様を助け出し、悪い魔物をやっつけて、二人仲良く暮らしたのでした。めでたしめでたし』
そんな結末が目に浮かぶようだ。
ハッピーエンドの最後の一ページは微笑み合う王子様とお姫様で、そこに悪い魔物の入り込む余地なんてない。
……それが自分の末路なのだと、思い知らされた気がした。
* * *
クリングベイル城の別館には、運営委員会のスタッフにも当然部屋が用意されている。グリフォンは己にあてがわれた部屋にこもり、慣れない手つきでパソコンを操作していた。
フリークス・パーティの裏で、おぞましい実験を繰り返している「クラークの後継者」が、運営委員会もしくはスポンサー企業のいずれかに存在する。
主犯が運営側にいるのか、スポンサー側にいるのかは分からないが、恐らく一人ということはないだろう。何人か協力者がいるはずだ。
(運営側にいるとしたら、どこだ? ……一番怪しいのは医務室だ。運ばれてくる死体に触れる機会が一番多い……いや、死体を処分する掃除担当だって怪しい)
グリフォンは運営委員会のデータベースを開くと、スポンサー企業一覧の中から製薬会社をピックアップしていく。
製薬をメインに据えている会社はもとより、少なからず取り扱っている会社も含めるとその数は膨大だ。これを全部調べるのは、グリフォン一人では無理がある。
ずらりと並ぶ名前にざっと目を通していると、とある会社の名前が妙に意識に引っかかった。
──シアルート製薬
(……なんで、気になるんだ?)
しばし考え込み、グリフォンはポンと手を打つ。
そうだ、フリークス・パーティが始まる前に起こった、サンドリヨン誘拐事件。
クロウに恨みを持っていた元騎士のモズが、所属していた会社の名前だ。
(あの時は、片付けが大変だったんだよなぁ……ウミネコがモズを真っ二つにしたせいで、辺り一面血みどろだったし)
死体を運営委員会本部に持ち込んだ時は、キメラマニアのハッターに散々小言を言われた。
あのジイさんはキメラを偏愛しているので、無残なキメラの死体を目の当たりにするたびに大袈裟に騒ぐのだ。
(思えば、あの事件でも、サンドリヨンの嬢ちゃんは巻き込まれてるんだよな……なんか巻き込まれやすい体質なのかねぇ)
サンドリヨンを見ていると、なんとなく目が離せなくなるのは、きっと彼女のそういう体質故にだろう。
窓の外を見れば、空はうっすらと明るくなっていた。慣れない調べごとをしていたら、ついつい徹夜してしまった。グリフォンは軽く目を揉み、椅子の上で伸びをする。
若い頃は徹夜で遊び倒したり、修行をすることもザラだったのに、最近はすっかり徹夜がしんどくなってしまった。これが年をとるということか。
フリークス・パーティ決勝戦まであと二日。本来なら準備に奔走している時期だが、現場を外され、ガキのお守りを押し付けられた今はやることもない。
アリスは今日も朝食を食べ終わったら、グリフォンのところにやってくるだろう。ならば、それまでしばし仮眠をとるか。
グリフォンはタバコを一本吸い終えると、アラームをセットしてベッドに潜り込む。慣れない頭脳労働で疲れた頭は、すぐに眠りに落ちていった。
『キツツキ君、私ね、もうすぐ四人目の子が産まれるの』
ゲルダはツギハギだらけの顔に柔らかな笑みを浮かべ、少しばかり膨らんだ腹を撫でた。
腹を撫でる手には、しみや斑点が目立った。前に会った時より皮膚が衰え始めている。だんだんと身体の維持が難しくなってきたのだろう。
それでも、ゲルダは心の底から幸せそうに笑うのだ。
『私、今とても幸せよ。こんな私が結婚して、家族を持てたなんて……こんな幸せなことってない。でも……』
