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運命の檻

「おい、エル。頼みがあるんだが」


 べべの用事から戻ると、シメオンが僕を呼び留めました。


「なんですか? シメオンが僕に頼みなんて、珍しいですね」


「ああ、わりと厄介な頼み事なんでな。あんたくらいしか頼めるヤツがいない。まず、この報告書だ」


 そう言ってシメオンが差し出したのは、共和国警察の捜査報告書でした。


「これは……そうですか。残念です」


 その報告書は、共和国辺境部で発見された一体のある遺体に関する検死結果が中心となっていました。


 昨日未明、漁港で発見されたその遺体は、死亡後海に放り込まれたものと見られ、損壊が進んでいたものの、身に着けていた宝飾品から皇族であることがわかったそうです。

 報告書ではこれに加えて、本日、検死の結果、年齢、性別その他の身体的特徴から、遺体は皇帝のものであることが明らかになったとされていました。


「皇帝が生きてりゃあ、ギルモア伯の造反から通貨破壊工作まで、すべての裏側がはっきりしたかもしれんが……これで一部の事実は迷宮入りになるだろう」


 共和国公安の捜査は続くようですが、本件に関する政治的な重要性は皇帝の死でガクンと落ちました。僕たちの役目も、終わりとなるでしょう。


「ここから先は、共和国が自ら解決していく問題ですね。それで、相談というのは?」


 僕がそう聞くと、シメオンは常になく穏やかな声で答えました。


「帝国との戦争も終わり、クリオの身に危険が及ぶこともなくなった。俺の役目もこれで終わりだ。国に帰ったら猟師に戻ろうかとも思ったが、運命は俺の罪を見逃してはくれないらしい」


「どういうことです?」


「探し人が見つかった。ルキアの話では、この街にいるらしい。16年前に俺が撃った赤髪の狩人の息子だ。俺に会いたいと言っている」


 宿命の重さに、僕は思わず息をのみ、それからシメオンに聞きました。


「……どうするつもりですか?」


「もちろん会いに行く。それで、あんたにしか頼めないことだが、もし俺が死んだら、誰も罪に問われないよう、取り計らってほしい」


「そんな!」


「エル、これは諦めじゃあない。友を撃ったあの瞬間から、俺の魂は牢獄に囚われたままだ。俺は、俺の魂を救うために行くんだ。頼む」


 シメオンの言葉には、言い訳や投げやりな合理化から生まれたものではない、確かな強さがありました。それだけに、僕はこの頼みを断ることも、彼が死地に赴こうとするのを止めることも、できなかったのです。


「……わかりました。もしもの時は、僕が採り得るどんな方法を使ってでも、あなたの望む通りにします。でも、その代わり、その面会に僕も連れて行ってください」

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