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再結集

 居ても立ってもいられなくなり、僕は港に走りました。

 慣れない帝都の街並みに迷いながら、港の入り口になんとかたどり着くと、警備兵が僕を呼び止めます。


「おい、あんた。この〇〇は〇〇〇だよ。〇〇は?」


「えっ? なんです?」


 彼の言葉がよく聞き取れず、僕はつい聞き返してしまいました。


「あんた、外国の人だな? 〇〇だよ。〇〇見せて」


 警備兵は親切にも何度か単語を繰り返してくれましたが、どうにもわかりません。

 思えば、僕がこれまできちんと会話した人々はかなり上位の階級の人間で、僕やエテルナ様が教育を受けた人間の国の言葉は、上流階級の人間とのコミュニケーションを想定したものだったことを思い出します。


 思わぬところで足止めを食ってしまい、動転した僕は、何を言っていいやらわからず、立ち往生してしまいました。

 そこに、聞き覚えのある声が聞こえてきます。


「“身分証”ですよ。身分証を見せてくれって言ってるんです、エルさん」


「ベベ!」


 見ると、ベベの後ろに、シメオン、レミ姉、それにクリオが歩いてきます。

 僕は思わずその場に立ち尽くし、何も言えなくなってしまいました。

 その僕に、クリオが駆け寄り、手を握って言います。


「エル、よく無事で。でも、私、信じていました。あなたは約束してくれましたから。コクマ村の、満天の星空の下で、もう私を一人にはしないと」


「クリオ……心配かけて、ごめんなさい。でも、僕、エテルナ様を守れました。あの人を魔物の国に帰すことができました」


「ええ、ありがとう、エル。あなたがいてくれたからです。本当にありがとう」


 クリオは涙ぐみながら、いつもの優しい笑顔を見せてくれました。

 シメオンが僕の肩を叩いて言います。


「まさか魔物の国を救ったついでに、人間の国まで救っちまうとはな。エル、あんた魔物の国じゃ、もう俺より有名人だぜ」


 そのシメオンの後ろから、レミ姉が顔を出します。


「でも、まだ終わりじゃなくてよ。最後の仕上げに行きましょう」


 僕は、万感の想いを込めて、みんなの言葉に答えました。


「ええ、ここからは、みんなの力が必要です。戦争を終わらせましょう。僕たちの手で!」




 そうして僕たちは、改めて正式に、人間の国へと入国しました。

 休む間もなく、ルキアたち新政府閣僚候補との非公式会談が開始されます。


「改めてご紹介します。こちらが元ギルモア銀行頭取で、今回の和親条約調印の大使として派遣された、レミリア・ギルモア伯です。そしてこちらが、魔物の国中央銀行総裁のクリオール・クリオール氏。こちらは護衛のシメオン・ヤーシャール准尉。こちらは通訳のベベ・ニーブスです」


 対する人間の国の閣僚たちは、候補者のおよそ半数が参加。残りの半数は、帝都へ向かっている最中ということでした。

 各人の挨拶が終わり、ルキアが本題に入ります。


「和親条約については、その大部分を今後の協議に委ねる形で締結し、まずは双方国内および国際社会に向けた終戦のアピールを目的としたものとしたい。先に魔王エテルナより送られた素案をざっと拝見したが、大筋この内容で合意できると思われる。調印を新国家樹立宣言と同時に行うべく、特急で詳細を詰めさせていただきたい」


 これにはレミ姉が答えます。


「ええ。今回の船では私たちのほかに、魔王府の官僚を帯同しております。そちらの事務方と膝を突き合わせて議論することで、早急な締結が可能と考えておりますわ。細部の裁量はわたくしに一任いただいておりますから、魔物の国の閣僚による決裁は最終確認の一回だけ。なんとしても宣言に間に合わせましょう」


 ルキアは満足げにうなずき、次の話題に入ります。


「ありがたい。加えて、すでに魔王エテルナには直接報告したが、一点大きな問題が発生している」


 レミ姉に代わって、クリオがこれを受けて答えます。


「その件につきましては、先ほどバルトルディ卿より報告を受けました。実は、魔物の国でも管理通貨制移行時に、一部国際的資金の不穏な動きを観測しており、投機家集団による攻撃は予想できていました。今回、ギルモア伯だけでなく、私が同行したのは、この問題に対処するためです」


 クリオの回答に、ルキアはやや首を傾げて、質問を返しました。


「率直に言えば、対処と言っても魔物の国からの資金援助ということになるかと考えていたが、そう単純ではないということか?」


「ええ。脅迫者は通信において大量の金塊を映し出したと聞いておりますが、おそらくそれは彼らの資金力を過少に見積もらせるための逆のブラフです。『売り崩すと言っても、使えるのはあくまで合法的に集めることができた資金だけだろう』という予断を狙っているものと見られます」


 そこで一呼吸置いてから、クリオは驚くべき予想を告げます。


「端的に言えば、魔物の国からの資金援助程度は踏みつぶせるだけの資金力を、彼らは用意していると見るべきかと」


 この発言に、人間の国の閣僚候補者たちがざわめきます。

 ルキアはクリオの目をまっすぐに見て、再び問いました。


「それだけの資金を持った相手に、対処する方法が?」


 クリオは、ルキアの視線を正面から受けながら、この問いにはっきりと答えました。


「はい。私はそのために来ました」

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