ゲルダは悲しげな顔でフリークス・パーティの会場を見回した。
年々派手になっていく会場は、それだけこの催しが金になることを知らしめている。
選手の数も倍近く増えたが、その殆どがゲルダのような後天性フリークスだ。
フリークス・パーティは緩やかに、だが確実に変化している。
会場を占める歓声は、選手達の肉体のぶつかり合いに対する声援ではなく、残虐なショウを煽るためのものへと変わり、選手の勝敗で動く賭け金以上に企業と企業の間で動く金が増えた。
生物兵器として造られた存在は、フリークス・パーティでそのお披露目をされて、そして売られていく。
その現実に、ゲルダは誰よりも心を痛めていた。
『たまに思うの、私ばっかりこんなに幸せになっていいのかな、って』
あぁ、この女はあんなに苦労して、苦しんで、ようやく幸せを手に入れたのに「めでたし、めでたし」では終わらないのだ。
ゲルダはいつだって、ハッピーエンドのその先を見据えている。
『……夢が、あるの』
ゲルダはどこか遠くを見ていた。
そして……
トゥルルルルル、トゥルルルルル……
「ん、あぁ? ……電話?」
グリフォンの耳元で響いたのは、設定しておいたアラームではなく着信音だった。
時刻は午前七時三十分。仕事絡みにしろプライベートにしろ、電話をかけてくるには、まだ少しばかり早い時間である。
画面を見てみれば表示されている名前は『C』──サンドリヨンだ。
あの真面目そうな娘が、意味もなくこんな時間に電話をしてくるとは思えなかった。もしかしたら「クラークの後継者」の件で何か進展があったのかもしれない。
グリフォンが通話ボタンを押すと、緊迫したサンドリヨンの声が聞こえた。
『もしもし……私です』
「おぅ、どうした嬢ちゃん」
『お願いです、助けてください……私、もう、どうしたらいいか……うっ……ぐすっ……』
サンドリヨンの声は嗚咽混じりで震えていた。
これは只事じゃない。
「嬢ちゃん、どうしたんだ? 何があった?」
『……お城の裏庭で待ってます……誰にも見つからないように来てください……イーグルにも、言わないで……』
そこで不自然に通話が途切れる。携帯電話から響くツーツーという音が、やけに耳に残った。
嫌な予感に胸がざわつく。
「……なんか、やばい事態なのか?」
グリフォンはすぐさま裏庭へと向かった。正面の庭は人の出入りがそれなりにあるが、裏庭は日のあたりが悪く、手入れもさほど行き届いていないので、人の出入りはほとんど無い。
この季節は少々肌寒いことをのぞけば、密会をするには最適な場所だった。サンドリヨンがそんな場所を知っていることにほんの少しの違和感を覚えたが、非常事態かもしれないという焦りがそれを打ち消す。
サンドリヨンは城の外壁にもたれて俯いていた。地味な服装、化粧っ気のない気の強そうな顔立ち、間違いなく本人だ。
「嬢ちゃん、どうした。何があった?」
グリフォンが話しかけると、サンドリヨンは顔を上げてグリフォンを見上げ、顔をしかめた。
「おじさん、タバコ臭いー、近寄んないでー」
「………………へ? え? じょ、嬢ちゃん……?」
サンドリヨンは鼻をつまんで、手をパタパタとさせている。
そりゃ確かに徹夜で調べごとをしている間、ずっと煙草を吸い続けてはいたけれど。
そんなに臭うか!? と自分の服の袖をクンクン嗅いでいると、背後でガサリと音がした。
「見損なったぜ、グッさん。まさかの援交かよー」
「げぇっ、ウミネコ!?」
なんでこんなところにウミネコがいるのだ。しかも援交扱い。
