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朝の雨

作者: 車男

 「うわあ、びしょびしょ・・・」

5月、まだ梅雨入りはしていないものの、今朝の雨はすごかった。普段は自転車で来る通学路を、バスと徒歩できた私は、バス停から校門までの坂道で坂を下る雨の流れのせいでローファーも靴下もびしょびしょ。傘をさしていたものの、あまりの雨の強さで制服のセーラー服もしっとりと湿ってしまった。

「靴下もびしょびしょ。脱ぎたいけど、素足はやだし・・・」

こういう日に限って替えの靴下を持ってき忘れていることに、カバンの中を見て気が付いた。制服は何とか乾きそうだけど、びしょ濡れの靴下は一日経っても乾かないだろう。

「このままいくしかないか・・・」

水を吸って重くなったローファーをぐぽっと脱ぎ、床に置いた上履きに足を通す。しかし、濡れた靴下を上履きに通した瞬間、あまりの気持ち悪さに脱いでしまった。なにこの気持ち悪いの・・・!濡れた靴下のまま上履きって、ムリだ・・・!かといって素足で上履きを履くのは嫌だし・・・。

「とりあえず上履き持って、靴下のままいこう・・・」

道が混むかと思って、始業の1時間前に着くバスできたが、そんなに混まなかったために、始業まであと30分以上ある。雨のせいもあって生徒の姿はまだ昇降口にも校舎内にもなかった。これなら靴下のまま歩いてても人に見られずに済む。


 ローファーを靴箱に入れて、上履きを手にもち、白い靴下のまま廊下へと進む。一歩一歩足を床につけるたびにくちゅ、くちゅ、と不快な感覚が足元を包む。5月とあって気温はそこそこ上がっているものの、濡れた靴下で歩く廊下はひんやりと冷たい。うしろを振り返ると、白いタイルの床に湿った足跡が点々と残っている。うわあ、すごく恥ずかしい・・・。早く教室に行こう・・・!

階段を4階まで登り、自分の教室にたどり着くと、まだ鍵が開いていなかった。クラスの決まり上、クラス委員が鍵を持ってくることになっているが、あまりに早く来すぎたらしい。待っておくのも手持無沙汰だし、とってくるか。荷物一式(上履きも)を廊下に置いて、職員室へとペタペタ歩く。コンクリートのたたきの渡り廊下を通っていると、歩いた跡が黒いしみになって、廊下を歩くより足跡が目立ってしまった。

 

 無事に鍵を受け取って教室へ戻ると、クラスメイトの雨美ちゃんが待っていた。ポニーテールに少し早めの半そでのセーラー服がよく似合う、テニス部の女の子。

「あ、おはようユーナちゃん!雨、すごかったね!制服濡れちゃったよー」

そう話す雨美ちゃんは、上履きを素足で履いていた。靴下が濡れちゃったのかな?

「おはよう。私も、全身濡れちゃって、すごく気持ち悪い・・・」

「カッパ着て自転車で来たんだけど、靴は守られてなくてさー。ローファーも靴下もびしょびしょだよー。今日一日裸足かなー。」

「あ、そうなんだ・・・」

私は素足の足元が気になりながら、教室のカギを開けて中へと入った。もわっと湿った空気が体を包む。クーラーは今週から入るらしいからスイッチを付けてみると、無事に28度設定で動いてくれた。

上履きを椅子の下に、荷物を机に置くと、まだ激しく雨の降る外を見てみる。隣に雨美ちゃんもやってきた。ポニーテールの髪をいったん解いて、タオルでごしごし拭いている。私もカバンからタオルを取り出してみたが、雨を少し吸って、これもやや湿っていた。仕方ないから、そのまま肩まで伸ばした髪を拭いておく。

「ん?そういえばユーナちゃん、上履きは?靴下のままじゃん?」

雨美ちゃんが足元を気にしながら聞いてきた。

「あー、これ・・・?」

私も自分の足元に視線を落とすと、雨美ちゃんは上履きを自分の席に脱ぎ置いて、裸足で床に立っていた。濡れて気持ち悪いのか、足の指をもにもにと動かしている。

「私も靴と靴下ぬれちゃってさ、上履き履くのやだなって思って、とりあえず持っては来たんだけど・・・」

「やっぱローファー濡れちゃうよねー。でもさ、靴下汚れちゃうよ??」

「え、ウソ!?」

あまり気にせずにペタペタと校内を歩いていたけれど、靴下の足裏を見てみると、雨で湿った靴下には足形に真っ黒な汚れがついていた。

「やだ、真っ黒!?」

あわててはたいてみるけれど、全く効果はなかった。

「あははー、足跡ついてる、かわいー」

けらけらと笑う雨美ちゃんを見ていると、あまりこれも気にならなくなってしまった。

「もー、そんなに笑わないでよ、恥ずかしいなあ・・・」

「あはは、まあ、今日は仕方ないよー。きっとみんな濡れてくるんじゃないかな??」

「だよねえ、まだ結構降ってるし・・・」

外を見てみると、まだまだ本降りの雨はやみそうにない。傘をさして校門をくぐる生徒の数はまだそう多くはなかった。


 「ねえねえ、ユーナちゃんも一緒に裸足になろうよー。あたし一人裸足ってはずかしいよ!」

私の机に座って、足を伸ばして指先をくねくね。今教室に入ってきた人からは、足の裏が丸見えだな、なんて思っていると、誰かが扉を開けて入ってきた。

「あ、おはよう、雨美ちゃん、優雨菜ちゃん、雨、すごいねえ」

タオルで長い黒髪を拭きながら入ってきたのは、学級委員の水奈ちゃん。

「おはよう、水奈ちゃん!やっぱり濡れちゃった??」

水奈ちゃんの足元に目をやると、素足に上履きを履いていた。いつも靴下をきちんと伸ばして履いているから、ギャップがあって少しドキッとした。

「そうなのよね、でも、靴下は替えの持ってきたから、セーフなんだけど、制服が濡れちゃったのはやだなー」

そういいながら自分の席に着いた水奈ちゃんはおもむろに上履きを脱ぐと、机の棒に素足を置いて、足の指をくねくね・・・。靴下を履くのかなと思ったら、そのまま授業の準備を始めてしまった。素足仲間が増えて、雨美ちゃんは少しうれしそう。私も靴下を脱ごうかな・・・と考えたけど、やっぱり少し恥ずかしい。あまりひどい雨は嫌だけれど、みんなの普段とは違う姿が見られて、少し楽しい一日になりそうだ。


おわり


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― 新着の感想 ―
[良い点] ここのオリジナルの作品は恐らく初めてですね。 こういうテーマの作品は過去にも数回ありましたね。 同テーマの細部が異なる作品を多く書かれることは 各テーマを極めることになりますから良いことで…
2019/05/24 13:20 退会済み
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