何から言い訳するべきか頭を悩ませていると、首にひんやりと冷たい何かが触れた。目だけを動かして見れば、グリフォンの首筋に押し当てられたナイフが、ギラリと朝の光を反射している。
「……お前を信用に足る人物だと評価した、昨日の自分を殺してやりたい気分だぜ」
グリフォンの背後で、殺気を撒き散らしてナイフを構えているのはクロウだ。
グリフォンは思わずサンドリヨンに向かって叫んだ。
「おい、サンドリヨンの嬢ちゃん、説明してくれ! 何がどうなってんだ!?」
「オジサン、見る目なーい。節穴ー」
サンドリヨンは彼女らしからぬ語尾を伸ばした喋り方で、唇を可愛らしく尖らせる。
残念だったな、と背後のクロウが低く呟いた。
「そいつはサンドリヨンじゃない。オデットだ」
「はぁ!?」
目を剥くグリフォンの前で、サンドリヨン──もといオデットが、目元をハンカチで拭う素振りをしながら言う。
「『お願いです。助けてください…… 私、もう、どうしたらいいか……うっ、ぐすっ……』」
それは、まさしくグリフォンが電話で聞いた声だ。
言葉を失うグリフォンに、オデットはちろりと舌を出してみせる。
「……今の、超お姉ちゃんっぽくない?」
何故、クロウとウミネコがイーグルの姫のオデットと結託しているのかは分からない。
だが、これだけは言える。自分はハメられたのだ。
青ざめるグリフォンに、クロウが低い声ですごんだ。
「さぁ、白状してもらうぜ。お前とイーグルは、サンドリヨンを巻き込んで何を企んでいる?」
グリフォンはゴクリと唾を飲み、口を引き結んだ。
下手な発言をして情報を相手に与えてしまうのは得策ではない。
(だが、どういう状況なんだ、こりゃ……)
クラークの後継者探しをしているグリフォンを襲ったということは、こいつらがクラークの後継者なのだろうか? ……否、恐らく違う。
この場にサンドリヨンがいないこと、サンドリヨンの携帯電話からオデットが電話をかけたことから察するに、サンドリヨンの身に何かが起こったのだ。
そして、クロウ達は携帯電話のアドレスからグリフォンとの繋がりに感づき、こうして罠にはめたのだろう。
「グッさん、黙っていても良いことないぜー」
ほらほら、ゲロっちゃいなよ〜。とウミネコがグリフォンの脇腹をつつく。密会に最適なこの場所をクロウとオデットに教えたのは、きっとこいつだろう。
グリフォンはウミネコをじろりと睨みつつ、慎重に言葉を選んだ。
「……サンドリヨンの嬢ちゃんは、お前達に事情を話したのか?」
背後の空気がズンと重くなる。クロウの目はひどく殺気立っていた。
「あいつが何も言わずにイーグルのところに行っちまったから、話が拗れてんだよ」
「嬢ちゃんが黙秘を貫いたんなら、オレが言うわけにはいかねぇな」
「……ほぅ、なぶり殺しがお好みか」
サンドリヨンが黙秘を貫いた理由は容易に想像できる。アリスとの約束を守るためだ。
サンドリヨンはアリスの兄のエディを助けると約束した。そのためにはイーグルの協力がいる。
イーグルの協力を得るためには、地下で見つけた薬やクラークの後継者の件も含めて、クロウに話すわけにはいかない。
「……オレが口を割っちまったら、嬢ちゃんが守ろうとしたモンが無駄になっちまうんだよ」
ウミネコが、ふぅんと微かに目を細める。
「つまり、何かを守るために、イーグルの言いなりになってるわけだ。グッさんもサンドリヨンちゃんも」
相変わらず変なところで勘の鋭い男だ。
だが、こいつらは一体何をどこまで把握しているのだろう。クラークの後継者のことや、あの薬のことは知っているのだろうか?
なんにせよ、自分が口を割るわけにはいかない。
自分が口を割ったら、イーグルの協力を得られなくなってしまう。そしたら、アリスの兄を助けられなくなる。
「……オジサン、もうイイんだ」
少し離れたところから響いた声に、グリフォンはギョッと声の方角を振り向いた。
静かな足取りでこちらに歩み寄ってくるのは、アリスだ。
「オジサンもオネーサンも、ボクのために隠しごとしたんだよね。でも、もうイイんだ。全部話すよ。だからオネガイ、ナイフをおろして」
クロウはしばし考える素振りを見せたが、素直にナイフをコートにしまった。
それでも、すぐに攻撃ができるようにと油断なく身構えたまま、アリスをじろりと睨む。
「お前は……アリスとか言ったか。なるほど、サンドリヨンもグリフォンも、お前を庇っていたわけか」
「ボクのお兄ちゃんを助けるのに、イーグルの協力が必要だったんだ。でも、イーグルは力を貸す代わりに、他の人に事情を話しちゃダメって言ったの」
ようやく腑に落ちた、という顔をしたウミネコが、そこで「んんっ?」と首を捻る。
「ちょい待った。そこのアリスとかいうチビの兄貴を助けるために、グッさん達はコソコソ動いてたんだよな? イーグル主体になって」
「あぁ、そうだ」
グリフォンが相槌を打ち、アリスもこくりと頷く。
ウミネコが眉をひそめた。
「それと、サンドリヨンちゃんがクロちゃんの薬を持ち出すのと、どう繋がってんだ?」
グリフォンは耳を疑った。
サンドリヨンがクロウの薬を持ち出した?
「待て、待て、どういう状況だ? そもそも、サンドリヨンの嬢ちゃんはどこにいる?」
「あれ、言わなかったっけ? サンドリヨンちゃんが、クロちゃんの薬……グロリアス・スター・カンパニーの新薬を持って、イーグルの所に駆け込んだんだよ。で、そこにクロちゃんが駆けつけて修羅場んなって、ぶち切れたクロちゃんは当て付けみたいに姫のトレードを提案。オデットちゃんを連れて帰りましたとさ。ちゃんちゃん♪」
ウミネコの説明に、クロウが頬をヒクヒクと震わせた。
「……悪意のある要約をありがとよ」
グリフォンは必死に思考を巡らせる。
サンドリヨンがクロウの薬を持って、イーグルの元に駆け込んだ。なるほど、だからクロウがブチ切れているのか。
だが、グリフォンには「薬」というワードがやけに引っかかった。
「おい、その薬っつーのは、もしかして普段の身体維持に使っているのとは別のモンか? まさかと思うが『身体能力が上がる』っつー売り文句で、甘ったるいにおいのするピンク色の錠剤じゃねぇだろうな?」
グリフォンの言葉に、クロウは目を見開いた。
「……何故、知っている?」
あぁ! やっぱりそういうことだったのか!
グリフォンは頭をかきむしりたい衝動に駆られた。
イーグルは、クラークの後継者にスポンサー企業が一枚噛んでいると言っていた。
(よりにもよって、グロリアス・スター・カンパニーかよ!!)
サンドリヨンは恐らく、クロウの荷物の中からあの禁忌の薬を見つけてしまったのだ。
そして、クロウを助けるためにイーグルの元へ行った。
「……オネーサンはクロウを守ろうとしたんだ」
アリスも状況を理解したのだろう。沈痛な面持ちでポツリと呟く。
クロウがアリスとグリフォンに詰め寄った。
「……どういう意味だ? お前らは、あの薬が何なのか知っているのか?」
やはり、クロウは何も知らないのだ。
(……だいたい状況が見えてきたぞ)
恐らくクロウは、サンドリヨンが薬を持ち出してイーグルと接触したところを見てしまったのだ。
おおかたクロウは、サンドリヨンは決勝戦でイーグルに勝たせるためにクロウを裏切ったのだと誤解したのだろう。
「クロウ、同じ質問をそっくりそのままお返しするぜ。お前さんはあの薬が何だか知っていたのか?」
「……グロリアス・スター・カンパニーが新開発した身体強化薬だ」
「そう言ったのは、お前んところの主任か?」
「そうだ」
「念のために訊くが、まだ飲んではいないんだな?」
クロウは躊躇っていたが、コクリと小さく頷く。良かった、とりあえず最悪の事態だけは免れた。
(だが、どうしたもんかね、この状況)
クロウは恐らく、あの薬を摂取した者の末路を知らない。
……つまり、グロリアス・スター・カンパニーにとって、クロウは使い捨ての駒ということだ。
クロウに真実を話すことは、お前は切り捨てられたのだという死刑宣告に等しい。
グリフォンが言葉に詰まっていると、アリスが一歩前に出て、クロウを見上げた。
「オニーサンは、グロリアス・スター・カンパニーとサンドリヨンのオネーサン、どっちが大事?」
「は?」
「オニーサンの身柄を保証してくれるグロリアス・スター・カンパニーと、オニーサンを裏切ったかもしれないサンドリヨンオネーサン、どっちを選ぶ?」
アリスの問いかけにクロウがたじろぐ。
腕組みをして聞いていたウミネコが、片眉を持ち上げて口を挟んだ。
「その質問は意地悪くね? グロリアス・スター・カンパニーを敵に回すのって、クロちゃんにとって自殺行為だぜ?」
そう、キメラであるクロウはグロリアス・スター・カンパニーに逆らったら、生きていけない。
それでも、アリスは強い口調で言った。
「真実を知りたかったら、覚悟を決めて」
「……覚悟?」
おうむ返しに呟くクロウに、アリスがコクリと頷く。
「そう、覚悟。グロリアス・スター・カンパニーを敵に回す覚悟はある?」
* * *
サンドリヨンとイーグルの密会を見た時、クロウは思い知らされた。自分はサンドリヨンの王子様にはなれないのだと。
いつだったか、月島が嗤いながら言っていた。
『お前の命なんて、都会の鴉と同じさ。死んでも誰も悲しまない。ゴミ同然』
それなのに、ゴミ同然の彼にサンドリヨンは言ったのだ。
死んでほしくない、クロウが死んだら悲しい、と。
何度クロウが酷いことをしても、暴言を吐いても、あの女は時に言い返し、時にじっと耐え、そして最後は必ずクロウに手を差し伸べてくれた。
だからこそ、クロウは知らなくてはいけない。
あの雨の中、サンドリヨンがあんなに苦しそうな顔をしていた理由を。
……たとえ、真実が残酷だとしても。
「……今度は、オレが手を差しのべる番なんだ」
グリフォンが、どこか哀れむような目でクロウを見る。
「グロリアス・スター・カンパニーを敵に回したとしてもか?」
「とっくに見限られている身だ」
たとえイーグルに勝利しても、あとどれだけ生きられるというのだろう。
この先、グロリアス・スター・カンパニーが気紛れにクロウを棄てるかもしれない。もしかしたら試合で死ぬかもしれない。
だったらせめて、何も知らないまま死にたくはない。全てを知って、その上で……
(……死ぬなら、あいつのそばがいい)
クロウは革手袋が軋むほど強く拳を握りしめ、言った。
「真実を、教えてくれ」
アリスは、コクンと一度だけ頷く。
「イイヨ、話す。ボクが隠していたコトも……グリフォンのオジサンにも話していなかったコトも、全部」
そしてアリスは、その青い目をウミネコと美花に向けた。
「そっちの二人はどうするノ? 話を聞いたら、もう戻れないよ」
言ってしまえば、この二人は今回の件にほぼ無関係だ。美花ですら、イーグルの企みに深くは関わっていないだろう。
だが、ウミネコと美花の返事は早かった。
「ここまで聞いて、引き下がるとかないだろー」
「お姉ちゃんが関わってるなら、無視できるわけないじゃん!」
アリスは、グリフォン、クロウ、ウミネコ、美花を順番に見つめ、一度だけ頷いた。
「……うん、分かった。それじゃあ行こう……この件に、最も深く関わっている人へ会いに」